世界的な「脱カーボン」の流れに乗り、パナソニックが脱炭素ソリューションを提供する新しい取り組みを始めています。

経済産業省は脱カーボンに向けた取り組みの中で、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス、「ゼッチ」)に加え、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル、「ゼブ」)を推進中。内閣官房が公表した地域脱炭素のロードマップでも、既存の公共施設や業務ビルといった建物において、省エネ化や再エネ電気の調達化をしていく方針を明確に打ち出しています。

  • 省エネを極めた特別養護老人ホームを実際に見てきました

ZEBプランナーとは?

パナソニックは脱炭素ソリューションとして建物から町全体、都市全体までを想定していますが、その中で脱炭素と地域環境を構築するために、店舗やビル、学校などの施設をエコ&スマート化するZEBを普及するための事業化を本格スタート。

ZEBとは、快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物を意味します。省エネを推進してエネルギー消費を減らし、エネルギーを創り出す「創エネ」によって、トータルのエネルギー消費を「±0」に近づけます。簡単にいうと「省エネを極めた建物」ということ。

  • 脱炭素を目指すだけでなく「快適に暮らす」ために、さまざまなソリューションを提供

矢野経済研究所のZEB市場予測では、ZEBの市場規模は2030年に7,000億円と大きく成長する見込み。パナソニック エレクトリックワークス社は、そういった市場背景から2019年10月に一般社団法人 環境共創イニシアチブの「ZEBプランナー」として登録。ZEBプランナーとは、ZEBを実現して普及を進めるために窓口を設け、建築主(オーナー)に対する業務支援(建築、設備の設計、施工、コンサルティングなど)を行う「法人」に限られている資格です。

  • ZEBの市場規模は拡大すると予測されています

  • ZEBの対象設備は5設備。創エネは現状では太陽光発電

省エネ性能を高めるには、2つ基準があります。ひとつは省エネ設備。空調、換気、照明、給湯、昇降機という5つの設備を使った省エネです。OA機器など、設計図にない設備は対象外となっています。もうひとつは、太陽光発電などの「創エネ」によって省エネを図ります。この2つで数値化して、第三者認証機関が評価し、ZEBとして認証されます。

  • ZEBは3つのランクがあります

ホテルや病院、百貨店など、10,000平方メートルを超える建物については30%以上、事務所や学校、工場では40%以上の省エネで「ZEB Oriented(ゼブ オリエンテッド)」と認証されます。10,000平方メートル以下の一般的なビルでは、「ZEB Ready(ゼブ レディ)」「Nearly ZEB(ニアリー ゼブ)」「ZEB(ゼブ)」の3ランクに分けられます。

従来の建物で必要だったエネルギーに対し、「ZEB Ready」は省エネによって50%以下に削減、「Nearly ZEB」は省エネ+創エネによって25%以下に削減、「ZEB」は省エネ+創エネで0%まで削減した建物として定義されます。

パナソニックがZEBプランナーとして認証を受けたワケ

現在は、大手設計事務所、大手ゼネコン、電気設備メーカーなど、約300社がZEBプランナーとして登録されています。パナソニック エレクトリックワークス社の小西豊樹さんは、その中でも幅広い商材を扱っていることがパナソニックの強みといいます。

「パナソニックは空調機や照明器具といった製品を幅広く取り扱っています。ただ販売するだけではなく、EMS(エネルギーマネジメントシステム)による設備連携で空調や照明などを自動化したり、入退室管理を使った新たな付加価値サービスや運用をサポートしたりと、これまでの実績を生かしてトータルで対応できます」(小西さん)

  • パナソニック エレクトリックワークス社 マーケティング本部 綜合営業企画部 電材営業開発グループ 小西豊樹さん

なお、ZEB化によるコストアップは、中小規模では約10%。ただし光熱費などのランニングコストが下がり、現状では補助金でも補完できるので、持ち出しはほとんどないとのこと。現在は老人福祉施設、中小企業の本社ビル建て替え、工場の事務所などからの依頼が多いそうです。

省エネ性能が高い「ZEB」老人ホーム

今回、ZEBの第一号案件である特別養護老人ホーム「久辺の里」を見学することができました。

  • 沖縄県の名護市にある特別養護老人ホーム「久辺の里」は一見すると普通の老人ホームですが、中は省エネの工夫が盛りだくさん

「久辺の里」を運営しているのは、ビケンテクノグループの社会福祉法人 美健会。地上3階建、約3,000平方メートルのRC造で、入所定員は特養29床、短期入所20床、デイサービス29名となります。目の前には美しい海が広がっており、高い建物がなく、とても日当たりのよい場所です。

特別養護老人ホームという生活を送る施設の観点から、快適性と省エネの両立を実証する建築物となっています。屋上には計48枚のソーラーパネルが設置され、すぐ隣には高効率の変圧器がずらりと並んでいました。施設で使われる電力の一部をこれでまかなう「創エネ」の役割を果たしています。

  • 屋上にはソーラーパネルがこの通り

  • 高効率空調室外機

個室には、パナソニック製の省エネ性が高い最新エアコン「エオリア」が設置されていました。集中管理して空調をコントロールするより、冷暖房は個別で制御したほうが省エネ性能は高いとのことでした。

  • 明るく清潔感のある個室には最新のエアコンが設置され、快適に過ごせます

老人ホームは湯切れができないということで、効率のよいエコキュートはあきらめ、ガスキュートに変更。給湯に関する項目はいわゆる「ZEB」の数値が低くなってしまうため、換気効率を上げて数値を調整。

ZEBプランナーは、バランスを見ながらこういった数値の計算を細かく行っています。特に老人ホームのような場所では、健康的に心地よく過ごせる快適性も重視しなければならないため、ギリギリのところで調整しているようです。ここはプランナーの腕の見せどころといえるでしょう。

また「久辺の里」は、名護市の避難場所として防災協定を締結。災害時は太陽光と蓄電池によって、最低でも24時間の使用ができます。

  • 蓄電池設備も備えています

施設全体の電力使用状況はエネルギーマネジメントシステム(EMS)で管理されているので、空調だけでなく、照明などもムダなく省エネ制御が行われています。基準値「2,721MJ/平方メートル・年(※)」の半分以下である1,299MJ/平方メートル・年に抑えられており、ZEBランク「ZEB Ready」に認定されています。

※:MJ/平方メートル・年
建物の年間エネルギー消費を表す単位。「MJ」は「メガジュール」で、「1MJ = 約0.278kWh」

ZEBの取り組みは、2022年度から本格スタート

パナソニックのZEBプランナー推進は、プランを組み立てるプランナーが7名、開発営業マンが約200人という体制で今年度(2022年度)から本格的にスタートするとのこと。今後は、公共事業の業務ビルなどを中心に、2022年はプラン件数40件(受注金額20億円)、2030年にはプラン件数280件(受注金額220億円)という具体的な数値目標を掲げています。