Cygamesの対戦型オンライントレーディングカードゲーム『Shadowverse』の大学生リーグ「Shadowverse University League」では、大学生によって「シャドウバース大学生リーグ学生実行委員会」(これまで「シャドウバース大学生リーグ広報部」として活動していたが2022年から「運営部」を統合し改称)が2020年から運営されている。

第1期生のOBやOGのなかには社会人としての道を歩み始めた人もいるわけだが、大学生リーグ学生実行委員会で働いた経験は、学生の職業観にどのような影響を与えたのだろうか。2022年に慶應義塾大学 経済学部 経済学科を卒業し、IT企業への就職を決めた、第1期広報部員の福谷莉菜(フクタニ リナ)さんに話を聞いた。

広報部の仕事は、アイデアを持ち寄り、実現の可能性を探ることからスタート

――シャドウバース大学生リーグ広報部に応募された経緯を教えてください。

福谷莉菜さん(以下、福谷):もともとゲームが趣味で、『ポケモンカードゲーム』をきっかけにゲームにおける競技シーンの存在を知り、『Shadowverse』などeスポーツタイトルもプレイするようになりました。

『ポケモンカードゲーム』では女性の友達も多かったのですが、『Shadowverse』では女性、特に大学生くらいの年齢の女性プレイヤーの少なさが気になっていました。そこで、『Shadowverse』の女性コミュニティを活性化させたいと思うようになり、応募を決めました。

  • 第1期広報部員の福谷莉菜さん

――広報部では具体的にどんな活動をされていましたか?

福谷:最初は、広報とは何かといったレクチャーを受けるところからはじまりました。コロナ禍の影響が大きく、毎週1回のミーティングはオンライン。そこでアイデアを持ち寄って、どうすれば大学生リーグを多くの人に知ってもらえるか議論を重ねました。

出てきたアイデアのなかから実現の可能性を考慮して候補を絞ったら、そこからは6人くらいずつ、2~3のグループに分かれてさらに議論を進め、具体的な作業内容と手順を決めます。そして、内容が固まったところで、Cygamesに対してプレゼンテーションを行いました。

Cygames側では施策の内容を検討するとともに、PR会社とともに具体的な費用を算出し、そこで得られる効果を予測。『Shadowverse』のプロデューサーからOKが出れば実現へ向けて動き出すという流れでした。

  • ミーティングをはじめとする広報部の活動は、そのほとんどが基本的にオンラインで行われた

企画の立案と実行、大会の運営などを担当

――広報活動は初体験だったわけですが、アイデアはスムーズに出てきましたか?

福谷:インタ-ンなどの経験があったことも手伝い、はじめはアイデアをたくさん出すことができました。

でも、さまざまな要因から廃案になることが多く、それが2回、3回と続くうちに、実現可能かどうか、あるいは予算的に問題ないかといった視点を重視しすぎて考えが硬直していくケースが増えていったんです。少し考えすぎていたのかもしれません。

――活動期間は2期、1年半にわたるものだったそうですが、その間はずっと企画立案をされていたのですか?

福谷:現在は改変されてひとつにまとまっていますが、当時の学生実行委員会の活動は、内部的に広報部と大会運営部の2部で構成されていました。

企画を立案し、文字通りの広報活動を行うのが広報部。「Shadowverse University League」の大会運営サポートを主な仕事とするのが運営部です。私は1年目を広報部、2年目を運営部として活動しました。

1年目の企画で実現できたものはありませんでしたが、2年目は「こういう仕事をしたい」と要望を自分から提案し、それをさせてもらうことができました。

  • 大会の運営補助も学生実行委員会の活動のひとつ。福谷さんが関わった1年半のあいだ、試合はほとんどがオンラインで開催されたが、無観客でのオフライン大会も。それぞれにまったく違うスキルが求められた

吹奏楽部によるBGMの演奏を企画するもコロナで断念

――1年目では具体的にどんな企画を提案したのですか?

福谷:私が提案したアイデアのひとつが「音楽×『Shadowverse』」で、大会に出る大学の吹奏楽部に応援曲として『Shadowverse』のBGMを演奏してもらうというものでした。

高校野球の大会では学校全体で応援している姿が見られるますが、eスポーツ、『Shadowverse University League』もそういう大会に育てたいという思いがありました。

企画自体はかなり固まって、作曲者のかたへの許諾も取れて楽譜のデータもいただけましたし、吹奏楽部やサークルへの交渉も順調に進んでいたんです。しかし、新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から、最終的に学校側の活動許可が出ず、実現に至りませんでした。

吹奏楽のサークルは大学公認で活動しているところがほとんど。だからこそ大学側も慎重だったようです。会場で実際に演奏してもらうことが難しいのであれば、事前に収録したものを流そうと考えていましたが、リモートの収録さえ許可が出なかったのはショックでしたね。

――コロナ禍がなければ実現していたのでしょうか?

