検証内容としては、沖合観測網を用いた同化結果を初期条件とした場合、下北における波形を正確に予測できたが、津軽海峡対岸の函館での波形は過小評価されたとする。それに対し、HFレーダーを用いた同化結果を初期条件とした場合、若干のノイズが見られたが、下北の津波振幅や津軽海峡で揺れ動く津波の様子が再現されており、観測結果とよく一致することが確認されたとする。
また、予測から2時間後と6時間後の最大振幅についての精度検証が行われたところ、2時間後の2観測点平均の最大津波振幅再現率は沖合観測網では47%、HFレーダーでは63%、6時間後の再現率はそれぞれ46%と70%となり、研究チームでは再現率に差が生じたことについて、HFレーダーが津軽海峡沿岸部の複雑な地形による津波の実流況を詳細に捉えているためと考えられるとしている。
今回の研究から、HFレーダーによるデータ同化を利用した津波予測の有効性が実証されたほか、沖合観測網は津波早期検知には有効だが、沖合観測網を用いた津波のデータ同化予測は、湾地形の沿岸においてやや不利になることが判明したことから、研究チームでは、沿岸から沖合までを面的に観測可能であり、沿岸の複雑な地形による津波の流況を捉えられるHFレーダーと組み合わせることで、より効果的な早期津波予測が実現できるようになると説明している。
また、沖合観測網は数秒かそれより短い観測時間間隔になるが、海洋環境観測向けにチューニングされたHFレーダーの観測時間間隔は数分以上となり、津波周期は10~30分程度であるため、本来なら数分程度の時間間隔が適切としながらも、HFレーダーは観測の時間間隔を短く設定すると面的広がりや観測値精度の低下を招いてしまうことが課題ともしている。今回のトンガ噴火の津波を捉えた時のHFレーダー観測の時間間隔は30分であり、津波周期を踏まえると充分な時間間隔ではなかったという。
なお、今後については、津波観測に備えたシステム検討を行い、津波のデータ同化に最適なHFレーダー観測設定(観測時間間隔、空間分解能や観測値精度)、観測条件や設置コストを考慮した最適な観測環境設定の検討が必要だとしているほか、沖合観測網とHFレーダー観測網を相互利用した津波データ同化手法の開発が重要な課題になるとしている。
HFレーダーは日本列島沿岸地域にいくつも設置されており、今後発生が懸念されている南海トラフ地震に対し、沖合観測網DONETと組み合わせることで、より効果的な津波早期検知と沿岸津波高の高精度な予測を行える可能性があるという。また、インドネシアやチリなど、海外の津波発生地域でも活用できることが期待されるともしている。