既報の通り、米AMDが9月27日にRyzen 7000シリーズの発売を開始する(日本国内向けは9月30日から)。これに先立って、性能評価を行う機会に恵まれたので、まずは速報版をお届けしたい。
評価機材
今回発表されるのは、Ryzen 5 7600X/Ryzen 7 7700X/Ryzen 9 7900X/7950Xの4製品である。今回はX付きのSKUのみで、この後X無しのSKUや(おそらくは)Ryzen 3なども追加される事になると思われる。
パッケージ(Photo01)は、Ryzen 9だけちょっと大きめでRyzen 5/7は結構コンパクトである。ちなみに今回Ryzen 5 7600XですらTDP 105Wということでヒートシンクは付属していない。このあたりは今後65WとかのSKUが追加されたら、Wraithクーラーを同梱したモデルも出てくると予想され、その際にはパッケージの厚みも増す事になると思われる 。 ちなみに以前も写真でご紹介したが、Ryzen 9のみ、豪華なパッケージになっている(Photo02)。実際奥行はRyzen 5/7の3倍はある感じだ(Photo03)。
CPUそのものはブリスターパッケージに入った形(Photo04)だが、微妙に従来と形状が変わっている(Photo04,05)。CPUパッケージそのものは既報の通り、ヒートスプレッダが複雑な形状になっているのが判る(Photo06~09)。ヒートスプレッダを横から見るとこんな感じ(Photo10)。ほぼ真横から見るとこんな具合で、明確に間隙がある事が判る(Photo11)。ちなみに裏面、LGAのPadの形状は、Intelの楕円ではなく(やや角は丸まっているが)長方形になっていた(Photo12)。
さて、これに組み合わせるAM5マザーボードであるが、今回はASUSのROG Crosshair X670E Hero(Photo13~22)である。X670E(これも名前がアレであって、当初はX670 Extremeという説明だったのが、今はX670Eになっている。B650の方はB650 Extremeだったりするのが更に謎である。そのうちシラっと名称が変わっても不思議ではない)チップセット搭載の製品だ。
ところでSocket AM5はSocket AM4のCPUクーラーと互換性がある、という話は既に報じた。確かに嘘ではないのだが、正確でもない。正確に言えば、「バックプレートの交換を必要としないタイプのSocket AM4クーラーはSocket AM5で利用できる」である。理由はこちら(Photo23)。Socket AM4の場合PGAということもあり、CPUソケットそのものはマザーボード表面に半田付けの形で取り付けられており、なのでバックプレートは単にCPUクーラーを固定するためだけに用意されていた。ところがSocket AM5ではLGAタイプになり、固定に機械的リテンションを掛ける関係で、CPU Socketはマザーボードを挟み込むように表面と裏面の両方に部品が分かれており、もはやバックプレートの交換ができなくなっている。なので、簡易水冷クーラーでちょくちょくみられる、Socket AM4専用バックプレートを利用するケースでは利用できなくなっている。実際今回Ryzen 7000シリーズ用にThermalTake TH360を用意したものの、見事にこれに引っかかって装着できなかった。いずれは簡易水冷に独自バックプレートを利用している各メーカーともSocket AM5対応のアタッチメントを用意すると思うので、それが揃うまではSocket AM4のクーラーの流用は待った方が良いだろう。
またメモリであるが、今回はG.SKILLのTrident Z5 Neoが用意された。定格はDDR5-4800だが、EXPO対応で最大DDR5-6000動作が可能とされる(Photo24,25)。
テスト環境その1(Discrete Graphics)
さて今回、速報版と銘打った理由であるが、時間の関係で全てのテストを行えていないためだ。具体的にはRyzen 9 7900Xは(機材こそ到着したものの)時間の関係でテストを見送った。また内部構造に踏み込んだDeep Diveテストも今回は見送りで、簡単なパフォーマンス測定+αに留めている。Zen 4の内部構造に関しては、追って掲載予定のDeep Dive編をお待ちいただきたい。まずテストその1であるが、表1の様な環境で行った。比較対象はRyzen 9 5950XとCore i9-12900Kである。Ryzen 7000シリーズそのものはCPU-Zで問題なく認識された(Photo26~28)。
■表1 | |||
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CPU | Ryzen 9 5950X | Ryzen 9 7950X Ryzen 7 7700X Ryzen 5 7600X |
Core i9-12900K |
M/B | ASRock X570 PRO4 | ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO | ASUS ROG MAXIMUS Z690 HERO |
BIOS | Version 4.20 | Version 0604 | Version 0237 |
Memory | Micron 16ATF2G64AZ-3G2E1×2 DDR4-3200 CL22 |
G.Skill Trident Z5 Neo DDR5-6000 16GB×2 DDR5-5200 CL44 |
T-Force Delta RGB DDR5 16GB×2 DDR5-4800 CL40 |
Video | NVIDIA GeForce RTX 3080 Ti Founder Edition GeForce Driver 516.94 DCH WHQL |
