Intel「XeSS」とNVIDIA「DLSS」で、高速化と画質を比較

ここからは、アップスケーラーの「XeSS」を含めたテストを行っていく。まずは、「Shadow of the Tomb Raider」から。画質、レイトレーシングとも最高設定にし、ゲーム内のベンチマーク機能を利用してフレームレートを測定している。アップスケーラー性能の比較としてRTX 3060はDLSSを使用した場合の結果も含めた。

  • Shadow of the Tomb Raider

XeSSの効果は絶大だ。Arc A770のフルHDにおけるXeSS“パフォーマンス”設定ではフレームレートが約36%も向上。WQHDでは約57%もアップしている。高画質&レイトレーシングでゲームをプレイしたい場合にはかなり使える機能と言えるだろう。しかし、RTX 3060のDLSS“パフォーマンス”設定を見るとフルHDで約60%、WQHDで約81%もフレームレートが向上。DLSSがアップスケーラーとして優秀なことが、改めて証明されてしまった。

では、画質はどうだろうか。Arc A770/A750でXeSSをオフ、XeSS“バランス”、XeSS“パフォーマンス”で表示したとき、RTX 3060でDLSSをオフ、DLSS“バランス”、DLSS“パフォーマンス”で表示したとき画質を比較してみよう。

  • 上からXeSSオフ、バランス、パフォーマンス設定。画質設定はベンチマークと同様。解像度はフルHDで、分かりやすいようにゲーム画面の一部を切り出している

XeSSがオフの状態はややもやっとしているが、XeSSを使うと若干影の処理は甘くなったようにも見えるが一気にシャープな映像になる。アップスケールに合わせて映像をシャープにする処理も入っていると考えられるが、十分快適にプレイできる画質になっていると言えるだろう。

  • 上からDLSSオフ、バランス、パフォーマンス設定。条件はXeSSと同様だ

画質の傾向はDLSSでもXeSSとほぼ同様だ。というか、ほとんど見分けが付かないレベル。ほかのゲームではどうだろうか。

「DEATH STRANDING DIRECTOR'S CUT」を試す。画質は最高にし、セントラル・ノットシティの周辺を移動した際のフレームレートをCapFrameXで計測した。このゲームはDLSSにバランス設定がなかったので、パフォーマンスとクオリティ設定でテストしている。

  • DEATH STRANDING DIRECTOR'S CUT

アップスケーラーを使わないフレームレートだと、RTX 3060に対してArc A770はフルHD、WQHDとも上回り、Arc A750はWQHDだと上回った。XeSSを使用すると、順当にフレームレートは伸びるが、DLSSに及ばないというのはShadow of the Tomb Raiderと同様だ。XeSSはまだ第1世代と考えると、健闘していると言えるが。画質もチェックしてみよう。

  • 上からXeSSオフ、バランス、パフォーマンス設定。画質設定はベンチマークと同様。解像度はフルHDで、分かりやすいように柱の周囲を切り出している

XeSSオフだと柱の明るい部分がそれぞれ円形になっているのが分かるが、有効にすると全部繋がって見えてしまう。このあたりがアップスケーラーの限界を感じるところだ。Shadow of the Tomb Raiderとは異なり、XeSSを有効にすると微妙にもやっとした感じになる。

  • 上からDLSSオフ、クオリティ、パフォーマンス設定。条件はXeSSと同様だ

なら、DLSSならどうなのかと気になるが、XeSSとほぼ同様だ。柱の円形も見えなくなってしまう。さらに別ゲームでも試そう。

次はアクションアドベンチャーの「Ghostwire: Tokyo」だ。夜の渋谷が舞台の中心ということで、レイトレーシングによる反射処理が映えるゲームだ。森手神社の周辺で移動と戦闘を行った際のフレームレートをCapFrameXで計測した。

  • Ghostwire: Tokyo

アップスケーラーを使わない状態だと、Arc A770がどちらの解像度でもRTX 3060を上回った。その一方でArc A750はやや苦戦。RTX 3060を下回った。その一方でXeSSによるフレームレートの伸びは優秀。DLSSに迫っている。機械学習がうまく進めば、DLSSと並べる可能性を感じさせた。画質はどうか。

  • 上からXeSSオフ、バランス、パフォーマンス設定。画質設定はベンチマークと同様。解像度はフルHDで、分かりやすいように電話ボックス周辺を切り出している

このゲームは元がシャープな映像だけに、XeSSはパフォーマンス設定だと全体的にもやっとした感じになる。使うならバランス設定のほうがよさそうだ。

  • 上からDLSSオフ、バランス、パフォーマンス設定。条件はXeSSと同様だ

DLSSは有効にするとシャープになりすぎて、ザラッとした映像になっている。それほど気になるわけではないが、DLSSとXeSSで絵作りの差が見えたゲームだ。

消費電力と動作温度をテスト、最終評価は「市場価格」待ち?

次は消費電力を見てみよう。OS起動10分後をアイドル時、3DMark-Time Spy実行時の最大値を高負荷時とした。電力計にはラトックシステムの「REX-BTWATTCH1」を使用している。

  • 消費電力

高負荷時はRTX 3060に比べてArc A770で79W、Arc A750で69Wも高くなった。性能的にはよい勝負のArc A770/A750だが、消費電力ではRTX 3060に軍配が上がる。また、今回試用した限りではアイドル時の消費電力もあまり下がらなかった。消費電力面では厳しい評価にならざるを得ない結果だ。

最後に温度とクロックの推移をチェックしよう。Ghostwire: Tokyoを10分間プレイした際の温度と動作クロックの推移を「HWiNFO Pro」で測定している。温度は「GPU SoC Temperature」、動作クロックは「GPU Clock」の値だ。

  • 温度の推移

  • 動作クロックの推移

Arc A750の最初の温度が高いのは、ファンの回転数がArc A770のほうが高いため。時間が経過してファンの回転数が高まると温度は逆転。5分過ぎにArc A770は76度前後、Arc A750は72度前後で安定した。冷却力に不安はまったくなく、さらにLimited Editionのファンは静音性も優秀だ。高負荷時でも筆者としては音がほとんど気にならないレベルだと感じた。

  • 50cm離れた場所で39dBAとIntelの資料でも静音性の高さをアピールしていた

今回のテストはここまでだ。RTX 3060に対して、Arc A770はほとんどのテストでフレームレートを上回っており、Arc A750が勝てるテストも存在した。テストをした率直な感想は「思ったよりずっと戦える」ということだ。テスト用のドライバだが、ゲームが動かない、止まるといったトラブルにも遭わず(動かしたゲームの数もそれほど多くないが)、すんなりとフレームレートを測定できた。Limited Editionは見た目が非常にかっこ良く、ファンの静音性も高いとハードウェア面の完成度も高い。

ただ、RTX 3060は現在安いモデルなら4万6,000円前後で購入できる。Arc A750が289ドル。原稿執筆時点では日本でそもそも発売されるのか不明だが、1ドル145円でも4万2,000円前後とけっこう厳しいところ。円安ではなければと思うが、それは言っても仕方が無い。Arc A770 Limited Editionは349ドルなので、5万1,000円前後だ。RTX 3060のOCモデルに比べれば安いと言えるが、日本で発売されるなら、価格はどうなるか。少なくともミドルレンジGPUを購入したいと考えた場合、選択肢として含めてもよいと思えるデキになっているのは間違いない。Intelが本気でビデオカード市場で戦う準備が出来たと思っていいのではないだろうか。