実際に同演算方式の検証を目的としたシリコンフォトニクス技術による光集積回路を製作。具体的には、シリコン導波路型マッハツェンダー光干渉計(MZI)および単体位相シフタを基本要素としたメッシュ構造を採用し、それらMZIや単体位相シフタは、導波路近傍に配置されたヒーターによる熱光学効果で動作する仕組みを採用したとする。

  • 今回の研究で考案された非線形写像型光ニューラルネットワーク演算回路

    (上)今回の研究で考案された非線形写像型光ニューラルネットワーク演算回路と、それを用いた花弁形状によるアヤメの分類結果。(下)(a)製作されたニューラルネットワーク演算用シリコン光集積回路(Nature Communications誌に掲載された図面が和文に編集されたもの)。(b)評価用実装モジュール (出所:NTT Webサイト)

また、デバイスにある干渉計パラメータの設定は、機械学習により実施。学習には、「細菌採餌最適化アルゴリズム」または「前方伝搬アルゴリズム」が利用され、回路実機に対する直接的な学習が実施された。同学習は、外部コンピュータによる事前学習とは異なり、自らの経験に基づいた自律的な学習習熟度の向上を可能とする技術であり、今回の研究の大きな成果の1つだという。

実際の演算例として、アヤメの花弁サイズからアヤメの種類を判別するという内容の分類演算用ベンチマーク「Iris flower classification」を実施。分類結果は、最大光パワーを与えるポートが各アヤメ種に割り当てているポートと一致していれば正解となる。

学習前はサンプル番号と出力ポートの光パワーに相関はなく、分類はできていないが、90サンプルの学習後は、約94%の正答率で分類が可能となったとするほか、学習に用いていない60サンプルに対しても分類が行われたところ、約97%の正答率が得られたとした。

  • 非線形写像を用いた分類演算のイメージ図

    (上)非線形写像を用いた分類演算のイメージ図。(下)アヤメの花弁形状による花種分類演算のベンチマーク結果。結果解説の図は、学習後の結果をもとに最大値を与えた出力ポートが示されたもの。中央の図はNature Communications誌に掲載された図面が和文に編集されたもの (出所:NTT Webサイト)

また、分類演算の処理時間は、光集積回路を光が通過する時間である100ピコ秒以下であり、デジタル電子回路演算の約1000分の1となることを確認したほか、回路パラメータの設定に要したヒーター電力は約360mWと、やはりデジタル電子回路演算の数十分の1ほどであったという。さらに、データ入力用干渉計を応答の遅いヒーター方式から数十GHzで動作可能なPN接合型高速シリコン光変調器に変更することにより、原理的には毎秒数百億回の高スループット演算も可能となる見込みと研究チームでは説明している。

なお、研究チームによると、今後は演算回路を大規模化し、より複雑な演算への適用性を確認していくと共に、高スループット化や学習機能の集積化に向けて、入力用高速光変調器や受光器の集積、デバイス駆動用、および学習制御用の電子回路の実装を進める予定だという。また、今回提案された非線形写像型の演算方式をベースに、汎用データプリプロセッサや、再帰回路の付与による時間波形認識など、より幅広くかつ実用性の高い応用への適合性の確認を進める予定としている。