2021年11月3日から12月31日まで、『モンスターストライク(モンスト)』のプロチームによるリーグ戦「モンスターストライク プロリーグ2021(プロリーグ)」が開催されました。最終戦である「モンストプロリーグ2021FINAL」のレポートでも書きましたが、今回の「モンスターストライク プロリーグ2021」は、例年開催されていた「モンストプロツアー(プロツアー)」に変わる新しい大会。2019-2020年は新型コロナウイルスの影響により、プロツアーが開催されていないので、プロの大会は2年ぶりです。

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    「モンスターストライク プロリーグ2021」の様子。大会の形式をリニューアルして2年ぶりに開催されました

プロリーグには、プロチーム12チームが参加。日々熱戦を繰り広げ、大いに盛り上がりました。しかし、今回のレギュレーションの一部変更に伴うチーム編成が論議を巻き起こします。出場したプロチームのメンバーが、前回大会と大きく異なっていたのです。何も知らされていないファンは、おそらく混乱したことでしょう。

2年ぶりのプロ大会が開幕したら、選手がガラリと入れ替わっていた

2019年のプロツアーの旧ルールでは、「2018年のプロツアーに参加したメンバー+1名の追加メンバー」でチームを編成することが条件でしたが、プロリーグのレギュレーションでは、チーム所有権を持つリーダーを含めてプロライセンス保持者4名、そして「XFLAG eSports」が定めた一定以上の実績を持つメンバー1名(プロライセンスの有無は問わない)の、計5名でチーム編成することを定めました。つまり、チームリーダー以外は、これまでチームに所属していなかったメンバーであっても大会に参加できるわけです。

eスポーツの世界において、シーズンごとのチームメンバー入れ替えはしばしば起こるもの。場合によっては総入れ替えもあるでしょう。ただ、『モンスト』のプロチームの場合、これまでほとんどメンバーの入れ替えが行われなかったので、チームと選手が一致する数少ない競技タイトルとして存在していました。

そのうえ、『モンスト』では、結果として選手個人にプロライセンスが付与されるものの、すべて「モンストグランプリ」で成績を残した“チームに対して”与えられるイメージが強いといえます。

また、「モンストグランプリ」では、東北・北海道、関東、中部、関西、中国・四国、九州の地方予選を勝ち抜いたチームが本戦に進むため、そのチームにとって、予選に参加した地方がホームグラウンドであるような印象がありました。

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    「モンストグランプリ2021」の関東予選大会で優勝し、決勝大会出場権を獲得したチーム「Cats」。2020年も関東予選で決勝進出を決めており、関東のチームであることをファンに根付かせています

そういった土壌がある中、今回の新しい編成によって、チームの印象が変わってしまったと感じるファンも多くいました。先述した通り、eスポーツの世界では選手の入れ替わりが常態化していますので、問題視するほどではないと感じる人もいるでしょう。

しかし、元々チームがあり、中心となるオーナーがいるタイトルと、仲間が集まってグランプリを目指す『モンスト』では、チームの成り立ちがまったく違います。

音楽シーンにたとえるのであれば、多くのeスポーツチームはグループアイドル的で、スカウトやオーディションに受かったメンバーがチームに入りますが、『モンスト』のプロチームはバンド的で、コンテストを勝ち上がったメンバーがプロチームとしてデビューするイメージです。

もちろん、バンドもメンバーの入れ替わりがありますので、選手の入れ替わりを禁止したほうがいいとまでは言いませんが、それでも今回のように大きく動いてしまえば、違和感を覚えてしまうのも仕方ありません。

百歩譲って、入れ替えが問題ないとしても、多くのeスポーツチームはシーズン前に新ロースターのお披露目を行いますし、新加入選手の発表やチーム入団の経緯などの説明があります。しかし、今回のプロリーグでは、SNSやオープンチャットなどで発表したチームもあったものの、公式の場での説明はありませんでした。プロリーグが開幕してみたら、「推しのチームのメンバーが全然違う」と、ファンは戸惑うばかりです。

