観測の結果、双極分子流を小マゼラン雲内において成功したとする。双極分子流自体は、これまでのさまざまな原始星の観測において、“星誕生の目印”として普遍的に見られてきた現象である。しかし、小マゼラン雲においては分子ガスを観測するために一般的に用いられている一酸化炭素からの電波が微弱なため、双極分子流を検出するのは局所銀河群のどの銀河よりも困難だったという。

  • 小マゼラン雲

    (左)欧州宇宙機関のハーシェル宇宙天文台が遠赤外線で観測した小マゼラン雲。(右)原始星Y246からの双極分子流。シアンおよび赤色で示された部分が、それぞれ地球に近づく方向および遠ざかる方向に時速5万4000km以上の速さで運動している。十字は原始星の位置が示されている (C)ALMA(ESO/NAOJ/NRAO),Tokuda et al. ESA/Herschel (出所:プレスリリースPDF)

そこで今回は、温度や密度が高い場所でより強い電波が期待される輝線を選択したことで、原始星Y246からの双極分子流を検出することに成功したとする。そして、その性質について詳細な調査が行われたところ、ガスの運動の勢いなどが天の川銀河で見られていたものと共通していることが突き止められた。

天の川銀河をはじめとする現在の一般的な宇宙における原始星は、分子雲コアから誕生するが、双極分子流を通して余分な回転の勢いを捨てることにより、収縮して一定の密度を超えると核融合が始まり、原始星として輝き始める。これと同様な現象を、今回の観測では小マゼラン雲で見出すことに成功したという。

双極分子流の発生源は原始星周辺の円盤であると考えられており、このような円盤の中で太陽系を含めてすべての惑星系は形成される。今回の小マゼラン雲での双極分子流発見は、宇宙史の中で重元素量が少ない100億年前から現在に至るまで、星や惑星系の形成のメカニズムが同様であることを示していると研究チームでは説明するほか、このような重元素量が少ない環境での原始星アウトフローの検出手法に大きな指針を与えた意味でも重要だとする。

なお、今後は、同銀河において数十個以上確認されている同種の原始星に対して網羅的な観測を行い、双極分子流の発生の普遍性を検証する予定としている。また、アルマ望遠鏡はさらなる解像度を達成できることから、実際に原始星周りに円盤が形成されているかどうかも検証できる可能性があるともするほか、重元素量が少ない環境を模した、星の誕生を扱うシミュレーションの進展も期待されるとしている。