福谷:もちろん実現できていたと思います。だからこそ今でもとても悔しく思っています。今後、サークル活動の自由度が回復したら、ぜひ実現させてほしい企画ですね。

  • eスポーツでもたとえば高校野球の甲子園大会のように、学校全体で応援するような雰囲気を演出する。それが福谷さんが企画した「音楽×『Shadowverse』」の狙い

2年目は、大会運営に必要なマニュアル制作に従事

――運営部ではどんなことをしていたのですか?

福谷:『Shadowverse University League』の試合は金曜から日曜にかけて行われます。その試合を見守り、トラブルが起きればそれに対処するのが仕事です。何かトラブルがあって選手が現れなかった場合にその試合を不戦勝・不戦敗として処理するといったことも行っていました。

運営部のメンバーは大会運営以外に各個人がそれぞれタスクを持っていて、私は大会運営のためのマニュアル制作を担っていました。卒業によってメンバーが入れ替わっても新たに参加した人が大会運営に困らないようにするのがマニュアルの目的です。

グランドファイナルやシーズンファイナルは通常の大会とやるべき仕事の内容に違いがあるので、広報部に入って初めて実務にあたる人でもそういったことに対応できるよう文書化していきました。

――マニュアルはまったく新規に作成していったのでしょうか?

福谷:日々のタスクやDiscord上での運営としての対応などについては、Cygamesがまとめたマニュアルがすでにあって、それを参考に作っていきました。 一方でオンラインでのシーズンファイナルを開催したときの対応などは、ほぼゼロから作成しましたね。

運営部全体の仕事としては、ほかに「Shadowverse University League」の運営方法についての問題点を議論することも含まれています。たとえば、リーグの参加方法がわかりにくいので、私の発案でWebサイトの改善を行ったこともありました。

――運営部に移ったのは自分の適性を考えてのことですか? それともやりたいことが何かあったのでしょうか?

福谷:今は改善されているのですが、1年目の広報部ではアイデアを出さない人がいたとしても、報酬が一定だったという問題があり、そこに不公平感を抱いていました。それに対して運営はタスクが明文化されていて、メンバー間の不公平がなさそうだと思ったことも決断の理由のひとつです。

――学生広報部はCygamesとしても初めての取り組みだっただけに、システム的に未完成なところがあったのですね。

福谷:そうですね。学生のメンバーとCygamesの社員とがいっしょになって仕組みを改善できたのは有意義な経験でした。

  • 福谷さんが手がけた運営部の活動マニュアル。大会運営の手順や心得などが事細かく記述されていて、未経験の新入部員でも迷いなく活動に従事できるよう工夫がされている

大学生リーグ学生実行委員会の活動でわかった自分の適性

――広報部と運営部での活動を通して、自分のスキルなどへの発見はありましたか?

福谷:もともと自分は0から何かを生み出して1にすることが苦手で、1を100にするほうが得意だという自覚がありました。新規のアイデアを出すことに関しては、メンバーのなかに斬新な発想をする人がいて、能力の違いを感じましたね。それに対して企画を具体化していく実務的な作業は、自分にとても向いていると感じました。

――そうした発見が就職に影響した部分はありますか?

福谷:0から何かを生み出すよりも、人の手助けをするような職種を志望するようになりました。

――志望はゲーム会社だったのでしょうか?

福谷:プランナーではなく、マーケターとしてゲーム会社も受けましたが、主に受けたのは、IT系のコンサルティングやエンジニアリングを業務とする企業です。最終的に、第一志望のITコンサル企業に就職を決めました。

――コンサルを志望したのは、すでにあるものをよりよくする、1を100にするような職種と考えたからですか?

福谷:そうですね。配属も希望通り、コンサルティングの部門になりました。就職した企業はITベンダーでもあるのですが、顧客の業務に合わせて新規のソフトウェアを作るのではなく、既存のものから最適なものの導入を促すのが主な役目です。

学生実行委員会の活動は就職活動にも有利?

――実際に入社してみて、Cygamesとの社風の違いなどは感じますか?

福谷:まだ研修期間のためわからないことが多いのですが、何より完全リモートで一度も出社したことがないので、戸惑いはあります。

Cygamesに就職した友人に話を聞くと、出社して対面での指導を受けているそうで、そこはとてもうらやましく感じますね。

――学生実行委員会での活動が就職に具体的にプラスになったことはありますか?

福谷:就職活動においては「グループで何かをなしえたことがあるか?」という質問をよく受けました。それに対してスムーズに答えられることと、その内容が珍しさと話題性のあるeスポーツである点に興味を持ってくださることが多かったです。トータルで考えると、かなりプラスに働いたと思います。

また、自分の就職以外でも、広報を志望する後輩から就職相談を受けたときなどには、広報部で得た経験を伝えることができました。

――大学で学んだ統計学と、学生実行委員会の活動と、就職先を決める際はどちらをより活かそうと考えましたか?