この件に関して、当事者であるプロ選手はどう考えているのでしょうか。大会を運営する「XFLAG eSports」の担当者と、数名の選手に話を聞いてきました。

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    「今池壁ドンズα」と「らぶましーん」が初登場する「モンストプロリーグ 2021」第2節での1戦

メンバーの入れ替えは、チーム存続に対する救済措置

そもそも、プロツアーからプロリーグに変わった経緯は、新型コロナウイルス感染症拡大の状況下で、複数チームが一堂に介したり、全国を移動したりしないようにするための措置だと言います。プロリーグは基本的にグループごとの三つ巴戦を行うので、最大で3チームしか顔を合わせて対戦していません。プロツアーのように通常8チーム、最終戦12チームのような大所帯にならないことは理解できます。

では、チーム編成についてはどうでしょうか。チームリーダー以外の選手の入れ替えを是としたのは、2019年のプロツアーのルール(2018年のプロツアーに参加したメンバー+1名の追加メンバー)を用いた場合、大会開催を決めた時点で条件を満たせず参加できないチームが出てしまう可能性があったからだと言います。

このあたりは、2020年にプロツアーが開催されておらず、プロチームとしての活動が少なかったため、チーム内のさまざまな事情が重なったのでしょう。そういった背景もあり、メンバーの入れ替えが救済措置であったこともわかります。

実際、「今池壁ドンズα」のそふぁ。選手とべーこん選手は、プロリーグへ参加しない、できないとリーダーのなんとかキララEL選手に伝えており、「アラブルズ」のコアメンバーも、KEVIN選手、ぺぺ選手、Ritoはん選手の3人がプロリーグに参加しています。

「『今池壁ドンズα』としては、解散をする考えもありました。ファンにとって、存続したほうがいいのか、オリジナルメンバーでなくなるなら解散したほうがいいのか、どちらの意見もあったのですが、存続することを選びました」(今池壁ドンズα・なんとかキララEL選手)

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    モンストプロリーグでの「今池壁ドンズα」のロースター

メンバーの入れ替えではなく、解散という選択肢をとったチームもあります。「ろくまる⊿4」は、リーダーの対戦しましょう選手が「今池壁ドンズα」に移籍し、残ったメンバーも「ろくまる⊿4」のリーダー権を受け取らず、解散になりました。

一方、「ろくまる⊿4」と同じく、チームリーダーがほかのチームに移籍しつつ、存続したチームもあります。「らぶましーん」リーダーのかか選手は、「4Sleepers」に移籍していますが、リーダー権、チーム所有権をしょーま選手に移譲しており、新生「らぶましーん」として参戦。ちなみに、「らぶましーん」は「4Sleepers」のてらきち♪選手、はなっぷの小陸選手を新戦力として迎え入れています。

メンバーの入れ替えがチームへの救済措置であったことは紛れもない事実なのかもしれませんが、改めてチーム編成を見てみると、単純にプロ選手のチームシャッフルになっている印象も否めません。ファンにしてみれば、事情を聞かされていないので、なおさらではないでしょうか。

チームで手に入れた実績でも、ライセンスが個人付与という“ゆがみ”

先ほども述べましたが、プロリーグは、チームメンバーの3人がプロライセンス保持者であることが条件です。そのため、メンバー補填の条件も「プロライセンス保持者」になるケースがほとんどでしょう。そうなると、ほかのチームから移籍してもらうしかないので、チーム間のシャッフルは当然の結果とも言えます。

このプロライセンス制度も、今回の混乱の要因のひとつ。こちらも先ほど触れましたが、『モンスト』のプロライセンスは、選手個人に対して発行されます。日本eスポーツ連合(JeSU)のプロライセンスは、個人がもらえる「プロライセンス」と、13歳以上15歳未満がもらえる「ジュニアライセンス」、そしてチーム単位の「チームライセンス」という3種類。『モンスト』はチーム戦であり、プロライセンス獲得資格が「モンストグランプリ」のファイナル上位成績チームという、チームの実績によるものでありながら、チームライセンスではありません。

