ソフトバンクは4日、2023年3月期第1四半期決算を発表しました。内容としては増収減益の決算。代表取締役 社長執行役員 兼 CEOの宮川潤一氏は「通信料の値下げ影響は今年がピーク。通期予想に対しては順調な進捗です」と報告しています。このほか、PayPayの連結子会社化について、またKDDIの通信障害の受け止めなどについてコメントしました。

  • 宮川潤一氏

    ソフトバンク 代表取締役 社長執行役員 兼 CEOの宮川潤一氏

増収減益の第1四半期

第1四半期の連結業績は、売上高が1兆3,620億円(前年同期比+54億円)、営業利益が2,471億円(同-360億円)、純利益が1,285億円(同-224億円)でした。売上高についてはコンシューマにおいて258億円の減収となったものの、ヤフー・LINE、流通、法人の増収で補った形です。

  • 第1四半期 連結業績

    第1四半期 連結業績

営業利益に関しては、ヤフー・LINE、流通、法人、コンシューマのいずれのセグメントにおいても減益でした。ただ通信料の値下げ影響については今年度を底に、来年度以降は縮小していけると宮川社長。「今期にマイナス900億円を見込むうち、第1四半期で250億円が出ました。これからマイナス幅は徐々に減っていきますので、後半に巻き返すべく頑張っていきます」と前向きな姿勢を示します。

  • 通信料値下げの影響

    通信料の値下げ影響は2022年を底に縮小傾向へ

  • モバイル契約の純増数

    モバイル契約の純増数は前年比で大幅に改善

PayPayについてはユーザー数が4,800万人を突破(前年同期比21%増)。四半期の決済回数は11.1億回(同42%増)、決済取扱高は1.7兆円(同38%増)となっています。宮川社長は「サービス開始から約3年9か月が経ちました。これまでソフトバンク、ヤフー、Paytm(PayPayのコード決済技術を提供)、ソフトバンクグループの4社が協力して成長を促進してきました。コード決済市場における国内シェアは67%と、圧倒的な国内No.1となりました」と報告。

  • PayPayのユーザー数

    PayPayのユーザー数は4,800万人超に

そのうえで「これまでの種まきの時期から、本格的なマネタイズの時期に移行します。ソフトバンクとZホールディングスの持つ顧客基盤やサービスとより深く連携すべく、2社による中間持株会社を設立し、共同経営していく考えです」と説明。PayPayを2022年10月1日に連結子会社化する予定であると明かしました。

  • 連結子会社化の概要

    PayPay株式会社の連結子会社化の概要

  • 経済圏の拡大

    グループのシナジーを活かして経済圏の拡大へ

なおソフトバンクでは第3四半期以降、PayPay連結後に新たな『金融事業(仮称)』セグメントを新設する構え。詳細は次の決算に説明する、と述べつつ「今後、私たちは決済・金融を本格的にポートフォリオに加えた事業体に進化していきます」と説明しました。

  • 連結子会社化後のセグメント構成

    PayPay連結子会社化後のセグメント構成

  • 事業ポートフォリオの変遷

    ソフトバンクの事業ポートフォリオの変遷

KDDIの通信障害について「対岸の火事ではない……」

決算内容の発表後、メディアから質問に宮川社長が回答していきました。

KDDIの通信障害について

先日のKDDIの通信障害に対して受け止めを聞かれると、まずは「auさんの障害については正直言って、私どもとしては対岸の火事という認識は一切ありません。自分ごとだと思っており、本気で色んなことを考えました。障害時の会見について、高橋誠社長は立派に質疑応答にも答えられていた。非常に安心感があったかなと思います」と回答。そして「人的ミスから発生した大きな障害ということで、私どもの作業でも、いつどこで同様のことが起こるかも分からない。社内で対策チームを設けて、もう1回、我々も1から見直せということで検討してもらっております」としたうえで、大規模障害時に大手通信事業者の各社間でネットワークを共有する“ローミング”の考え方について以下のような考えを述べました。

「ヨーロッパではできていること。なぜ日本ではやらないのか。いつ誰が、再びこうした障害を起こすかも知れません。そのとき、事業者同士で支え合えたら良いんじゃないか。いま総務省さんが中心になって、このローミングについても議論が始まったと聞いております。通信は(ソフトバンクが通信障害を起こした)当時よりもさらに社会インフラとしての重要度が増しています。ATMが使えなくなったり、配達の連絡が取れなかったり、アメダスが使えなかったりする。そのなかでもいちばん影響があると思うのは、認証と決済についてです。オンラインで通販を利用するとき、二重認証としてSMSで本人確認をして決済できる仕組みが導入されています。株の取引時もそうですし、本人確認が非常に重要度を増しています。私たちもPayPayを含めて、スマホ上で決済できるような環境を提供しています」

「ヨーロッパのように障害時にSIM無しの緊急通報ができる仕組みをつくったほうが良い、あるいは障害時だけつながる緊急の仕組みを作れないか、などの提案がありました。ただ、障害時に果たして本当に119番と110番の通話の確保だけで、世の中のパニックが収まるのか。これは残念ながら、あまり機能しないと正直なところ思っております。受け側の負担も考えると、やはり何かしらのローミングだとか、そんな機能を本気で考える時期に来たのでは。これは個人的に思っているだけで、まだ他のキャリアさんと議論してるわけじゃないですけども。個人的には各キャリアが、例えばソフトバンクですとドコモさんからもKDDIさんからもMVNOの構造を受けておいて、緊急の事態には切り替えが可能になるようなeSIMみたいなものを用意しておく。そうしないとトラフィックが集中して、受けた側のネットワークがひっくり返っちゃいますから。これから議論が始まる、フルローミングの方法論として提案していこうと思っています」