福谷:統計学でも仮説を立ててデータを用いて結果に対する検証を行いますが、広報活動と通じる部分があります。両方が就職活動では役立ちました。

統計学を学んだことで、仮説を立てて論理的に効果を予測するなど、データを見るクセがついていました。そのおかげで、Cygamesにアイデアを提案するときにも具体的にデータを用いて必要な人員の数やその規模、効果などを説明できたと思います。

  • 学生実行委員会の活動を通じて自分が企業のなかでどんな役割を担う適性があるのか、その見極めがついたと話す福谷さん

学生実行委員会で得られた就職後にも役立つスキルとは?

――今後、ITコンサルとして業務に就くにあたって、学生実行委員会での活動が役立ちそうなことはあると感じますか?

福谷:たとえば、業務に取り組むにあたっては、グループでの活動が必要になるだけでなく、顧客である企業の社員さんともコミュニケーションを取る機会があります。1年目の広報部の活動ではぜんぜん違う大学の人たちとリモートで連絡を取り、活動を進めていきましたが、これが今後も大きく役立つのではないかと思っています。

また、2年目に就いた運営部の活動では、まずはしっかりとしたマニュアルを作り、それに従って作業を進めるようにしました。クライアントワークは相手に伝えることを文章に残しておくことがとても重要で、そこの能力が運営部のマニュアル作りで培われたと実感しています。

運営部での活動で言うと、『Shadowverse』の大会では選手同士がDiscordのコミュニケーションでヒートアップするような局面があり、それに対処する必要もありました。立場の違う人同士がひとつの目的に向かって行動を共にするのは仕事でも同じ、たまには感情のぶつかり合いも起こります。

そういうときに、一歩引いて状況を冷静に判断することができるようになったのも、1年半の活動のおかげだと思います。

学生実行委員会での活動を振り返って

――学生実行委員会での1年半の活動を振り返ってみて、何か思うところはありますか?

福谷:学生実行委員会に応募した動機のひとつである女性プレイヤーを増やす目標については、全然達成できていないのが心残りであり、悔しさもあります。ただ、いろんな大学の人たちと関わり、出し合ったアイデアを実現するためにみんなでがんばったことはとても有意義ですね。

また、学生実行委員会の活動抜きに以前からCygamesは好きなゲームメーカーだったので、そことの関わりを持つ喜びがありました。一方で、Cygamesの社員さんと接したことによって、自分がゲーム業界には向いてないかもしれないと思うようにもなりました。

――それはどういう点でですか?

福谷:当然のことかもしれませんが、Cygamesの社員は皆さん『Shadowverse』をプライベートでもすごくやり込んでいます。自分は『Shadowverse』が好きで学生実行委員会へ応募しましたが、仕事で遊ばなければならないとなったときに、いつか嫌いになる日が来るかもしれないと思ってしまったんです。

学生実行委員会に必要なのは、熱意と行動力

――学生実行委員会の後輩へ向けて、何か伝えたいことはありますか?

福谷:大学生リーグに出場している女性選手は1~2名しかいません。ただ、『Shadowverse』のプレイヤー全体を見れば、女性プレイヤーも少なくない人数がいるはずです。つまりは、ゲームコミュニティに接しないで1人で遊んでいる女性プレイヤーが多いのが実情でしょう。『Shadowverse』というゲームがもっと広がりを持つためにも、学生実行委員会の後輩にはそういう人たちに届くような施策をぜひ考え、実行してほしいですね。

また、コミュニティのもっとも活動的な領域がeスポーツと密接につながっているところが『Shadowverse』が抱えるひとつの弊害でもあって、ゲームをゆるく楽しもうと思っているエンジョイ勢がコミュニティに入って来づらい問題があるように思います。でも、eスポーツにはそういうライトな層でも観戦者としての楽しみ方があるはず。そこへどう誘うかが課題ではないでしょうか。

――今後、学生実行委員会への応募を考えている人へのアドバイスは何かありますか?

福谷:学生実行委員会の活動には、ゲームに関わらず、いろんな経験をしている人が向いていると思います。幅広い経験をしていないと、どういった層にどうやってアプローチをするか考える際に、いいアイデアが浮かびません。『Shadowverse』について何か貢献したい、貢献できると思っていて、それを実現するために行動を厭わない人だったら学生実行委員会の活動はすごく楽しめると思います。

ただし、アイデアがあっても学生実行委員会のなかだけでは実現できません。たとえば私は、大学の吹奏楽部やサークルに声をかけたり、別の企画ではほかの企業と連絡を取ったりといったアクションを実行しました。

メールを送っても返事がなかったらそれで諦めるのではなく、たとえば電話をかけたり、企業だったら実際にアポを取って足を運んだりといったことも必要でしょう。こうしたときに、熱意と行動力があれば、やりたいことを実現できる可能性はそれだけ高まるはずです。

学生実行委員会の活動ではCygamesという企業の協力が得られることが大きなメリット。『Shadowverse』が好きで、何かやってみたいことがあるなら、ぜひ、来期以降でも学生実行委員会の活動に応募するべきだと思います。

――ありがとうございました。