まず、滑り台では加速してどんどん速くなるというイメージを破って、一定の速度、つまり終端速度に達して滑ることがわかった。これは、動きに逆らうようにはたらく抵抗力が、速くなるほど強くなる際に観測される現象だ。たとえばスカイダイビングのような長時間の落下で観察しやすい。仮に大気がなければ、地球では9.8m/s2の落下速度で地面に到達するまで加速し続けていくはずだが、実際には空気抵抗があるため、落下速度の上限が存在する。それが終端速度である。

  • 今回の研究で得られた結果。物体は終端速度に達し、重い方が速いことが明らかとなった。95.5kgは人が重りを抱えて滑ったもの。

    今回の研究で得られた結果。物体は終端速度に達し、重い方が速いことが明らかとなった。95.5kgは人が重りを抱えて滑ったもの。(出所:立教大Webサイト)

実験の結果、この終端速度は質量が大きい程大きいことが確認された。とりわけ、今回最軽量だった1kgの物体では、歩く程度のゆっくりとした速度で滑る様子が観測されたという。これらのことから、以下2点の知見を定性的に得ることができたとする。

  1. 終端速度の存在から、抵抗力は速度の増加関数であること
  2. 終端速度は質量の増加関数であること

これを通常の斜面における摩擦力の枠組みで捉えると、動摩擦係数に速度依存性と質量依存性があると解釈できることが示されているとする。つまり、重い人ほど滑り台を速く滑るのは気のせいなどではなく、質量が大きい程、終端速度が大きい現象による結果であることが明らかにされたのである。

一方、今回使用された滑り台はローラー式のものだったことから、教科書で想定されている伝統的な金属板式滑り台に対しても同様の観測を行ったとのこと。すると、観測した範囲内では動摩擦係数が一定であることと矛盾しない結果となったとする。このことから、今回の「滑り台では重い人ほど速く滑る」という疑問は、実はローラー式に限定されている可能性も考えられるとしている。ただしこれは、金属板式滑り台は長いものが少ないためかも知れず、長い距離を滑れるものや、パイプ式、石材製など違うタイプの滑り台で試せば、また異なる結果を得られるかもしれないとしている。

今回の結果について研究チームでは、これを力学の動摩擦力の問題として扱うのであれば、通常は一定値を取ると学習する動摩擦係数に、実際には強い速度依存性と質量依存性があると解釈できることを意味しているとした。

  • 測定当日、重りを抱えて滑る論文主著者の塩田氏(合計95.5kg)。末端で最高速度2.7m/sに達した。

    測定当日、重りを抱えて滑る論文主著者の塩田氏(合計95.5kg)。末端で最高速度2.7m/sに達した。(出所:立教大Webサイト)