KDDIは3月2日、災害時の対策訓練を公開しました。通信が途絶したエリアを復旧する可搬型基地局の設置訓練や、自衛隊、消防局のレンジャー部隊、海上保安庁との連携など、幅広い訓練内容ですが、今年は特に衛星通信のStarlinkの活用によって、災害対策にひとつの革新が起きていたことが特徴的でした。
小型軽量で可搬性が高いStarlink、災害対策で存在感を高める
災害が発生した際、携帯の基地局やバックボーンとなる光回線などが破壊されたり、電力供給が断絶したりして、被災地エリアの通信が行えなくなることがあります。そうした際に、携帯キャリアは素早い復旧を目指します。
今回の訓練では、首都直下型の大規模災害が発生したという形で、災害対策本部と現場のやりとりが公開されました。KDDIでは、一定規模の災害が発生すると、同社の新宿拠点において災害対策本部が立ち上がります。
首都直下型の場合、東京の多摩監視センターから大阪の監視センターに対して災害用伝言板の立ち上げやサイトへの情報掲載などを依頼。大阪監視センターはサービスを監視し、多摩では被災状況の確認というような役割分担を行います。
もともと、同社では大阪監視センターは東京のバックアップという位置づけでしたが、2021年11月からはミラー化することで、東京と大阪の双方が同じ機能を担い、一方が機能不全に陥っても運用監視を継続できるようにしました。全体を統制する形の新宿の災害対策本部も、被災状況によっては大阪が担うこともできるとのことです。
災害発生後、同社では重要拠点をカバーする基地局に対して優先順位を設定して状況確認、復旧の手配なども行います。社内の車載基地局をリストアップして必要ならば全国から集約して早期の通信回復を目指します。
土砂災害が発生して孤立したエリアに対する復旧作業では、ドローンを用いて被害状況を確認。必要であれば陸上自衛隊に対して支援を要請し、可搬型基地局の持ち込みも図ります。
海岸沿いの被災地域に対しては、海底ケーブルの保守を行うケーブル保守船も活用。時期によっては海外に保守に出ていることもあるため、海上保安庁とも連携をして、船上に設置したLTE基地局によるエリア化や、可搬型基地局の搬送も協力してもらいます。
車載基地局や可搬型基地局で使われるのが衛星通信です。災害時は、基地局の倒壊、光ケーブルの寸断、電力不足などが原因で通信エリアが断絶します。本来の基地局が復旧するまでの間、衛星からの電波をバックホール回線として使ってエリア化することで、被災地の通信を回復させます。
KDDIでは、米Starlinkと提携しており、2023年春以降は車載型、可搬型のいずれにもStarlinkを順次導入します。Starlinkは約7kgと軽量で、アンテナの大きさも57.5cm×51.1cmで薄型サイズ。人が背負って搬送できるため、可搬型基地局としてすぐに移動して設置ができます。車載する場合も、基地局車の屋根に簡単に載せて稼働できます。
これまでKDDIは、船舶型基地局としてVSATアンテナを船舶に積載し、海上から電波を発射してエリア化する仕組みを構築していましたが、VSATアンテナは110cm、137kgと大型。クレーンでの搬入が必要だったので、船舶基地局もより気軽になります。
車載型基地局も小型化、軽1BOXタイプも登場
車載型基地局は車両自体の小型化も進み、新たに軽1BOXタイプも登場。サイズと容量、機動性でバランスの取れた1BOXタイプや、運転しやすいミニバンタイプとバリエーションも増えています。これがStarlinkになれば、より高速、大容量の通信ネットワークを構築できるようになります。
携帯が発する電波をキャッチして被災者の存在を確認するシステムも
Starlinkは被災者の通信環境だけでなく、通信途絶エリアの災害救助にも活用されます。Starlinkでエリアを構築してドローンを飛ばすことで、被災状況の確認や孤立エリアへの物資配送も行えるようになります。
ドローンの活用では、携帯電話電波捕捉システムによる救助活動支援の実用化を目指しています。これは、キャリアを問わず携帯電話が発する電波を捉えることで、被災者の存在を確認するというシステムです。まずはヘリで上空から電波をキャッチして、数百m単位のエリアに人(電波を発する携帯電話)があることを検出。
そのエリアに対してより低空からドローンを使って電波を捕捉することでエリアを絞り込み、最後は人がそのエリアにアンテナを持って入り込み、さらに狭いエリアを同定することで、救助活動を円滑に行えるようにします。雪山のような過酷な山中でも飛行できるドローンを開発しています。
ドローンでは、「3D点群データのリアルタイム伝送」の開発も行っています。ドローンで飛行しながら建造物や地形などの3Dデータを、無数の「点」でリアルタイムに再現する、いわゆる点描と同じ仕組みの技術ですが、送信するには広帯域が必要になるそうです。例えば、実際の試験では26Mbpsほどの帯域が必要だったとのことで、これを圧縮伝送することができれば、4Gクラスでもリアルタイムの送信が可能になります。
これを実現する圧縮技術G-PCC(Geometry-based Point Cloud Compression)が国際標準化されたばかりで、1.2Mbpsほどに圧縮できるようです。今後これを利用したソフトウェアなどが登場する見込みだとKDDIでは説明。これが実現すれば、ドローンで被災地の状況をリアルタイムに3Dで描画、送信できるようになりますそうで、2~3年をめどに実用化できるのではないか、としています。
KDDIでは、こうした技術を駆使することでいざという時の災害復旧、被災地支援などの準備を整えていきます。特に、Starlinkの登場が革新的だったと説明員が口を揃えていたのが印象的。小型化して人が背負って移動でき、設置も30分程度と速く、通信速度も高速であるなど、メリットが大きいとしています。