角度分解光電子分光実験は電子構造を直接観測することのできる手法ながら、光電子放出に伴う帯電の抑制、清浄表面の取得、表面敏感性(光電子脱出長は一般的に数オングストローム程度)といった測定上の困難が伴うことから、今回の研究では、今後の研究展開を見越して、より複雑な原子層フレーク試料に対しても適応可能な角度分解光電子分光用の試料作製方法を開発することで、微小な原子層フレーク試料から明瞭な角度分解光電子分光像を得ることに成功したとする。
その結果、2層~5層WTe2では層数の偶奇性に依存して異なる電子構造が形成されていることが確認されたとする。また、偶数層数では、電子スピンの自由度の数に対応して電子構造が明瞭に2つに分裂している様子が観測されたとしており、これは偶数層数のみ結晶構造の非対称性が強くなっていることが示されているとのことで、研究チームでは、結晶構造の対称性の考察を行うことで、層数の偶奇性に応じた結晶構造の非対称性の振動の起源を解明したとする。
さらに、単層がどのように積層されるかに応じて、数層試料において特異な物性が発現し得ることも解明したとしているほか、今回の研究で開発された角度分解光電子分光用の試料作製方法は、異種原子層フレークの積層体やひねり角を加えて積層したツイスト積層体など、より複雑な試料の測定にも適応可能だとしている。
なお、研究チームでは、今回の成果を踏まえ、従来のバルク材料とは質的に異なる量子物性を発現する、極薄の原子層フレークを材料とした積層体の物性研究が進展することによって、次々世代デバイスの基盤技術の創出といった応用展開が期待されるとしている。