2022年7~8月に開催されたタクティカルFPS『VALORANT』初の女性大会「VALORANT Championship Tour Game Changers(VCTGC) Japan」で優勝したプロeスポーツチーム「FENNEL」の『VALORANT』女性部門。続く東アジア大会「Game Changers East Asia」でも優勝を果たし、日本代表として、女性限定の世界大会「2022 VALORANT Game Changers Championship」に出場しました。
そんな「FENNEL」で、世界大会にも出場したKOHAL選手は、2023年2月にプロゲーミングチーム「ZETA DIVISION」へ移籍。なぜ別のチームへ移る選択をしたのでしょうか。新天地で新たな挑戦を始めたKOHAL選手に今後の目標や、Twitchでの配信を含む活動内容について話を聞きました。
――まずは自己紹介をお願いします。
KOHAL選手(以下、KOHAL):プロゲーマーのKOHALです。今はプロゲーミングチーム「ZETA DIVISION」に所属しています。年齢は26歳です。
――ゲームを始めたきっかけを教えてください。
KOHAL:子どものころは、あまりゲームをやっていなくて、本格的に始めたのが5~6年前。きっかけは、MacBookを買ったことです。スタバでMacBookを開いていたらオシャレだなって思って買ったんですよ(笑)。
でも、そんな理由なのであまり使い道がありませんでした。とりあえずゲームしてみようかなって思って、Macで遊べる数少ないタイトルのなかから『Counter-Strike:Global Offensive(CSGO)』を選んだのが最初ですね。
――カジュアルに遊ぶのではなく、最初から上達を目指していたのでしょうか。
KOHAL:『CSGO』を始めた当初は、日本人プレイヤーが少なかったこともあり、海外プレイヤーとよくプレイしていたんですが、暴言を吐かれることが多かったんです。それが悔しくて、うまいプレイヤーの配信動画を観て、勉強しましたね。MacBookでは限界があったので、WindowsのゲーミングPCも購入しました。
――『VALORANT』へ移行した理由を教えてください。
KOHAL:『CSGO』で仲良くなった日本人プレイヤーがみんな『VALORANT』に移っていったタイミングで、私もプレイするようになりました。
そのときは『Apex Legends』をプレイしていたんですけど、チーター(チートと呼ばれる不正行為をするプレイヤー)が多くて、ランクを上げようとがんばることに意味があるのか疑問を抱くようになり、『VALORANT』への移行を決めました。
――そのあとプロゲーミングチームの「FENNEL」に入るわけですが、どのような経緯があったのでしょうか。
KOHAL:「FENNEL」のLen選手が私のプレイを観て、トライアウトに誘ってもらいました。
――女性大会の開催が決まったときはどんな気持ちでしたか。
KOHAL:大会が開催されることにはみんな喜んでいましたね。ただ、発表の段階では自分が出るとは思っていませんでした。
いざ、目指すことになったら、練習時間がとてつもないことになりました。日本大会ではフルタイムで活動していなかったんですけど、東アジア大会あたりからフルタイムに切り替わり、1日の大半『VALORANT』のことを考えていました。
――世界大会を経験して、日本と世界の違いは感じましたか?
KOHAL:『VALORANT』については、日本のほうが盛り上がっていますね。視聴者数や観客数は日本のほうが全然多いですし、ファンの熱量も高く感じます。
あと、eスポーツとは関係ないんですけど、やはり海外はちょっと怖い印象がありますね。普段はバラバラに行動するチームメイトとも「みんなで集まって手をつないで歩こうね」みたいに話していました。英語を理解できるメンバーもいなかったので、滞在中の生活や宣材写真撮影のポーズ指示などでも苦労しましたね。大変でしたけど、楽しかったです。
――今回、「FENNEL」から「ZETA DIVISION」へ移籍したのはどんな理由があったのでしょうか。
KOHAL:女性限定の世界大会「2022 VALORANT Game Changers Championship」では、「Team Liquid」と「GUILD X」に負け、2連敗で終わる悔しい結果となりました。その経験を踏まえたうえで、「まだ上に行ける気持ち」と「上に行きたい挑戦心」が芽生えたんです。
自分の力を試す意味でも、新しい環境で挑戦してみようと、「ZETA DIVISION」への移籍を決めました。「ZETA DIVISION」はVALORANT部門が世界3位を獲得したチームです。この成績が、メンバーのフィジカル面含めた強さや、バックアップ陣のサポート力を証明していることに加えて、自分と同じ熱量で挑めると思えたことも魅力的でした。
――新加入として「ZETA DIVISION」のメンバーに馴染むのは難しかったのではないでしょうか。
KOHAL:すでにチームがあって、あとからそこに参加したので、丁寧な付き合いは心がけましたが、みんな快く受け入れてくれて、すぐに馴染めましたね。
また、「ZETA DIVISION」のメンバーは、プレイヤーとしてなんでもできる人が多かったんです。イニシエーターやコントローラーなど、いろんな役割ができたので、私が得意なエージェントを優先し、チームのメンバーが合わせてくれました。