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Storage | Seagate FireCuda 520 512GB(M.2/PCIe 4.0 x4) (Boot) WD WD20EARS 2TB(SATA 3.0)(Data) |
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OS | Windows 11 Pro 日本語版 21H2 Build 22000.978 |
またメモリであるが、先に書いたようにG.SKILLのTrident Z5 Neoは定格DDR5-4800 CL42、EXPOでDDR5-6000 CL30をサポートする(Photo29)。ただ今回はこのEXPOフル動作ではなく、Ryzen 7000シリーズが定格でサポートする上限のDDR5-5200 CL44でテストを行った(Photo30)。
グラフ中の表記は
i9-12900K:Core i9-12900K
R9 5950X :Ryzen 9 5950X
R5 7600X :Ryzen 9 7600X
R7 7700X :Ryzen 9 7700X
R9 7950X :Ryzen 9 7950X
となっている。また解像度表記は何時もの通り
2K :1920×1080pixel
2.5K:2560×1440pixel
3K :3200×1800pixel
4K :3840×2160pixel
とさせていただく。
◆テスト1: CineBench R23(グラフ1)
CineBench R23
Maxon
https://www.maxon.net/ja/cinebench
判りやすさ優先で、まずはCineBenchの結果を。Ryzen 7000シリーズはSingle Thread動作で遂に2000台が見える(というかRyzen 9 7950Xは2000を超える)ところまできた。そしてMulti Threadでは堂々の38000オーバーである。勿論OC動作とかすればもっとこれを超える性能は可能だろうが、OCせずにここまでの性能が出るのは流石である。以前の説明ではIPCが最大13%程度向上、Single Thread Performanceでは最大29%向上という数字が示されたが、これを裏切らない結果として良いかと思う。特にRyzen 9 5950X比で言えば、Multi-Threadで52%もの性能向上になっているからだ。
◆テスト1: PCMark 10 v2.1.2563(グラフ2~7)
PCMark 10 v2.1.2563
UL Benchmarks
https://benchmarks.ul.com/pcmark10
もう少し一般的なものでは? ということで次はPCMark 10。Overall(グラフ2)を見ると、なんかRyzen 9 5950Xが可哀想になる結果である。少なくともRyzen 7000はAlder LakeベースのCore i9-12900Kと十分互角以上の性能を発揮している事は間違いない。
もっともTest Group(グラフ2)を見ると、Essentials/Productivityは概ね同等で、差が出るのはDigital Contents CreationとGamingである。Gamingは要するに3DMark FireStrikeなので後で確認するとして、Digital Contents Creationで差が出ている格好だ。
Essentials(グラフ4)/ProductivityはRyzen 9 5950Xを除くとほぼ同等といったところ。Digital Contents Creation(グラフ6)はRenderingAndVisualizationRaytracing、つまりPOV-Rayのスコアが支配的であり、これが性能に影響している感じだ。
最後にOffice 365を利用してのApplication Score(グラフ7)を見ると、特にExcelでRyzen 7 7700XとCore i9-12900Kが同等であり、Word/Powerpoint/EdgeはそもそもRyzen 9 5950X以外横並びになっているあたり、明確にRyzen 7000シリーズの性能向上が示されたと考えて良いかと思う。
◆テスト1: Procyon v2.1.459(グラフ8~11)
Procyon v2.1.459
UL Benchmarks
https://benchmarks.ul.com/procyon
まずOverallで見ると、Ryzen 9 5950Xが飛びぬけて低いというか、Core i9-12900Kに全然及ばない格好だったのが、概ね同等のレベルに達しているのが判る。比較的Ryzen 7000シリーズが有利なのがPhoto Editing(グラフ9)で、Lightroomを利用してのバッチ処理は微妙にCore i9-12900Kに及ばない(とは言え、6コアのRyzen 5 7600XがRyzen 9 5950Xを上回るスコアを出している辺りは凄まじい)が、Photoshopを使ってのImage RetouchingではCore i9-12900Kを上回るスコアを出しているあたり、ほぼほぼ互角というか、ややRyzen 7000シリーズの方がトータルでの性能は上に思える。
一方のVideo Editing(グラフ10)では、必ずしもマルチコアのメリットは生きてこない(これはPremierとAdobeのMedia Encoderの仕様だから仕方がない)が、それでもExport 2はほぼ同等。Export 1もかなり接近しているというか、少なくともRyzen 9 5950Xよりは大幅に改善されている。ちなみにグラフ10は所要時間なので、棒が短いほど高速である。あと、結果が2桁異なる関係で対数グラフにしている。