障害時にパニックを収めるためには、通信速度にはこだわる必要はなく、例えば300kbpsぐらいの通信速度で電話/メール/LINEが使えて、Webサイトで何が起こってるのかを確認できるぐらいの能力があればよい――と宮川社長。日本としては、有事の際にどうやって最低限の通信を確保していくかをこれから検討していきたい、と思いを語りました。

KDDIが通信障害のお詫びとして、約款の返金以外に200円を返金することについては「今回の200円については、これが多いのか少ないのかということのコメントは控えさせていただきます。ただKDDIさんの中で約款に基づいて決められたものプラスアルファだという風にお伺いしております。KDDIさんの決められた誠意という受け止めです。もし同じ障害が起こったとき、ソフトバンクとしてどうするのか。まずは約款に基づいて、あとはその時の状況によって検討して参ります」とのこと。

楽天モバイルの0円プラン廃止の影響

楽天モバイルが0円プランを廃止した受け止めについては「我々の第1四半期の純増数が増えたというお話にも通じるんですが、これは一時的かも知れませんが、楽天さんからの転入が増えたということがあります。転出数も半分に減った。それでトータルすると良い数字が出ています」と解説。「ただ、これから楽天も巻き返してくるので、今後とも簡単に純増が続くとは思っておりません」と付け足しました。

純増数の内訳については「その中心はワイモバイルですが、楽天さんの0円廃止の発表後にはLINEMOもかなり増えています。これまでのLINEMOの増えかたより、勢い良く増えている印象です」と回答。KDDIの通信障害の後の影響については「解約数が減った、というのがイチバン大きな流れだったと思います。我々のところからKDDIさんにMNPで移っていた絶対数が、グッと圧縮された。それは、契約を継続した方が良いと思って踏み留まっていただいるのか、もう少し様子を見てから解約しようと思われているのか、もう少し長い目で見ないと分からないとは思います」。

販売店との関係・今後について

販売代理店について聞かれると「キャリアと販売代理店さんの間には、上下関係はないと僕は思っております。パートナーということです。昔のような、携帯電話の契約者数がうなぎ上りだった時代は、お互いにうまくやれていた。でもこう厳しい環境にお互いになってくると、本当に色んな議論をしなくちゃいけない。いま、そんな時期が来たんだと思っています。お客様のために良くない契約をすることがないように、お客様第一主義ということで、そんな目線に立ってよく議論していきます。今まで一緒に業界を作ってきたお仲間ですから、これからも健全な業界作りを目指していけたら。いま一度、置かれた環境の中での議論をしっかりとやっていきたいと思います」。

PayPayの上場について

PayPayの上場については「現時点で決まったことはない、という回答になります。いま市場環境を見ていますが、この状況で出る(上場する)のはあまりよろしくないと感じています。あと、できれば黒字化したタイミングで上場したい。(PayPayには)そうアドバイスをさせていただいています。今回、共同経営する中間持株会社を発表しました。これは仮に上場しても、常に経営には携わっていきたいという意思の現れです。チャンスがあれば当然、上場はしていきたい」と回答。

PayPayの連結子会社化を発表したことについて、これまでは「もう少し攻めの姿勢を続けてから大きな収穫期を迎えたい」と表現していたが――と聞かれると、「いまちょうど5,000万ユーザーに近づきまして、まだその勢いは止まっていません。もっと伸ばしていきたい。だから、まだ攻めた方が良いと感じています。攻めてる間は、黒字にはならないんじゃないか、という意見もありますが、だんだん数字が良くなってきているので、黒字化するギリギリのところまでは攻めたい」と宮川社長。そして「勢いのあるうちは、勢いを継続したいということだけは決めております。それが半年後なのか、1年後なのか、2年後なのか。運転しながら決めていきたいなと思っています」としました。

エネルギー価格高騰などについて

昨今のエネルギー価格の高騰についても聞かれましたが、「電気通信事業者というくらいですから、電気を消化しながら商売をやっておりますので、電気代が高騰すると影響が出る会社です。ただ今のところ、電気代の高騰を事業計画に織り込んだ上で経営しておりますので、急激に経営状況が悪化するところまではいかないと思います。これが仮に、kwあたり年間に5円とか10円とか値上がり続けるのかというと、まあそこまでは見ておりません」とのことです。

原発の再稼働については「本当は会社として、原発は反対の方向で今までもアナウンスしてきましたし、それに合わせて太陽光発電などの会社もグループ会社に作って頑張ってきたつもりです。ただ、それではもう賄い切れなくなったかも……ということは、正直に言って感じております。安全運転を前提にしていただけるのであれば、これ(原発の再稼働)も致し方なし、とこういう風に感じております」と現在のスタンスを説明。

そのうえで、「もっと安全な、それからコストの安い発電方法などもあれば、我が社としても積極的に発電側に参加して参りたい。今後の計画として考えております。そのために僕の直轄部隊で、特別室を作って検討を続けています。非常に興味はあるんですが、これでいくぞって答えが出たわけでもありません。ここは静観しながら、私どもとしてもチャンスがあれば積極的に乗り込んでいく、という業界だと思っております」と、新しい取り組みに積極的な姿勢をみせました。