東京工業大学(東工大)は6月22日、陸上植物の成長や形態を制御する重要な植物ホルモン「オーキシン」の起源を解明するため、緑藻から陸上植物が出現する過程で分岐した藻類(クレブソルミディウム)のオーキシン応答を解析した結果、その初期応答に「KnRAVタンパク質」が情報伝達因子として働き、同応答を誘導している可能性が高いことを明らかにしたと発表した。

同成果は、東工大 生命理工学院 生命理工学系の太田啓之教授(現 名誉教授)、同・堀孝一助教、同・唐司典明大学院生(研究当時)らの研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

陸上植物は、淡水生の藻類が進化の過程で徐々に陸上環境に適応した結果、誕生したとされており、その適応において重要な役割を果たしているオーキシンの主要な情報伝達経路(核オーキシン経路)も併せて誕生したと考えられている。しかし、同経路で重要な3つのタンパク質(受容体「TIR1/AFB」・抑制因子「Aux/IAA」、転写因子「ARF」)を完全に備えた藻類は未発見だ。一部の藻類はこれらのタンパク質を構成するタンパク質ドメインを持っているが、その機能も不明で、植物の核オーキシン経路の起源は大きな謎だったという。

研究チームが、核オーキシン経路の起源を解明するために着目しているのが、緑藻類から陸上植物が出現する過程で分岐した「ストレプト藻類」、中でも、陸上植物の出現にいたる過程の初期に分岐したクレブソルミディウムだ。同種は、核オーキシン経路に関わるタンパク質を持っていないにも関わらず、オーキシンを生産し、細胞の分裂や伸長に影響する何らかのオーキシン応答を持っていることがわかっている。

  • ストレプト藻類の推定分岐年代とクレブソルミディウムの系統的位置。

    ストレプト藻類の推定分岐年代とクレブソルミディウムの系統的位置。分岐年代は、Morris J.L., et al. PNAS (2018), Jiao C., et al. Cell, (2020)が参照されている。(出所:東工大プレスリリースPDF)

オーキシン応答の実体を解明することは、陸上植物の核オーキシン経路の起源を明らかにし、植物が陸上で繁栄した要因の1つを理解することにつながるという。そこで今回の研究では、クレブソルミディウムのオーキシン情報伝達因子を同定し、陸上植物の核オーキシン経路の起源を藻類側から迫ることにしたとする。

研究チームはまず、クレブソルミディウムの遺伝子から、オーキシンに顕著に応答する遺伝子とまったく応答しない遺伝子を選び、応答する遺伝子の上流に特徴的に存在する配列を探索した。その結果、特に「RYモチーフ」と呼ばれるCATGが連なった配列が顕著に存在することが確認された。

  • オーキシン応答遺伝子の上流に特徴的に存在した配列。縦軸がオーキシン応答遺伝子に存在する期待値、横軸がオーキシン非応答遺伝子に存在する期待値。図左上にプロットされる配列ほどオーキシン応答遺伝子の上流領域に顕著に出現することを示す。

    オーキシン応答遺伝子の上流に特徴的に存在した配列。縦軸がオーキシン応答遺伝子に存在する期待値、横軸がオーキシン非応答遺伝子に存在する期待値。図左上にプロットされる配列ほどオーキシン応答遺伝子の上流領域に顕著に出現することを示す。(出所:東工大プレスリリースPDF)

同モチーフには、DNA結合ドメイン「B3ドメイン」が結合することから、クレブソルミディウムではB3ドメインを持つタンパク質がオーキシン応答に関与している可能性を考察。同ドメインを持つ8遺伝子の中に、クレブソルミディウムのオーキシン応答に関わる情報伝達因子が存在すると予想したという。