――eスポーツは老若男女、障がいの有無に関わらず参加できることが魅力ですが、女性や少年など限定大会も門戸を拡げるためには必要だと思います。現状において、女性チームの存在意義はどのように感じていますか。
KOHAL:男女に関わらず、異性と話したり、接したりすることが苦手な人っているんですよね。そういう人がいることを考えると、女性チームの必要性を感じます。また、同性のほうが仲良くなるスピードも速いですし、コミュニケーションしやすいため、それが上達につながることもあるんじゃないでしょうか。
――ゲーム内のスキルや立ち回りなどで男女の差を感じたことはありますか。
KOHAL:女性はセットプレイが綺麗だったり、エイムが落ち着いていたりすると聞いたことはあります。ただ、私自身はあまり違いを感じてないですね。世界大会のときもフィジカルが強い女性プレイヤーはいました。
今は、女性プレイヤーより長い期間FPSをプレイしている男性プレイヤーが多いので、経験値の差から、ゲーム内でもスピーディに的確な動きができるんだと思います。また、母数の差もあるでしょうね。
あと5~6年経って、女性プレイヤーの数が男性プレイヤーと変わらなくなり、経験値の差も埋まってきたら、スキル面でも追いつけると思います。
いま『VALORANT』が盛り上がって、プレイヤーの男女比率も半々くらいになっていると聞きます。そこで『CSGO2』がリリースされたらどうなるのか、興味ありますね。
――ゲームに対する向き合い方についてはいかがでしょうか。
KOHAL:たとえば、女性はネイルに行ったり、服を買ったりと美容にコストをかけますよね。それらを捨ててまでゲームをするかと言ったら、そうではない人が多いのかな。私はネイルもしませんし、化粧もしなければ、短パンとTシャツがあれば過ごせます。そういう面で、ゲーム1本に集中しやすい環境があるのかもしれません。
また、表に出てこないけど、腕が立つ女性プレイヤーって結構いるんです。そういう人たちが競技シーンに出てこない理由は、おそらく「顔出ししたくないから」だと思います。それで大会出場を諦めた人を実際に何人か見ていますし。
なので私がどんどんメディアに出ていって、「こんなヤツでも出られるのか、じゃあ出ようか」と思ってもらえるようにがんばりたいと思います。
――露出があると、いろいろ言われることも増えますよね。
KOHAL:実際「女性だから負けた」「女性だからフィジカルが弱い」と言われることはありますが、言葉そのものは気にしていません。
負けて文句言われるのはどの界隈でも同じ。ただ、自分自身の能力やスキルの結果だと思うので、そこに「悔しい」「悲しい」という気持ちはあります。
――現時点だと女性チームとしての活躍を目指すことも、男女を問わず最高峰を目指すこともできると思いますが、どのような目標をたてていますでしょうか。
KOHAL:『VALORANT』の大会は出られる限り、なんでも出たいと思っています。VCTGCで優勝したいですし、VCTでも戦えるようになりたい。なかでも最初にクリアすべき目標はVCTGCで世界一ですかね。
「VALORANT Challengers Japan Split2」にも参加しました。1戦目は勝ったものの、「Murash Gaming」と「AMORIS Vega」に負けてグループを突破できませんでした。
ただ、点数的にも試合内容的にも大きな差は感じられず、まだ私が入ってから1カ月程度でもあるので、これからの練習量で負けなければ戦っていけると実感できました。
――これからの練習ではどこを伸ばしていくべきだと考えていますか。
KOHAL:自分に足りないのは“引き出しの多さ”だと思っています。タイムアウトで考えるのではなく、プレイ中に自信を持ってすぐ行動の「最適解」を出せるようになりたいんですが、そのために必要なのが引き出しの多さ。さまざまなチームと対戦し、経験を積んで、引き出しを増やすことで、瞬時の判断力を高めたいと思います。
――プロ選手として、またTwitchで活動するストリーマーとして今後の目標を教えてください。
KOHAL:選手としては当然ながら勝利することが目標です。そのためには練習しかないと思っています。
ストリーマーとしては、コンテンツが盛り上がればいいと思います。コミュニティができて、ファンが定着してくれれば、試合でも応援してくれるようになると思います。
また、試合で落ち込んだときに、ファンがいることで立ち直れることもあります。配信も大会も観ている人が楽しい、おもしろいと思ってもらえればいいですね。
たとえば、ほかのプロチーム「Fnatic」は、強いだけでなく入場シーンとか魅せてきますし、SNSでダンスの練習風景をアップロードしているんですよね。そういったファンに楽しんでもらえるようなことも率先してやっていきたいと思っています。格闘技が好きなので、試合前の煽りあいみたいなものもやってみたいです。
――最後に今後の活動についてお聞かせください。
KOHAL:VCTGCの世界大会が発表されたので、本戦出場に向けてがんばります! とりあえず予選に向けて鍛えていきます。
いつもいつもファンのみなさま、応援ありがとうございます。うれし涙を見せたいと思います。
――ありがとうございました。
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