mGlu1は、7回膜貫通構造と細胞外に大きなグルタミン酸結合部位を有するGタンパク質共役型受容体の一種として知られており、細胞外においてグルタミン酸が結合すると、貝の口が閉じるかのようにグルタミン酸結合部位の構造が変化し、その構造変化が膜貫通領域に伝播してGタンパク質が結合することにより細胞内に情報が伝達されるという仕組みを持つ。

そこで今回の研究では、グルタミン酸結合部位の入り口の上下に金属配位性のアミノ酸であるヒスチジンの変異導入を行い、金属錯体を加えるタイミングでmGlu1を活性化させる方法を考案することにしたという。天然リガンド(グルタミン酸)との親和性を維持したmGlu1変異体が見出され、その変異体を選択的に活性化できる人工化合物「Pd(bpy)」および「Pd(sulfo-bpy)」が開発された。

  • 配位ケモジェネティクスによるmGlu1の活性化

    配位ケモジェネティクスによるmGlu1の活性化。(a)mGlu1の構造およびグルタミン酸結合による活性化の模式図。(b)配位ケモジェネティクスによるmGlu1活性化の模式図。(c)グルタミン酸およびPd(bpy)の濃度依存性。mGlu1(N264H)はPd(Bpy)で活性化される。また、グルタミン酸の濃度依存性は野生型mGlu1と比較してほとんど変化しない (出所:プレスリリースPDF)

また、ゲノム編集技術によりmGlu1変異体を発現する遺伝子改変マウスを作製し、同マウスから得られる小脳切片にPd(sulfo-bpy)を投与したところ、mGlu1が関わる高次脳機能(小脳長期抑圧)を選択的に誘起することに成功したとするほか、アデノ随伴ウィルスを用いて、マウス小脳内の標的とする神経細胞種にmGlu1変異体を選択的に発現させ、細胞種選択的にmGlu1を活性化させることも成功したともする。

  • 配位ケモジェネティクスによるmGlu1の活性化

    配位ケモジェネティクスによるmGlu1の活性化。(a)小脳の構造の模式図。(b)mGlu1変異マウスにおける、mGlu1の発現確認。左はmGlu1タンパク質の発現量、右はmGlu1の発現分布。(c)Pd(sulfo-bpy)処置前後のEPSC値の変化 (出所:プレスリリースPDF)

なお、今回開発された配位ケモジェネティクス法では、mGlu1の機能を失うことなく低毒性なPd(sulfo-bpy)による活性制御ができるため、小脳に限らず、さまざまな脳部位の神経細胞種選択的なmGlu1の活性化および機能解明の実現が期待されると研究チームでは説明しており、今後、神経回路における各種グルタミン酸受容体機能の細胞別分類に応用することで、グルタミン酸受容体が関わる記憶や学習などの高次脳機能の解明が加速することが期待されるとしている。