毎年、春と秋の年2回開催されているヘッドフォン祭。コロナ禍でしばらくオンライン開催が続いていましたが、4月29日に「春のヘッドフォン祭 2022 mini」が約2年半ぶりに展示会形式で、東京・中野サンプラザにおいて開催されました。当日会場で見つけた製品や、注目のトレンドを紹介します。

  • 「春のヘッドフォン祭 2022 mini」で見つけた新製品。(左上から時計回りに)FiR Audio「Frontier Xenon-6」、MADOO「Typ711」、iBasso Audio「DX320」、NUARL「X247(仮称)」

  • 会場となった東京・中野サンプラザ

2022年注目の有線イヤホンが多数披露

コロナ禍でにわかに脚光を浴びている骨伝導イヤホン。耳に近い頰骨を介して内耳へと音の振動を伝える仕組み自体は以前から使われているものですが、今流行のワイヤレスタイプの骨伝導イヤホンとはちょっと違った切り口で、骨伝導の仕組みを採り入れたハイエンド有線イヤホンがヘッドフォン祭でいくつか見受けられました。

そのひとつが、finalが新たに取り扱う米FiR Audioの新しいインイヤーモニター(IEM)「Frontierシリーズ」です。低域の空気伝導と骨伝導のハイブリッド方式を採用したドライバーを搭載することで、ヘッドホンやスピーカーと比べても遜色のない低域体験を追求しており、FiR Audioではこの新技術を「キネティックベース」と名付けています。

同シリーズは「Xenon-6」(55万円前後)、「Krypton-5」(45万円前後)、「Neon-4」(35万円前後)と、ドライバー数やサウンドの傾向が異なる3機種を用意。ユニバーサル版は6月に発売予定で、カスタム版も6月に受付を開始します。

  • Xenon-6

  • Krypton-5

  • Neon-4

もうひとつは、エミライが取り扱う米Noble Audioのユニバーサルイヤホン「KUBLAI KHAN」(クビライ・カーン)。低域用に骨伝導ドライバーと10mm径ダイナミックドライバーを各1基搭載するほか、中高域用にKnowles製バランスドアーマチュアドライバー(BA)×4、超高域用にピエゾ・スーパーツイーター×1を組み合わせた「クアッドレベル・ハイブリッド・テクノロジー」を採用。3Dプリント樹脂ハウジングには、クビライ・カーンの龍のロゴと、Nobleのクラウン・ロゴをあしらったアクリルアセテート製フェイスプレートを配しています。2022年上半期発売で、価格は30万円前半を予定しているとのこと。

  • エミライブースで参考出展されていた、Noble Audioの4つのユニバーサルイヤホン新製品(下段)。左からエントリークラスの「DXII」(9万円前後)、“Wizard”ジョン・モールトン博士の長女の名前を冠した「JADE」(15万円前後)、BAドライバー8基搭載のハイエンド機「KADENCE」(20万円前後)で、右端が骨伝導ドライバーを含む最上位機「KUBLAI KHAN」

マルチドライバーのイヤホンに骨伝導ドライバーを組み合わせるアイデアはUnique Melodyの「MEST」(2020年発売)あたりから出てきたものと思われますが、そのUnique Melodyからも低域に骨伝導ドライバーを採用した新製品「MEXT」(発売時期・価格共に未定)の存在が明らかになっています。

有線イヤホンでは、他にもユニークな製品が多数登場。Acoustuneや新ブランド・MADOO(マドゥー)のイヤホンを取り扱うピクセルのブースでは、Acoustuneの新製品「HS1790TI」、「HS1750CU」や、既存イヤホン「HS2000MX SHO-笙-」用のオプションチャンバー「ACT02」が出展され、閉幕が近づく時間帯になっても試聴希望者が列を作っていました。

ちなみに今回は特に新製品はありませんでしたが、Acoustuneのサブブランドとして完全ワイヤレスイヤホンを展開してきた「ANIMA」ブランドの製品も今後ピクセルが取り扱うとアナウンスされています。

  • HS1790TI

  • HS1750CU

  • 既存のHS2000MX SHO-笙-に、カスタムフィットインターシェル「ST2000」を取り付けたところ

  • HS2000MX SHO-笙-用のオプションチャンバー「ACT02」(金色のパーツ)

  • HS2000MX SHO-笙-のチャンバーは着脱機構を備えており、標準付属のものと取り替えてサウンドの違いを楽しめる。写真はACT02を外したところ

NUARLのブースでは、開発中の新型NUARLドライバー(ダイナミック型フルレンジシングル)を搭載した有線イヤホンのプロトタイプ「X147(仮称)」、「X247(仮称)」が試聴可能になっていました。参考出品ということで価格は未定。前者は2022年夏、後者は2022年冬の発売を目指しているそうです。

  • NUARLの有線イヤホンのプロトタイプ「X247(仮称)」(今冬発売予定)

  • NUARL「X147(仮称)」(今夏発売予定)

ルーマニアからやってきたMeze Audio「ADVAR」は、10.2mm径のダイナミック型ドライバーをシングルで搭載したイヤホン。ツヤのある落ち着いたカラーのボディに、スピーカーユニットを思わせる黄金色のパーツを組み合わせ、高級オーディオライクな雰囲気を醸し出しています。価格は10万円前後で、6月頃の発売を目指しているとのこと。

