2022年7月2日、ドルトン東京学園 中等部・高等部にて、北米教育eスポーツ連盟 日本本部(通称:NASEF JAPAN/ナセフ ジャパン)が主催する、第3回「NASEF JAPAN eスポーツ国際教育サミット2022」が開催されました。

「STEAM教育×eスポーツの可能性」をテーマとする本サミットでは、eスポーツ部の活動実態に関する筑波大学との共同研究発表や、高校生によるプレゼンテーションなどを実施。また、サミットの終了後には、NASEF JAPANによる特定⾮営利活動法⼈の設⽴発表会が行われました。その模様をお届けします。

取り組みの背景にあるのは、日本の深刻な国際競争力低下

本サミットは、NASEF JAPAN会長の松原昭博さんによる基調講演からスタートしました。NASEF JAPANは、子どもたちが興味・関心を持つeスポーツを入り口として、世界へ羽ばたくDX人材を育成することを目指しています。

その背景として、世界における日本の経済競争力が、深刻な状況にあることが語られました。国別GDP前年成長率ランキング(IMFレポート2021)で、191ヶ国のうち日本は157位。先進国のみのランキングでは、日本は最下位になるといいます。

さらに、デジタル競争力(IMD世界デジタル競争力ランキング2021)では、64ヶ国のうち日本は28位。日本のランキングは、年々下がっている状況にあります。また、経済産業省による調査では、2030年には日本でIT人材が45万人不足すると予想されています。

  • NASEF JAPAN会長の松原昭博さんによる基調講演

こうした状況のなかで、社会課題解決に寄与するべく、NASEF JAPANは次世代を担う高校生を中心に、さまざまな取り組みを行っています。

最近の活動実績として挙げられたのは、「NASEF Farmcraft 2022」や「eスポーツ・クリエイティブ・チャレンジ」。この2つについては、実際に参加した高校生によるプレゼンテーションが行われたため、その内容を後述します。

もう1つは、NASEF JAPANが主催するeスポーツ大会「NASEF JAPAN MAJOR」。これは大会を行うだけでなく、大会の前後にスポーツマンシップを学ぶ授業など、教育プログラムが合わせて実施されることが特徴です。

そして、今後の活動として挙げられたのは、eスポーツ部の顧問教員をサポートする部活動運営マニュアルの作成や、筑波大学と連携したeスポーツの教育効果についての調査研究。また、インテルがグローバル展開するSTEAM教育プログラムを、日本において共同推進していくとしています。

eスポーツ部における課題は、PC導入困難や指導者不足

続いて、筑波⼤学准教授の⾼橋義雄さんより、NASEF JAPANと筑波大学による共同研究「日本の高等学校におけるeスポーツ活動の実態と課題」の発表が行われました。

昨今では、高校生を対象とするeスポーツ大会も多く開かれるようになり、全国に300を超えるeスポーツの部や同好会が存在します。一方で、eスポーツ部の活動実態やeスポーツ部設立に向けた課題を、研究や調査を通して把握できていないという背景から、本調査が行われました。

本調査では、NASEF JAPANの加盟校319校の顧問教員を対象とするWeb調査(回収数:103校、有効回答数:84校)と、Web調査に回答した対象者のうち同意を得られた顧問教員13人へのインタビューを実施。この日の発表は概要のみでしたが、加盟校には詳しい報告書が共有されます。

  • 筑波⼤学 准教授 ⾼橋義雄さんによる共同研究発表

発表のなかでは、「部(または同好会)の設置に向けて課題であったことを教えてください」という質問への回答が取り上げられました。特に多かった回答は、「ゲーミングPCの導入困難」(60.9%)、「技術指導者の不足」(57.8%)、「資金不足」(53.1%)の3つです。

それぞれの解決策の回答から、「ゲーミングPCの導入困難」や「資金不足」については、サードウェーブによるeスポーツ部支援プログラムなど、企業の支援が活用されていることがわかりました。また、「技術指導者の不足」については、生徒同士で教え合ったり、外部指導者のコーチングを受けたりすることで解決を図っているようでした。

以前、愛知県立城北つばさ高校のeスポーツ部を取材したときにも、運良く『League of Legends』に詳しい非常勤の先生がいたため、その先生のサポートに助けられたというエピソードがありました。教員にもゲームの知識が求められる点が、eスポーツ部におけるハードルの1つといえます。

また、一部の学校では「同僚教員の反対」(10.9%)もありましたが、メディアを通じて活動を発信したり、大会で結果を残したりすると見え方が改善する傾向にあるようです。また、その他の課題としては、「女性部員の少なさが解決できていない」といった声もピックアップされました。

なお、今回はeスポーツ部の顧問教員への調査であったため、今後の調査における課題として、生徒自身がeスポーツ部の活動を通じて感じた変化を捉えることも必要だと語られました。

ゲーム内での農業から、リアルの農業体験へ

次に、アイデアコンテスト「eスポーツ・クリエイティブ・チャレンジ」の最優秀賞に選ばれた水戸啓明高等学校の7人の生徒たちがプレゼンテーションを行いました。第2回となる今回のテーマは、「eスポーツ×SDGs」です。

