NTTドコモは5月12日、2021年度決算を発表しました。売上高に相当する営業収益は対前年度比0.2%減の5兆8,702億円、営業利益は同1.2%増の1兆725億円で減収増益。携帯料金の値下げの影響によって収入が減少しましたが、スマートライフ事業の増益やコスト削減で減収をカバーした結果、増益を確保しました。
「ドコモグループ」として初の決算
NTTドコモは、NTT(持株)による完全子会社化を経て、NTTコミュニケーションズ/NTTコムウェアを子会社化し、「ドコモグループ」として3社体制となって初の決算となりました。
グループ全体では減益となったものの、ドコモ単体の営業利益は期初予想よりも80億円近く上回る減収増益で、井伊基之社長は、「成長領域のスマートライフ事業が牽引した」と話します。
2022年度は、3社の連携をさらに強化するために、一部事業の移管などを進めるなど組織体制を改革。現在の収益の源泉となっているモバイル通信事業が利益全体の半分程度になるよう、スマートライフ事業や法人事業を拡大していきたい考えです。
新規事業に先行投資でさらなる成長を目指す
ドコモ単体では、営業収益が同0.2%減の4兆7,138億円、営業利益が同1.6%増の9,279億円、当期利益は同3.0%増の6,480億円。減収要因としては、モバイル通信の収入が値下げ影響で減少したことです。
ドコモは2019年以来、ギガホ・ギガライト、ahamo、ギガホ プレミアといった新料金プランを提供していますが、これらの新料金プランに伴う値下げによって、これまで2,700億円程度の影響が出ているといいます。
この2,700億円というのは、2021年度のみの影響というわけではないので注意が必要です。ソフトバンクは11日の決算説明会で、2021年度に770億円の値下げ影響があったとしていましたが、ドコモでは単年度の値下げ影響の数字を出していないとのことで、2019年からこれまでのトータルの値下げ影響として算出されたのが2,700億円という金額になります。単純計算で考えると、2021年度の単年度で1,000億円近い影響が出ていると考えられそうです。
これが2021年度決算にも影響した形となっており、値下げによる減収をカバーするために、成長領域として位置づける2事業――金融・決済事業をはじめとしたスマートライフ事業と法人事業――を拡大させ、さらなるコスト削減を実施していく考えです。
ただし新料金プランにはデメリットばかりではなく、ahamoの導入によって懸案だった若年層のユーザー獲得が拡大するというメリットもありました。ahamoの場合は「全体の半分以上、6割ぐらいが10~30代」(井伊社長)となり、ターゲット層が着実に加入している点をアピール。ギガホで大容量ユーザーにも値下げをしたことで純増数は拡大しており、「基盤の数が増えているのは大事な点」(同)だとしています。
ユーザー数は今後のドコモのサービスにとってもベースとなるため、この拡大によってスマートライフ事業の利益に貢献すると期待しています。しかし値下げの分で「収益と利益を失った」(同)のは確かで、「これがずっと続くと苦しい」と、井伊社長は正直な感想を漏らしていました。
2022年度はスマートライフ事業/マーケティングソリューション/法人事業を強化
スマートライフ事業は、「成長ペースを加速しなければならない」と井伊社長。主軸の金融・決済事業に加えて、マーケティングソリューションや「ドコモでんき」を拡大。新規事業の開発も強化します。2022年度には、収益が1,200億円増となる1兆810億円を目標とします。
収益増を目指しつつも、金融・決済システムの自前化による利益最大化、新規サービス開発のための開発費の投入、新規事業立ち上げのシステム開発や営業費用といったコストを先行投資としてつぎ込み、2022年度を将来の成長に向けた準備期間と位置づけます。スマートライフ事業自体は「400億円程度はプラスで増益できる」(同)見込みですが、先行投資によって、最終的に2022年度の利益を50億円増の2,030億円程度と予想しています。
今期はさらに、マーケティングソリューションを強化。8,700万人というドコモの会員におけるdポイントカードやdカードを使った購買行動を用いて、メーカーに対する「仮想の顧客データベース」を提供します。小売事業者とは異なり、メーカーは購入者の情報を把握できないため、こうした情報によって顧客の行動を可視化し、最適な広告を打つといった広告モデルで収益を上げる計画です。
決済事業においては、恐らくPayPayを念頭に置いて「他の競争相手に比べて負けているという認識」と井伊社長。取扱高やユーザー数の拡大を図ることに加え、dカードユーザーのahamoのデータ容量を増やすといった、ほかのサービスとのクロスユースも強化していくといいます。
2022年度の増益を担うもう一つの柱が法人事業です。NTTコミュニケーションズとの営業体制統合や両社のソリューションを組み合わせたサービスなどの提供で収益性を高め、コスト効率化によって利益を拡大させる考えです。
5Gは「デジタル田園都市国家構想」の要請で4G周波数帯も活用
ネットワークは5Gへの投資を継続。これまでドコモは5G用の周波数帯を使ったネットワークの構築に注力してきましたが、政府が掲げる「デジタル田園都市国家構想」で「5Gの人口カバー率95%(2023年度末)」が求められたことで、「4Gを組み込まないと間に合わない」(同)。そのため、4Gの周波数帯を転用することで、5Gエリアの拡大を図ります。グループ全体の設備投資は5,500億円規模で、「その半分ぐらい(編集部注:会見後にドコモより訂正あり。実際は1/3程度とのこと)が5Gネットワークへの投資」(同)だといいます。
主力となるモバイル通信で大幅な減収となったドコモの2021年度決算。政府主導による通信料金値下げの影響は大きく、さらにこの影響は来年度まで続くと井伊社長は話します。
井伊社長は、さらなる値下げの要望という可能性にも触れて、コンシューマ通信事業だけに頼らない事業構造の確立に取り組む考えです。モバイル通信というベースの収益は現状維持か少しでも増やすことを目指しつつ、2025年にはスマートライフ事業や法人事業の収益構造における構成比率を半分にまで拡大したい考えです。