実験の結果、DIY条件では右腹外側前頭前野/前頭極、左腹外側前頭前野、左背外側前頭前野/前頭極が活動し、Non-DIY条件では右腹外側前頭前野/前頭極の活動が確かめられた。同時に、DIY条件の方がNon-DIY条件に比べて、左背外側前頭前野/前頭極の活動が有意に大きいことも明らかにされた。このことから、左背外側前頭前野/前頭極がIKEA効果のメカニズムに関連することが推測されるという。これらの領域は愛着と記憶に関連する脳領域であることが明らかとなっており、IKEA効果に関する脳領域として妥当なものと考えられるとしている。

  • fNIRS計測結果。WTP評価時における脳活動部位を赤で示す。fNIRSを用いてDIY条件、Non-DIY条件におけるWTP評価時中に活動した脳活動部位を可視化した。脳機能の活動があった部位に活動の強弱が色分けされている。脳の図に表記されている数字の「49」は左背外側前頭前野/前頭極、「46」は右腹外側前頭前野/前頭極、「39」は左腹外側前頭前野に位置する

    fNIRS計測結果。WTP評価時における脳活動部位を赤で示す。fNIRSを用いてDIY条件、Non-DIY条件におけるWTP評価時中に活動した脳活動部位を可視化した。脳機能の活動があった部位に活動の強弱が色分けされている。脳の図に表記されている数字の「49」は左背外側前頭前野/前頭極、「46」は右腹外側前頭前野/前頭極、「39」は左腹外側前頭前野に位置する(出所:中央大プレスリリースPDF)

いずれの条件においても活動が見られた右腹外側前頭前野/前頭極は、製品のWTP評価を行っているために活動していることが推測された。右腹外側前頭前野はfMRIを用いた複数の研究において、経済的意思決定と関連することが示されているという。

次に、DIY商品に対してのみ活性化したうちの左腹外側前頭前野は、過去の記憶の想起と関連していることがわかっている。今回の実験では、WTP評価時に参加者が商品の画像を見ている時に、DIYの記憶の想起が起こることが推測されるとする。このことから、左腹外側前頭前野の活動は、DIY製品のWTP評価中に起こる記憶想起機能を反映していると考えるのが妥当だという。また、左背外側前頭前野の中前頭回は、記憶を価格などに変換する際に活動することが報告されており、DIY商品評価時に活動が高まるという今回の結果は妥当性が高いと考えられるとする。

さらに、DIY条件における前頭極領域と左背外側前頭前野の活動は、愛着と関連があることが明らかにされている。DIYを行うことで製品に対し愛着が生じるという先行研究を踏まえ、この領域の活動がDIYを行うことによって生じる愛着を反映している可能性が高いことが推測されるとした。

研究チームはこれらの結果から、DIY体験中に商品への愛着が生まれ、WTP測定時にDIY商品の画像を見ることでDIY体験の記憶が想起されたという解釈が、最も妥当と推測できるとする。そして今回の研究成果は、愛着と記憶の関連性によってもたらされていると推測されるIKEA効果の、神経基盤における根底の一部を明らかにできたといえるとしている。

IKEA効果の重要な認知要素とされる記憶と愛着の2つの因子は、食べる体験など、ほかのコト消費とも関連している可能性がある。研究チームは、fNIRSを取り入れた今回の実験デザインは、今後ほかのタイプのコト消費の神経基盤を検証する際の参考となり得ると考えているとした上で、IKEA効果のメカニズムをさらに解明するためには、fNIRSの多くの長所を活かした体験型消費の価値の定量化に関するさらなる研究が必要だとしている。