水戸啓明高等学校は、メンバーのうち4人が、『Minecraft(マインクラフト)』のゲーム内で最適な農地をつくるコンテスト「NASEF Farmcraft 2022」に参加。これをきっかけに、「本当の農業を知っているのか?」というやり取りが生まれ、実際に農業体験へと赴きます。

そして、SDGsのゴールの1つである「つくる責任 つかう責任」に注目。食品ロスの問題を調査し、「飢餓をゼロに」、「気候変動に具体的な対策を」といったSDGsのゴールにも着目します。さらに、身近な給食の食べ残しについて調べるため、給食センターに足を運び、校内での啓発ポスターを作成するなどの行動に移します。

水戸啓明高等学校の生徒たちは、日常生活から身近な問題を自分ごと化し、実際に行動に移すことが、世界の問題を解決する糸口になると結論づけました。

  • プレゼンテーションを行う水戸啓明高等学校の生徒たち

「NASEF Farmcraft 2022」で世界3位獲得の快挙

続いて、「NASEF Farmcraft 2022」で世界3位を獲得した、山口県⽴修館⾼等専修学校の生徒たちによるプレゼンテーションが行われました。

NASEFと米国国務省が開催する「NASEF Farmcraft 2022」は、『Minecraft』内で最適の農地をつくることを目指し、環境変化などのさまざまなシチュエーションに対処しながら、お金・土壌・水などのスコアを競い合います。

2022年の大会では、日本から4校7チームが参加。世界で68ヶ国から1,152チームが参加しました。そのなかでの世界3位入賞は、非常にすばらしい結果といえるでしょう。

本大会はすべて英語で行われ、スコアを競うだけでなく、英語でプレゼンテーションした動画を提出する必要があります。参加した生徒たちは、決められた期間のなかで、英語を読んで理解しながら進めていくことが大変だったと振り返りました。

また、山口県⽴修館⾼等専修学校の生徒たちも、この「NASEF Farmcraft 2022」をきっかけに農業の方法や環境への影響について調べ、実際に農家の方々のもとへ足を運んでインタビューを行っています。この日発表した2校とも、ゲームでの体験を入り口として、現実でのさまざまな行動や学びにつなげていることが印象的でした。

  • 「NASEF Farmcraft 2022」では、英語での字幕とナレーションを入れた動画を作成

  • リモートで発表を行った、山口県⽴修館⾼等専修学校の生徒たちと顧問の先生

「STEAM教育」に取り組んでいくための環境構築

続いて行われたクロストークセッションでは、「未来を担う若者へ~STEAM&グローバル教育の取り組みについて~」というテーマで、今後子どもたちに提供していくべき教育プログラムについてのトークが行われました。

登壇したのは、インテル株式会社 執⾏役員の井⽥晶也さん、ドルトン東京学園 中等部・⾼等部 コンピューターサイエンス スーパーバイザーのRamzi Ramziさん、NASEF JAPAN会長の松原昭博さん。そして、NASEF JAPAN統括ディレクターの内藤裕志さんが、ファシリテーターを務めました。

  • (左から)NASEF JAPAN統括ディレクター 内藤裕志さん、ドルトン東京学園 中等部・⾼等部 教諭 Ramzi Ramziさん、インテル執⾏役員 井⽥晶也さん、NASEF JAPAN会⻑ 松原昭博さん

「STEAM教育」とは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Art(芸術・リベラルアーツ)、Mathematics(数学)の5つの頭文字を組み合わせてつくられた言葉で、「スティーム教育」と読みます。

近年注目を集めるSTEAM教育は、急速な技術の進展により社会が大きく変化していることを背景として、課題を見つけて解決する力など、実社会で求められる能力を身に付けることを目指す教育方針です。

インテルは、STEAM教育を実現するための環境構築をサポートする「STEAM Lab事業」を展開しています。ドルトン東京学園をはじめとする18校では、2022年4月よりSTEAM Labの実証研究を開始。先進的な取り組みを行うドルトン東京学園では、校内に「STEAM棟」を設けるなど、力を入れて取り組んでいます。

STEAM Labで使われるハイエンドPCは、eスポーツで使われるPCと同等のもの。そのため、授業ではPCを使ってプログラミングなどを学び、放課後にはeスポーツ部の活動を行うなど、同じ設備を活用して、授業とeスポーツの両方に取り組める可能性があることなども語られました。

NASEF JAPAN 特定非営利活動法人を設立へ

サミットの終了後には、NASEF JAPANの特定⾮営利活動法⼈(NPO法人)設立発表会が行われました。NASEF JAPANは、2020年より任意団体として活動を行ってきましたが、より社会的信用を獲得し、安定した運営を行うために、特定非営利活動法人を設立します。

NASEF JAPANとしては今後、eスポーツ部向けガイドラインなどの独自コンテンツの開発や、「NASEF Farmcraft」を中心とした教育コンテンツの普及や啓発に注力。また、筑波大学をはじめとする、大学・教育機関と連携したeスポーツの教育的効果に関する研究にも注力していくとのことでした。日本では、ゲームやeスポーツに関する調査研究が少ない現状があり、今後の研究活動に期待が寄せられます。

  • NASEF JAPANによる特定非営利活動法人 設立発表会