アップルのスマートウォッチに、新しいハイエンドモデル「Apple Watch Ultra」が加わります。冒険系アウトドア仕様のスマートウォッチは、特にハードな運動をしない普通のガジェットライターである私でも楽しめるのでしょうか。発売直前の実機レポートをお届けします。

  • 新しいアウトドア仕様のハイエンドモデル「Apple Watch Ultra」が誕生します。発売は9月23日で、価格は124,800円からとなります

航空宇宙グレードのチタニウムケースが「強くて軽い」

Apple Watch Ultraは、シリーズに初めて登場するタフネス仕様のハイエンドモデルです。Apple Watchの中で最大サイズとなる49mmのケースは、その素材に強度・軽さ・耐食性のバランスが高次に取れているという航空宇宙グレードのチタニウムを採用しています。

傷にも強そうな金属ですが、やはり驚くのはその軽さ。見た目の印象が従来のApple Watchよりもゴツく、ケースの厚みも3.7mmほどUltraの方が増しています。質量を比べると、Series 8のGPS+Cellularモデルは39.1gですが、Ultraは22.2gも重い61.3gです。ところが装着してみると、軽さの意外性が勝るせいか重さが苦になりません。

あるいは、従来のタフネス系腕時計のサイズ感をイメージしながら身に着けるから、かえって面食らうのかもしれません。筆者は、Ultraを睡眠トラッキングのため、ベッドの中で夜通し身に着けても気になりませんでした。

Digital Crownやサイドボタンは手袋(グローブ)を着けたままでも操作しやすいよう、ケースの右側面にそれぞれ大型化して配置しました。ボタンはケースで保護されているので、ぶつかって破損する心配はなさそうです。手首を返す時にボタンが当たって煩わしく感じることもありません。

  • 大型化したボタンをチタニウムケースが保護します

屋外使用に最適化したディスプレイとバンド

強度が高くクリアな視認性が得られるサファイアガラスの風防は、形状をフラットにしています。さらに、OLEDディスプレイのピーク輝度性能をSeries 8/SEの2倍に高めました。晴れた日に文字盤をのぞき込んでも、クッキリと鮮やかな表示が確認できます。

  • フラットシェイプになったサファイアガラス

  • ピーク輝度は2000nits。屋外でも高い視認性を発揮します

Apple Watch Ultraの発売に合わせて、3種類の新しいバンドが登場しました。今回は、オレンジのアルパインループとイエローのオーシャンバンドを試すことができました。

高強度の糸で編んだ2層の生地を素材とするアルパインループは、本体に複数設けたスリットにチタニウム製のG型フックを掛けると手首にしっかりと固定されます。

  • G型フックを掛けてバンドを手首に固定します

もうひとつのオーシャンバンドは、チューブ状の高性能エラストマー樹脂を素材としています。チタニウム製のバックルとアジャスタブルループを使って手首に固定。ウェットスーツを着たまま装着しやすいように、素材や取り回しを工夫しています。

  • イエローのオーシャンバンドを装着

UltraとSeries 8の「違い」「共通点」を整理する

従来のデザインを踏襲し、今年も順当な進化を遂げたApple Watch Series 8とUltraの違いや共通点を整理してみましょう。

Ultraもシリーズのハイエンドモデルなので、皮膚温センサーや衝突事故検出に代表されるSeries 8と同じ「2022年の新機能」を網羅しています。watchOS 9から実現した「日本語キーボード」はUltraのフラットで大きなディスプレイと好相性です。

  • 49mmの大きなUltraの画面は日本語キーボードのタイピングも快適

ほかにも、ユーザーの健康を見守る血中酸素ウェルネスと心電図のアプリもSeries 8と同様に搭載しています。

Series 8との「違い」は多岐に渡ります。

・便利なアクションボタンがあります

デザインの違いでもある新機能の「アクションボタン」をケースの左側に搭載しました。クリックすると、事前にiOSのWatchアプリから設定した特定のワークアウトメニューを、3カウントダウンを飛ばして始めることができます。シビアなタイム計測に便利です。

  • 側面に新設されたオレンジ色の「アクションボタン」

  • 任意のアクションを1件割り当てられます

筆者はそんなにストイックなワークアウトをしないので、アクションボタンに「フラッシュライト」を設定したり、「ショートカット」を選んで「Shazamして保存」を設定。気になる街角のBGMをすぐにShazamで調べられるようにしてみました。

・GPS+Cellularモデルの1択です

アウトドアユースを中心に想定しているためか、UltraにはGPSモデルがなく、Cellular付きのモデルしかありません。カラバリも1種類です。

なお、GPSはL1/L5の2つの周波数をカバーし、トラッキング精度を高めています。

  • Ultraには高精度なGPSが内蔵されました

例えば、大都会の高層ビル群や、高い木々が生い茂る森林の中では、L1 GPSだけだと衛星電波がブロックされて正確な位置情報がつかめないといいます。最新のL5 GPSを搭載して、さらに測位アルゴリズムをブラッシュアップしたことで、これらの電波が届きにくいエリアでも正確なトラッキングを可能にします。

