先日開かれたアップルの世界開発者会議「WWDC 2022」では、今年も次期OSに関連する話題が盛りだくさんでした。一方、イベントの開催前にウワサされていたものの、基調講演では結局発表されなかった製品や技術もあります。
次にアップルが開催するであろう秋のiPhoneを中心とする新製品発表のイベントに、今から期待することをまとめてみたいと思います。
画質や描画精度を向上した「ARKit 6」発表、独自ARデバイスとの関連性は?
WWDCの前に、アップルの「ARとVR」に関連する発表に注目していた方も多かったのではないでしょうか。
基調講演では触れられなかったものの、アップルはAR技術の最新フレームワークである「ARKit 6」を公式サイトで発表しています。WWDCのオンラインセッションでは、ARKitを担当するエンジニアのChristian Lipski氏が進化の詳細を解説しています。
ARKit 6で進化する内容について、ポイントをまとめます。
まずはARアプリの起動中に、4K/HDR/30fpsの高画質な背景画像のキャプチャが可能になり、併せて高品位な仮想オブジェクトも置けるようになります。つまり、AR空間内の画質が向上するということ。こちらは、対応する機種がiPhone 11以降、第5世代のiPad Pro 12.9インチ以降に限られるようです。
LiDARスキャナを搭載するiPhoneやiPad Proに関連するところでは、深度情報の認識が高速化し、仮想オブジェクトの即時配置と、現実空間にあるオブジェクトとの前後関係を判定するオクルージョン処理の精度が向上します。ARアプリのコンテンツがサクサクと、正確に描かれるようになります。
デバイスのカメラを使ったリアルタイムモーションキャプチャは、左右の耳のトラッキングに対応し、体全体のポーズ検出が改善されます。一度のキャプチャにより最大100枚の画像を検出。画像内オブジェクトの物理的なサイズの自動推定も可能になります。被写体となる人物の認識精度が高くなることは間違いなさそうです。
WWDCの基調講演ではiOS 16の新しい機能のひとつとして、空間オーディオリスニングの個人最適化が発表されました。アップルは「iPhoneのTrueDepthカメラを使ってユーザーの個人用プロファイルが作れる」と説明していますが、この新機能にもARKit 6のリアルタイムモーションキャプチャの技術革新が絡んでいるのかもしれません。
WWDCの開催前には、アップルが独自に開発を進めているAR/VRゴーグルがベールを脱ぐのではないかというウワサも盛り上がりました。ARKit 6が「AR空間の画質と描画レスポンスの向上」に踏み切ったということは、リアルなグラフィックスを再現できる何らかのディスプレイデバイスを、近い将来にアップルが発表する可能性が高くなったと筆者は見ています。いま、アップルに4K/HDRディスプレイを搭載するポータブルサイズのデバイスがほかにないからです。
WWDCで発表したARKit 6をまずはデベロッパに使いこなしてもらい、アプリやサービスがずらりと出揃いそうな来年の春、または秋ごろにアップルによるAR対応のヘッドマウントディスプレイがドカンと発表されるのではないか、と筆者は予想します。
AirPodsのロスレス対応を実現する道筋とは
Apple Musicには現在、ロスレスとハイレゾロスレスの高音質で聴ける配信タイトルが揃っています。ところが現在、iPhoneやiPadは圧縮処理を伴うBluetoothオーディオの伝送技術であるAACにのみ対応しているため、ワイヤレスでApple Musicの楽曲を高音質のまま聴くことができません。
AirPodsシリーズのユーザーである筆者も、Apple Musicのロスレス/ハイレゾロスレスの楽曲が“いい音”で聴けないことを歯がゆく感じています。しかし、先日のWWDCでは本件に関連する特別なアナウンスがありませんでした。
ワイヤレスオーディオ再生をBluetoothの技術に頼る限り、アップルはLDACやaptX Adaptiveのようなハイレゾに対応する既存の伝送技術を採用するか、またはBluetoothオーディオの次世代規格であるLE Audioのハイレゾ対応コーデックである「LC3plus」をベースにした作り込みが求められます。
あるいは、高音質ヘッドホン「AirPods Max」の次世代モデルでWi-Fi機能を積み、独自のワイヤレスストリーミングの機能であるAirPlayをブラッシュアップしてロスレス、またはハイレゾロスレスを含む高音質なワイヤレス音楽体験をアップルデバイスとの間で実現する、という道筋も考えられそうです。秋以降のAirPods関連の動向に要注目です。
次の無印iPadに「M1チップ搭載」を期待する理由
iPadOS 16の発表を受けて、筆者は秋にアップルが新製品を発表する時に「第10世代のiPad」が意外な台風の目になりそうな予感がしてきました。
というのも、iPadOS 16の目玉機能のひとつであるマルチタスキング体験の向上を導く「ステージマネージャ」を利用できる環境が、M1チップを搭載するiPadに限られているからです。
筆者の周囲からは、パソコンと違ってファイルやアプリの操作が難しいことを理由に、モバイルPCをiPadに置き換えられないと嘆く声が聞こえてくることがあります。ステージマネージャは「PCからiPadへの置き換え」を力強く促す機能だと思いますが、そのために今使っているiPadを最新モデルに買い換えることの負担は軽くありません。
ならば、手ごろな価格で買える“無印”iPadがM1チップを搭載し、現在の第9世代のiPadと大きく変わらない価格で発売されたら、とても魅力的に感じられませんか? カラバリやデザインも少しでよいので変えてもらえたら、筆者も飛びつくと思います。
余談ですが、WWDCの現地取材中にApple Pencilをなくしそうになってヒヤリとしました。結局、バッグの奥底に隠れていて事なきを得ましたが、Apple Pencilに「探す」機能を付けたニューモデルをアップルに発売してもらいたいです。
Apple Watchの次の廉価モデルに期待
今回のWWDCでは、watchOS 9がApple Watch Series 3に対応しないという悲しいお知らせもありました。Series 3が2017年秋から続くロングセラーモデルであることを考えれば、むしろ今までよく頑張ったといえます。
でも、これってつまり、秋に新しい廉価モデルのApple Watchが発売されることの伏線ではないでしょうか?
Apple Watch SEも発売から2年を迎えようとしています。watchOS 9の新しい文字盤の中には、とてもポップなデザインとカラーの文字盤があります。ケースの素材と仕上げ、カラーなどをナンバリング付きの“Series”よりもカジュアルにしたApple Watchの新しい入門機か、あるいはスポーツモデルの発売を期待してしまいます。
そういえば「Mac Pro」はどうなった?
3月のMac Studio発表の際に予告されていた、次期「Mac Pro」の発表はWWDC以降に先送りされました。Macの最高峰である本機には、やはり新しいアップルシリコンである「M2」をベースにしたハイパワーなチップを載せることを検討しているのでしょうか。
Mac Proに搭載されるチップが「M2 Ultra」になるとすれば、「M2 Pro」「M2 Max」はどうやって日の目を見れば良いのでしょうか。
WWDCで発表された「M2」は、パフォーマンス的な視点で位置付けるならば「M1 Proの方が上」なのだそうです。だからといって、間を飛ばしてM2 UItraを搭載するMac Proだけが出てくるというのも何か収まりが悪い気がします。ひょっとするとM2 Pro、M2 Maxが選べる「iMac Pro」が復活したり、「Mac mini studio」的な新種が誕生して、プレミアムクラスのM2チップが一気に出揃うかもしれません。
早くも、秋のアップルによる新製品発表会が待ち遠しくなってきました。