次に、CO2のハイドロゲルへの影響を確かめるため、Pec-Ca-CWのpHが測定された。その結果、炭酸水を加えた直後は酸性で、その後短時間でゲルに変化が現れたといい、得られたゲルと大気との界面部分は60分後にアルカリ性に変化し、2日後にはゲル全体がアルカリ性に変化したという。

また、シャーレ内にハイドロゲルを展開し、大気に接している上面とシャーレ底面に接している下面のpHを経時的に測定し、比較したとのこと。すると、上面のpHは下面よりも速く上昇することがわかった。これは、ゲル内部のCO2がゲル表面を介して大気へ拡散すると同時に、ゲル内でCO2濃度の勾配が生じていることを示唆しているとする。

さらに一連の実験から、Pec-Ca-CWは初期pHが低いにも関わらず、最終的にはPec-Caよりも強いアルカリ性に変化することがわかった。これは、エッグボックス構造を形成しないCOOH残基の数が減少することで、よりアルカリ性のゲルとなったためと考えられるという。

研究チームはこの現象をより深く理解するため、異なるpHを有する4種類の炭酸水(pH=3.64~4.96)を用いてハイドロゲルを作製し、特性評価が行われた。その結果、pHの低い炭酸水を使用した場合、高い強度と低い破断ひずみを示すと同時に、最終pHが高くなる傾向が示された。これは、炭酸水中のCO2濃度を調整することで、ゲルの機械的特性やpHを制御できることがを示しているとする。

さらに、Pec-Ca-CWとPec-Caからエアロゲルを調製し、その断面が走査型電子顕微鏡で観察された。そして、Pec-Caのエアロゲルはランダムな架橋構造であるのに対し、Pec-Ca-CWのエアロゲルは均一で強固な六角形構造であることが観察された。また、Pec-Ca-CWには、細長い空隙が観察されたことから、ハイドロゲルの調製過程でCO2が移動することで、特定のネットワーク構造を構築している可能性が示唆されたという。

最後に、Pec-Ca-CWのヒト皮膚線維芽(NHDF)細胞に対する細胞毒性の評価が行われた。その結果、細胞をPec-Ca-CWの共存下で培養しても、NHDF細胞の生存率は低下せず、Pec-Ca-CWは高い生体適合性を有していることが確認された。研究チームはこれらの結果から、今回の研究で調製されたハイドロゲルは医療材料などに応用できることが示唆されたとする。

果物の皮は廃棄される代表的な生ゴミの1つであり、今回の研究成果は食料廃棄物から高機能材料を開発した点で、SDGsの達成に寄与する成果といえるとしている。