映画館や動画配信サービス、またはテレビやオーディオ機器などで目にすることが多い「Dolby Vision」や「Dolby Atmos」という表記だが、これがどういう意味なのかちゃんと説明できる人はそう多くないだろう。なんとなく画質や音質がいい……のかな? というくらいの認識の人がほとんどではないだろうか。
そんなDolby Vision/Dolby Atmosのことをもっと知ってもらおうと、3月10日から13日まで東京・池袋で開催される「東京アニメアワードフェスティバル 2023」(以下、TAAF 2023)において、ドルビージャパンが「アニメ×ドルビー」をテーマにしたシンポジウムを開催し、ドルビー技術のデモブースも出展する。
ドルビーといえばハリウッド作品のような実写映画のイメージで、「なぜアニメ×ドルビーなのか?」と思う方もいるかもしれないが、昨今、多くの劇場版アニメや動画配信オリジナル作品でドルビーの技術が採用されている。
その一例を挙げると、2022年の大ヒット作品『ONE PIECE FILM RED』や新海誠監督の『すずめの戸締り』、『THE FIRST SLAM DUNK』、細田守監督の『竜とそばかすの姫』など、ここ数年の話題作品はほとんどカバーしているといっても過言ではないだろう。それほどアニメ業界でもドルビーの技術が使われており、いまやアニメとドルビー技術は切っても切り離せない関係なのだ。
今回は、TAAF 2023への出展に先立ち、メディア向けに開催された体験会の模様をレポートする。
Dolby Vision/Dolby Atmosってなんだ?
まずは、Dolby VisionとDolby Atmosについて簡単に説明しよう。Dolby Visionとは2014年に発表されたドルビー独自のHDR映像技術で、映像を美しく見せるための高画質化技術のひとつと理解してもらえばいいだろう。
※編注:HDR(ハイダイナミックレンジ)とは、これまでテレビで一般的に用いられてきたSDR(スタンダードダイナミックレンジ)よりも明るさの幅を広げ、色の再現性を高める表示技術のこと
ドルビージャパンでテクニカルマネージャーを務める萩谷太郎氏によれば、高画質化の要素は大きく3つあり、「4K/8Kのように画素数を上げる高解像度」「1秒間のコマ数を増やす高フレームレート」、そして「明るく鮮やかな映像の高コントラスト&高色域」だが、この高コントラスト&高色域を実現するのがDolby Visionなのだ。
映像制作側がDolby Visionを採用することで、映像の輝度の高さや色彩の豊富さ、多彩な黒の表現、暗部の階調などを向上させられ、より美しい映像表現が行える。また、映画のスクリーンや一般家庭のテレビ、スマホ、タブレットなどの視聴機器がDolby Visionに対応していれば、より制作者の意図に近い映像で楽しめる。
一方、Dolby Atmosはコンテンツの音をよりリアルに表現する立体音響技術だ。
これまでにも音の臨場感を上げるためのサラウンド技術は存在したが、それらは主に前後左右に音空間を広げる平面的なものだった。Dolby Atmosはそこに高さの概念を加え、より立体的な音空間を実現できるようになっている。これにより、頭上を飛び交う鳥の鳴き声や、上空を通りすぎる飛行機の音なども再現でき、視聴している映像空間に入り込んだような臨場感を味わえる。
Dolby Atmosが発表された当初は、その立体的な音響を再現するために、サラウンドスピーカーに加えて天井設置のスピーカー、もしくは天井の反射を利用する上向きのスピーカー(アップファイアリングスピーカー)を追加する必要があったが、バーチャライザー技術の進化によって、2ch出力しかないステレオスピーカーやヘッドホンなどでもDolby Atmosが体験できるようになった。本格的なホームシアターを導入しなくても、Dolby Atmosに対応したスマホとワイヤレスイヤホンがあれば、手軽に立体音響を楽しめるのだ。
さらに、このDolby VisionとDolby Atmosの両方に対応した「Dolby Cinema」というシアターも登場している。
明るく色鮮やかな映像と最新の立体音響技術の組み合わせにより、より臨場感のある映像体験ができるのがウリで、2023年3月現在、全国に8つのDolby Cinema対応シアターが存在している。4月には大阪・門真に誕生する「TOHOシネマズ ららぽーと門真」に9つめのシアターが登場予定で、こちらはTOHOシネマズ初のDolby Cinema対応シアターとなる。
Dolby Cinemaに対応したシアターの数はまだ多くないものの、Dolby Vision/Dolby Atmosの両技術によって一歩進んだ臨場感のある映像体験ができるということで、その人気は年々高まっている。今後、Dolby Cinema対応のシアターが増えることを期待したい。
ドルビーの最新技術が生み出す臨場感を体験してきた
メディア向けのデモでは、83型のDolby Vision対応4K有機ELテレビと、7.1.6ch(7.1chサラウンドをベースに、天井に6chを設置した環境)のスピーカーを組み合わせたシアタールームで、Dolby Vision/Dolby Atmos対応コンテンツを視聴した。
今回視聴したのは、Disney+独占配信のピクサースタジオ制作の3DCGアニメ『私ときどきレッサーパンダ』、プロダクションI.G制作のNetflixオリジナルアニメ『SOL LEVANTE』(ソル・レヴァンテ)、2022年公開の劇場アニメ『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』の3本。
いずれの作品でも、Dolby Visionらしい明るく色鮮やかな画質で、暗いシーンでも階調がつぶれず細部までしっかり見ることができた。特に、『私ときどきレッサーパンダ』では、主人公の女の子とその友人たちの肌の質感や、レッサーパンダに変身したときのボリュームのある毛並みなどがリアルに描かれており、Dolby Visionがディティールの再現性の向上にも一役買っていることがわかる。
また、音質面では『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』に注目だ。ドラゴンボールならではの高速バトルシーンでは音が四方八方を飛び回り、ものすごいスピードで戦っていることが音でも伝わってくるので、バトルの臨場感がハンパない。この“音が飛び交う”感覚はDolby Atmosならではの体験なので、ぜひ実際にデモブースに足を運んで体感していただきたい。
なお、TAAF 2023のデモブースではシャープの85型「AQUOS XLED」テレビとヤマハのオーディオ機器を使用。天井が高いオープンスペースのため、フロント+トップのスピーカー構成となるとのこと。
映画を見るときはDolby Vision/Atmos対応シアターを選ぼう
昨今、アニメ作品の映像や音のクオリティの高さは目を見張るものがあるが、その高画質・高音質化の一端を支えているのがドルビーの技術だということがわかる体験だった。映画や動画を見るとき、またはどこのシアターで映画を見るか迷ったとき、さらにはテレビやスマホを購入するときなどは、Dolby Vision/Dolby Atmos対応の有無を目印に選んでみてもいいだろう。
今回の内容はTAAF 2023に出展されるドルビージャパンのデモブースでも体験できるので、これまでDolby VisionやDolby Atmosに触れたことがない方は、ぜひこの週末に池袋に足を運んでみてほしい。