2022年も、さまざまな魅力を持つデジタル機器が登場しました。今年は何といっても物価高が直撃。デジタル機器の多くが、コスト高や円安を背景に、値上げを余儀なくされました。そんな中でも購入を決めたお役立ちアイテムを、デジタル業界に詳しいライター諸氏に聞きました。
2022年に購入したベストアイテム、今回紹介するのはオーディオ・ビジュアル評論家の野村ケンジさんです。イチオシ製品は、実売約66万円という超高価なAstell&Kern最上位ポータブルプレーヤー「A&ultima SP3000」。野村ケンジさんに「今後数年使うリファレンスDAPはこれしかない」と言わしめたSP3000、いったい何がスゴいのかを語っていただきました。
- 選んだ製品:「A&ultima SP3000」(Astell&Kern)
- 価格:実売65万9,980円程度
- 選んだ理由:今後数年使うリファレンスDAPはこれしかない、と感じた
- 満足度(5段階):★★★★
音質を突き詰め、バランス出力・アンバランス出力も完全分離
物価高の昨今、オーディオ製品もなかなか手を出しづらい価格となってきていますが、そんな状況の中にあってもこれだけは入手しなければ、と購入に踏み切った製品があります。それが、Astell&KernのフラッグシップDAP(デジタルオーディオプレーヤー)、「A&ultima SP3000」です。
初めてA&ultima SP3000(以下、SP3000)に触れたのは、製品発表会の会場でした。デザインは多少変わっているもののキープコンセプトで、ネットワーク機能や便利機能などユーザビリティー面では先々代から秀でていたのでこちらもキープコンセプト、基板周りには同社の最新設計がふんだんに盛り込まれているものの、大きな変化といえるのは他社に先駆けてAKM(旭化成エレクトロニクス)製のDACチップ「AK4499EX」を4基搭載したことくらい。
内容としてはそれほど魅力的には思えなかったのですが、試聴して印象が180度変わりました。というのも、“とてつもなく”ノイズレベルが低く押さえられた、とてもピュアなサウンドを聴かせてくれたからです。
これは、デジタルとアナログを完全分離した「HEXAオーディオ回路構造」やDAC+アンプモジュールが差し替えられる「A&futura SE180」で開発された「TERATON ALPHA」構造の採用、904Lステンレスボディのチョイスなど、さまざまな要素によって積み上げられた結果ではあると思いますが、AKM製DAC「AK4499EX」搭載とその回路周りの作り込みが最大の貢献をもたらしていることは想像できます。
AKMのDACチップは、2020年に発生した旭化成マイクロシステムの半導体製造工場の火災によって製造を一時停止していましたが、SP3000に搭載されているこの「AK4499EX」で待望の復活となりました。とはいえ、SP3000は先代「A&ultima SP2000」(以下、SP2000)に搭載されていた「AK4499EQ」とは異なり、DAコンバータ「AK4499EX」とDDコンバータ「AK4191EQ」による2チップ構成となっています。
2チップ構成は、専有面積が広くなってしまったり、デジタルクロック信号の精度を保ちづらいといった、さまざまなマイナスポイントがあるといわれていますが、デジタルパートとアナログパートを分けたことで音質的なメリットを生み出すことができた、とメーカーはアピールしています。
さらに「A&ultima SP3000」では「AK4499EX」を4基搭載、LR(左右チャンネル)だけでなく、バランスアンバランス(ヘッドホン出力)でも個別に分けて用意することで、徹底した歪みやノイズの低減を行っているようです。その結果として、先代と比べて格段にノイズのない、とてもピュアな音になりました。また、ヘッドホン出力もパワフルなだけでなく質感も向上し、イヤホンの実力をしっかり引き出せるようになっています。
今後数年使うリファレンスDAPは、SP3000しかない
実際のところ、先代の音を聴いたときにあまりピンときておらず、先々代「A&ultima SP1000」(2017年発売)+アンプユニットの方が汎用性が高い=イヤホンだけでなくヘッドホンのチェックにも使えると思え、ステップアップは考えていませんでした。逆に、ヘッドホンアンプを真空管とソリッドステートで切り替えられる「A&ultima SP2000T」(2021年発売)のほうに興味を持ったくらいです。しかし、SP3000の音を聴いて考えは一変し、今後数年間使い続けるリファレンスDAPはこれしかない、という気持ちが高まっていきました。
そのさい、大きな壁となったのが値段です。先代のSP2000は発売時点で48万円ほど、それがSP3000では(円安の影響もありますが)約66万円と大幅アップしてしまいました。家電量販店のポイントなどを差し引いても、実売59万円ほど。ポータブルオーディオ製品としては破格の出費となってしまいますが、致し方ありません。「仕事だから」という悪魔の誘惑というか自己暗示を“フル活用”して、今回入手するに至りました。
とはいえ、実際に使い始めてみると、音質だけでなく4.4mmバランス出力端子が採用されていたり、ヘッドホンでスピーカーに近い音像を実現できるクロスフィード機能が用意されていたりと注目ポイントが目白押し。BluetoothがLDACコーデックに対応していたり、Roon Readyだったり、QC3.0急速充電も使えたりと、外出時に便利なことも多くかなりのお気に入りとなっています。メニュー画面が一新されたので使い勝手には少々慣れが必要ですが。
ちなみに、DAPについては2021年に入手したR2Rラダー型DAC搭載のLUXURY&PRECISION製「P6PRO」なども使っていますが、今後はSP3000の活躍の場が増えていくことでしょう。
高価なのでおいそれと手が出ないのは確かですが、購入したら満足度の高い製品でもあります。皆さんも、予算に余裕があればいちど検討してみてはいかがでしょうか。