さて、ここからは実際の性能をチェックしていこう。メモリはDDR4-3200の8GB×2枚で合計16GB、SSDはPCI Express 4.0 x4接続の製品を搭載している。OSはWindows 11(22H2)だ。まずは、基本性能ということでオフィス系のアプリやビデオ会議、Webブラウザ、画像や動画編集などさまざまな処理でPCの性能を測定する「PCMark 10」を試そう。

  • PCMark 10の結果

PCMark 10は、Web会議/Webブラウザ/アプリ起動の“Essentials”で4,100以上、表計算/文書作成の“Productivity”で4,500以上、写真や映像編集“Digital Content Creation”で3,450以上が快適度の目安となっているが、すべて大幅に上回っている。一般的な処理はもちろん、クリエイティブ用途でも使えるだけのパワーがあると言ってよいだろう。

CGレンダリングでCPUパワーをシンプルに測定するCINEBENCH R23も試しておこう。

  • CINEBENCH R23の結果

マルチコアで17,944、シングルコアで1,748というスコアはモバイル向けCPUとしては非常に高い部類だ。CPUパワーに不足を感じる場面はほとんどないだろう。

また、3D性能を測定する定番ベンチマーク「3DMark」からDirectX 11ベースのFire StrikeとDirectX 12ベースのTime Spy、レイトレーシング向けのPort Royalの結果も掲載しておく。

  • 3DMark-Fire Strikeの結果

  • 3DMark-Time Spyの結果

  • 3DMark-Port Royalの結果

3DMarkの結果だけ見るとデスクトップ版のGeForce RTX 3060以上の性能があると言っても問題ないスコアだ。では実際のゲームはどこまで快適に遊べるのかチェックしていく。まずは人気FPSの「レインボーシックス シージ」と「オーバーウォッチ 2」を試そう。レインボーシックス シージはゲーム内のベンチマーク機能、オーバーウォッチ 2はBotマッチを実行した際のフレームレートを「CapFrameX」で測定している。

  • レインボーシックス シージ

  • オーバーウォッチ 2

レインボーシックス シージは4Kでも平均217fpsと余裕で快適に遊べるフレームレートを出している。軽めのゲームなら4Kでも十分遊べるのが分かる。オーバーウォッチ 2は、描画負荷を軽減するアップスケーラーのFSRに対応したタイトルなので、FSR適用時のフレームレートも計測した。FSRを使わなくてもWQHDで平均74.8fpsと十分快適に遊べるフレームレートが出ている。さすがに4Kになると快適なプレイの目安である60fpsを割り込むが、FSRを有効にすると平均92.9fpsまで大幅に向上できる。

次は、先述したアップスケーラーの「XeSS」に対応するゲームを試そう。XeSSはすでに20以上のゲームで対応しているが、今回はその中から「DEATH STRANDING DIRECTOR'S CUT」を選択した。マップの一定コースを移動した際のフレームレートを「CapFrameX」で測定している。

  • DEATH STRANDING DIRECTOR'S CUT

オーバーウォッチ 2と同じ傾向だ。XeSS未使用ではWQHDで平均91.4fps出ているが、4Kだと60fpsを割り込む。その点、XeSSをパフォーマンス設定にすれば4Kでも平均81.7fpsまで向上可能とその効果の高さがよく分かる結果だ。しかも、XeSSは機械学習を活用しており、FSRよりも高画質になるケースが多い。

最後はレイトレーシングに対応したゲームを実行したい。ここではPCゲームの中でも随一の描画負荷の高さを誇る「サイバーパンク2077」を選択した。このゲームに関しては、レイトレーシング無効、有効の両方を試した。ゲーム内のベンチマーク機能でフレームレートを計測している。

  • サイバーパンク2077

  • サイバーパンク2077 (レイトレーシング)

さすがに重いゲームだけあってレイトレーシングを使わない最高画質設定である「ウルトラ」でもフルHDで平均52.19fpsと60fpsに到達できていない。アップスケーラーのFSR 2.1をパフォーマンス設定にすることでやっと平均63.11fpsだ。まあ、超重量級ゲームを高画質で遊びたい場合はフルHDが限界と言ってよいだろう。レイトレーシングを有効にした最高画質設定の「レイトレーシング:ウルトラ」では、FSR 2.1を使ってもフルHDで平均45.99fpsと60fpsには届かない。平均60fpsを目指すなら、画質設定を1ランクか2ランク落とす必要になるだろう。

しかしながら、サイバーパンク2077は特別に重たいゲームなので、ここまでのテストから本機はデスクトップ向けのミドルレンジGPU並の性能を持っていると言ってよい結果を出している。

また、Arc A770MはAV1のハードウェアエンコードに対応しているのも特徴だ。AV1は容量が少なくて済む低ビットレートでも高画質なのが強みのコーデック。YouTubeなど配信サービスでの対応も予定されており、動画編集やゲームの配信をやっている人の中にはこれだけで購入したいというケースもあるだろう。NVIDIAのRTX 40シリーズでもAV1のハードウェアエンコードをサポートしているが、いかんせん搭載ビデオカードの価格が高価だからだ。すでに動画配信アプリの定番「OSB Studio」の最新バージョンでは、ArcでのAV1エンコードをサポートしている。

  • OBS Studioの最新バージョン(v29.0)ではArcのAV1ハードウェアエンコーダーをサポートしている

小型で高性能となれば放熱も気になるところ。ここでは、サイバーパンク2077(4K、画質“レイトレーシング:ウルトラ”)を10分間プレイしたときのCPUとGPU温度の推移をモニタリングアプリの「HWiNFO Pro」で追ってみた。CPU温度は「CPU Package」、GPU温度は「GPU Global Temperature」の値だ。

  • 底面には2基のファンが搭載されている

  • CPUとGPU温度の推移

CPUは最大93度まで上昇しているが、平均では約82度と上がりすぎないようにうまくコントロールされている。GPUも同様で最大86度で平均では約82度だ。低い温度ではないが、CPUのサーマルスロットリング(高温時にクロックを下げる機能)のフラグもほぼ立っておらず、放熱はうまくできていると言ってよいだろう。また、動作音も静かではないが、個人的にはうるさいというほどではなく全然許容範囲だ。小型の高性能ベアボーンと考えると優秀なほうだろう。

とここまでが、NUC 12 Enthusiast Kitのテスト結果だ。Arcシリーズは2022年9月に発売されたばかりで、実力はどうなの? と思っている人も多いだろう。しかし、今回のテスト結果を見て分かる通り、デスクトップ版のミドルレンジGPU並の性能を発揮できている。メモリ、ストレージ、OSのないベアボーンで約25万円という価格にハードルはあるものの、小型&高性能を両立する存在として非常に貴重なのは間違いない。