面白いのがOffice Productivity(グラフ11)。Ryzen 7000シリーズの中で最高速なのは8コアのRyzen 7 7700Xで、これに僅差でRyzen 5 7600Xが続くというのはどういうことか。意外にもRyzen 9 7950Xが3つの中では一番性能が低くなったのはちょっと不思議ではある。とは言え全般的に性能の底上げは明確で、ただしCore i9-12900Kには微妙に及ばないという程度。まぁ健闘しているとしても差し支えは無いだろう。
◆テスト1: POV-Ray V3.8.2 Beta2(グラフ12)
POV-Ray V3.8.2 Beta2
Persistence of Vision Raytracer Pty. Ltd
http://www.povray.org/
今回Ryzen 7000シリーズではAVX512にも対応した事だし、そろそろNoise Functionには"avx2fma3-intel"が使われるかと思ったが、残念ながら相変わらず"avx-generic"であった。
それはともかく結果を見ると、One CPUではまだCore i9-12900Kに微妙に及ばない。理由の一つは上で書いた最適化の違いだが、それでも612PPSから740~750PPSだから、21~22%の高速化である。そしてAll CPUではRyzen 9 7950Xが遂に12000PPS超えを果たしており、このあたりでの性能向上は明確である。Ryzen 9 5950X比では5割弱の高速化であり、性能向上は明確である。
◆テスト1: Stable Diffusion UI(グラフ13)
Stable Diffusion UI
cmdr2
https://github.com/cmdr2/stable-diffusion-ui
AIによる画像生成であるStable DiffusionはGPU上でNeural Networkを利用して、ユーザーの指定したキーワードをベースに画像を生成してくれるツールということで急激に人気を博しているが、このStable DiffusionをCPUを使って実施してくれるのがStable Diffusion UIである。
使い方は簡単で、上のURLからzipファイルを落として展開。インストーラを実施するだけである。インストールが終わるとhttp://localhost:9000 でこの画面(Photo31)が出てくる。ここでパラメータをセットして"Make Image"ボタンを押し、画像が生成されるまでの時間を測定するというわけだ。
Photo31: これは生成後の画面である。所要時間は画像の上に455.702secと出てくる。
パラメータであるが、Promptの"a photograph of an astronaut riding a horses"(初期値)は変更せず、ただしAdvanced SettingsでSeedの値は10000に固定した(それでも数回に1回は違う画像になるあたりがNeural Networkであるが)。また下の"Use CPU instead of GPU"のチェックも入れておく。
さて結果であるが、これも経過時間ということで、バーが短いほど高速である。やはり16コアのRyzen 9 7950は異様に高速で、Core i9-12900Kは大体Ryzen 7 7700Xと同等程度といったあたりか。
余談であるが、これをGeForce RTX 3080 Tiを利用して実行した場合、所要時間はわずか6.9secである。今回はベンチマーク目的だから敢えてCPUで実施しているが、普通に使うならGPUを使うべきだろう。
◆テスト1: TMPGEnc Video Mastering Works 7 V7.0.23.25(グラフ14)
TMPGEnc Video Mastering Works 7 V7.0.23.25
ペガシス
http://tmpgenc.pegasys-inc.com/ja/product/tvmw7.html
定番エンコーダであるが、結果(グラフ14)を見れば説明の要らないくらい、Ryzen 7000系が健闘しているのが判る。なんせ8コアのRyzen 7 7700Xと16コアのRyzen 9 5950Xがそんなに違わないのだ。そしてRyzen 9 7950Xは35fpsに達しており、リアルタイムでHEVCの4K画像を30fps以上でトランスコードできている事になる。何というか、Ryzen 7000系のCPU性能の伸びが良く判る。
◆テスト1: 3DMark v2.22.7359(グラフ15~18)
3DMark v2.22.7359
UL Benchmarks
https://benchmarks.ul.com/3dmark
グラフ15が3DMarkの結果だが、興味深い。唯一NightRaidだけ他と異なるというか、Core i9-12900Kのスコアが突出している。ただ後はほぼ同程度に収まっており、FireStrikeとかではむしろRyzen 7000やRyzen 9 5950Xの方が上回るという面白い結果になっている。これはGraphics Test(グラフ16)も同じである。本来だとここでCPUの差が出てくるのはちょっと解せない(FireStrikeもここではほぼ同等)のだが。Physical/CPU Test(グラフ17)の結果は、NightRaidだけ妙にCore i9-12900Kのスコアが高い以外はまぁ妥当と言うべきものになっており、Combined Test(グラフ18)もこれに準ずる格好だ。NightRaidの振る舞いが若干謎な以外は、概ね妥当な結果として良いかと思う。