筆者の自宅周辺は背の低い建物ばかりなので、まだUltraの高いパフォーマンスを実感できていませんが、載っていると何となく頼もしく感じられます。これから役立つ場面に出会いたいです。

・とにかく本体が強靱

本体は、米軍MIL規格STD 810Hに準拠する強度を誇ります。IPX6等級の防塵対応はSeries 8と同じ。

耐水性能は、現行Apple Watchの中でナンバーワン。水深40mまでのレクリエーションダイビングにも対応する100m耐水性能を実現しています。水温センサーを搭載する水深計も内蔵しました。

  • ダイビングにも対応する高い耐水性能を備えました

Apple Watch Ultraには、ダイビングした際の誤作動を防ぐ仕組み・工夫も搭載しています。装着して水中に入ると自動で「水深」アプリケーションを立ち上げ、「防水ロック」を自動で有効化することで、水中での誤入力を防ぎます。防水ロックを無効にすると、スピーカーに浸入した水分が排出されます。

・緊急時用サイレンが載ってます

山道などで遭難した場合にApple Watch Ultraユーザーを助けられるよう、最大180メートル先まで聞こえる大音量のサイレン機能を内蔵しています。アクションボタンを長押しするとサイレンが鳴り、しばらく鳴らし続けるとSOSのサウンドパターンに切り替わります。

  • アクションボタンを長押しすると、サイレンや緊急SOS通話を選択できるようになります

バッテリーは通常使用で最大36時間持つ

Apple Watch Ultraを発売前に1週間ほど使ってみました。やはりバッテリーがフル充電から通常使用時で最大36時間=約1日半使えるスタミナはとても魅力的です。

筆者は、最大18時間のバッテリー持ちを実現している従来のApple Watchを長く使ってきたので、「毎日充電する習慣」を“修行”により身に着けています。なので、いつものペースでUltraを充電していると、バッテリー残量は「だいたい50%前後」のあたりをキープし続けています。もっと放置しても良いのですが、つい習慣で充電してしまいます。

しかも、秋後半に実施を予定するwatchOSのソフトウェアアップデートにより、本体を「低電力モード」に切り替えて最大60時間=2日半使える機能がUltraに実装されるそうです。アップルは、新しいUltraの低電力モードについて「2日以上のアドベンチャーに最適」と紹介しています。

  • 秋にソフトウェアアップデートによる強化が予定されている「低電力モード」

低電力モードをオンにすると、心拍数とGPSの測定頻度を減らしたワークアウト設定に切り替わるようです。ユーザーは、Series 8と同じように低電力モードを選ぶだけでロングバッテリー機能が利用できるのか、あるいは他にワークアウト計測も同時に走らせる必要があるのかなど、秋後半のアップデート以降にどんな使い心地になるのか楽しみです。

Ultra限定の「ウェイファインダー」文字盤が楽しい

Ultra専用の文字盤「ウェイファインダー」がとても良いです。合計8つのコンプリケーションを配置したうえ、ベゼルをタップするとアップデートされたwatchOSの「コンパス」アプリの情報を常時表示します。

  • ウェイファインダー文字盤から「コンパス」アプリがすぐに起動できます

  • ウェイファインダーの「ナイトモード」。赤色の鮮やかな表示に切り替わります

コンパスには方位を調べるだけでなく、歩きながら目印になるランドマークを地図に記録していく「ウェイポイント」と、Apple WatchのGPSを使って身に着けて移動した足取りを刻む「バックトレース」という2つのメイン機能があります。

筆者のように自然に身を投じて楽しむアウトドアスポーツと縁遠いユーザーにも、それぞれの機能は有益です。例えば、旅行で初めて訪れた街を散策するときに、気になる史跡やお土産を売っている店を見つけたら「ウェイポイント」を記録し、ホテルに帰る道を間違わないように「バックトレース」を仕掛けるといった「観光地型サバイバル」的な使い方もできそうです。

  • コンパスアプリに場所の記録がマーキングできる「ウェイポイント」

  • 歩いた軌跡をGPSで記録する「バックトレース」

Apple Watchを“2台持ち”して楽しむ時代が来た

Apple Watch Ultraのケースには、45mm/44mmのApple Watch用に発売されているバンドが装着できます。シックなレザーリンク、ブレイデッドソロループなどに付け替えれば、スタイリッシュなビジネス系スマートウォッチに早変わりします。スーツやジャケットにもマッチしそうですね。

ステンレススチールのミラネーゼループやシルバーリングブレスレットに装着すれば、女性のApple Watchユーザーの装いにも合わせられると思います。

  • UltraとSeries 8。2022年はふたつの魅力的なハイエンドモデルのApple Watchが揃いました

新しいUltraは「タフネス仕様のApple Watch」、あるいは反対に「ゴツくないスタイリッシュで機能的なダイバーズウォッチ」を探していた方の期待にジャストフィットするはずです。従来のApple Watchを愛用してきた方も、またUltraの新鮮味に相当なインパクトを受けると思います。筆者は、これから多くのユーザーが「Apple Watchを2台持ち」する時代が到来したと感じています。