  • Meze Audio「ADVAR」。ルーマニア製のイヤホンで、高級オーディオライクなデザインに仕上げられている

Acoutune製イヤホンなどを手がけてきた日本人エンジニアが関わり、「機械式のカメラや時計のように数十年使用することが出来る製品づくり」をコンセプトに掲げる新興イヤホン専業ブランド「MADOO」からは、第1弾製品「Typ711」(4月29日発売/14万9,800円)が披露されました。潜水艦や時計の窓をイメージしてデザインしたという外観が目を惹くだけでなく、マイクロプラナードライバー3基+BAドライバー2基というハイブリッド構成もユニーク。展示ブースには、そのサウンドを熱心に確かめる来場者の姿がありました。

  • 新興イヤホンブランド「MADOO」の第1弾製品「Typ711」

須山歯研からは、医療グレードの素材を使ったシルバーシェルの高級イヤホン「FitEar Silver」が登場。歯科技工物を長年にわたり手がけ、補聴器やイヤホンにその知見を応用してきた同社が2023年に創業65周年を迎えるにあたり、歯科精密鋳造技術とFitEarのイヤホンづくりが融合したモデルとして世に送り出します。発売時期は未定ですが、20万円前後で発売される模様です。

  • 須山歯研創業65周年モデル「FitEar Silver」

ユニークで高価なイヤホンが注目を集めますが、もちろん手に取りやすい価格帯の新製品もあります。水月雨(MOONDROP)ブランドの製品を取り扱う地球世界のブースには、4,000円台の手ごろなイヤホン「竹 - CHU」がありました。ナノチタンPVDコーティング複合振動板を採用した10mm径のダイナミックドライバーを搭載するなど音質にこだわり、「楽器やボーカルの本来の音色や位置を忠実に表現し、開放的で自然なリスニング体験をもたらすだけでなく、レコーディングとミキシングの専門家のニーズも満たす」とアピールしています。既に家電量販店などで予約受付が始まっており、5月12日発売予定です。

  • 水月雨(MOONDROP)ブランドの手ごろな新イヤホン「竹 - CHU」

個性的なポータブルプレーヤーがズラリ

スマートフォンとワイヤレスイヤホンで音楽ストリーミングサービスの楽曲を楽しむスタイルがすっかり定着しましたが、ハイレゾ音源をダウンロード購入して、音質を極めたポータブルオーディオプレーヤーとイヤホン/ヘッドホンの組み合わせで楽しみたい、というニーズは根強くあります。

今回のヘッドフォン祭でも、重量級の物量を投入した高級プレーヤーから手のひらサイズの小型機まで、今後登場しそうな新製品がズラリとそろいました。写真とともに見ていきましょう。

■iBasso Audio「DX320」

  • iBasso Audioの最新ポータブルオーディオプレーヤー「DX320」(6月発売予定/価格未定)。ロームのDACチップ「BD34301EKV」をデュアルで搭載する珍しい機種で、コルグの次世代真空管「Nutube」を積んだシングルエンド出力の交換用アンプモジュール「AMP13」も使える(展示機は最終製品版ではない)

  • Linuxベースのオーディオ再生用「Mango OS」から、Android 11へとシステムを切り替えているところ

  • Android向けの各種アプリは、従来通りAPKPureを介してインストールできるようだ。既存の「DX300」同様にデュアルバッテリー設計で、アナログ(アンプ)部とデジタル部に個別に電源を供給するため、バッテリー残量表記(右上)もふたつに分かれている

  • 本体下部のアンプモジュール。ユーザーが任意で好みのものに交換できる

  • DX320の展示機の本体背面は鏡面仕上げだった(右)が、最終仕様ではないとのこと

■Cayin「N8ii」

  • Cayinの約4年ぶりとなるフラッグシップポータブルプレーヤー「N8ii」(4月8日発売/43万9,890円)。こちらもロームのDACチップ「BD34301EKV」と、コルグの「Nutube」を各2基内蔵し、システムにはAndroidを採用している

  • Nutubeでの出力をオンにすると、側面の“窓”からNutubeが緑色に発光しているのが見える

  • 下側面のインタフェース。ヘッドホン出力は3.5mmシングルエンドと4.4mmバランスの2系統で、4.4mm側はラインアウトと共用。3.5mmラインアウトは専用端子となっている。USB Type-Cからは、同軸デジタル出力も可能。さらにminiHDMI端子のI2S出力も装備する

  • 高級プリアンプなどで使われる、低ノイズ・低歪みのJRC製抵抗ラダーアナログボリュームコントロールを採用。PVD金メッキ真鍮製のボリュームノブ(中央)には、十二芒星のデザインが刻まれている

■Shanling「M7」

  • Shanlingの最新ポータブルオーディオプレーヤー「M7」(6月発売予定/想定18万円前後)が参考出展。Android 10を搭載していた

  • 3.5mmと4.4mmの2系統のヘッドホン出力を本体上側面に搭載

  • 左右側面の曲線的なデザインが目を惹く

■HiBy Music「HiBy R5(Gen2)」

  • HiBy Musicの最新ポータブルプレーヤー「HiBy R5(Gen2)」が国内初展示。6万円を切る価格帯で5月末頃に発売予定だ。システムにはAndroidベースのHiBy OSを採用している

  • 3.5mm/2.5mm/4.4mmのヘッドホン出力とUSB Type-Cを本体下部側面に装備。ESSのDACチップ「ES9219C」×2とクラスAのヘッドホンアンプ回路を内蔵する

■Hidizs「AP80 PRO-X」

  • Hidizsの手のひらに収まる小型プレーヤー「AP80 PRO-X」。2万円前後で5月末頃に発売予定。内蔵するDACチップがESSの「9218P」×2から「9219C」×2に刷新されている

  • 本体デザインは既存の「AP80 PRO」とほぼ変わらず、右側面にボリュームダイヤルや再生ボタンなどを装備

  • 本体下部には3.5mm/2.5mmのヘッドホン出力と、USB Type-Cを搭載