JeSUの規約に、チームライセンスは「IPホルダーが推薦したチーム(タイトルごとに所定の複数名以上の選手により構成されたチームをいい、国内の法人によって運営されているもの)」に渡されるとあるため、法人格ではない『モンスト』のチームは、チームライセンスを受け取れないのです。

実際、JeSUに確認したところ、チームライセンスは法人格のあるチームにしか発行できないと回答を得ました。チームで勝ち取ったプロライセンスでも個人ライセンスの付与であれば、チームを離脱していてもライセンスの効力はあり、逆に新規参入した選手はプロチームに参加してもプロライセンス保持者になりません。

先述した通り、『モンスト』のプロチームはバンドのようなもの。しかも事務所に所属していないため、フリーランス選手の集まりに過ぎません。このゆがみが今回の騒動の原因になっているわけです。当事者である選手も、この点には違和感を覚えているようでした。

「モンストグランプリでプロライセンスを受け取ったことを考えると、チームメンバーの大半を入れ替えることは、腑に落ちないと思ったこともありました。チームにライセンスが与えられていたら、もっとめでたい感じでメンバーの入れ替えができたのかもしれません」(アラブルズ・KEVIN選手)

チームとしてプロライセンスが発行されれば、選手個人がプロライセンスを所有しているかは問題ではなくなります。チームから戦力になると判断された選手が新たに加入することに対して、違和感を覚える人は少なくなるでしょう。弊害を挙げるならば、現時点ではeスポーツ界隈に移籍に関する規制やレギュレーションができていないので、選手の移籍がより頻繁に行われてしまう可能性があること。ただ、それはタイトル単位で、チーム間移籍に関するレギュレーションを改めて設定すればいいので、解決できるはずです。

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    モンストプロリーグでの「アラブルズ」のロースター

また、収入が賞金に依存していることも、選手が離れていく原因になっていました。『モンスト』プロチームの収入源は、基本的にプロツアーやプロリーグによる賞金です。これらの賞金はほかのタイトルのプロリーグに比べて、高めに設定されているので、プロ活動をするには十分と言えます。

ただ、賞金なので成績上位チームと下位チームの収入の差は大きく、下位チームが存続するのは難しいと言えます。ほかのタイトルの場合、基本的にチームスポンサーによる支援やさまざまなイベントの運営、出演料などでチーム運営がまかなわれているので、『モンスト』ほど高額賞金でなくとも安定性が高いと言えるでしょう。また、収入のほとんどが大会賞金であれば、チームは運営の決定に従わざるを得なくなってしまいます。

「『モンスト』のプロ選手は、ほかのタイトルのチームのように、給料をもらっているわけではありません。なので、選手の事情によっては、続けられなくなってしまうことも仕方ないでしょう。とはいえ、メンバーの移動など『なんでもありなの?』と捉えられてしまう現状もよくないと思います」(どんどんススムンガ・ぴよまる選手)

なお、賞金依存については、運営側にも課題意識があったようで、今回のプロリーグでは、8位まで賞金が支払われるとともに、各チームに一律で「出場給」が支給されました。

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    モンストプロリーグでのどんどんススムンガのロースター

大会参加権を失う厳しいレギュレーションが追い打ちをかける

今回開催されたプロリーグでは、プロ12チームが4つのグループに分かれ、ファイナル進出をかけたリーグ戦を行いました。1位はファイナルに進出しますが、3位は次回のプロ大会の参加権を失ってしまうルールです。

プロ資格の剥奪ではないので、「XFLAG eSports」が認める公式大会で成績を残せば、参加権が復活するとされています。現状では具体的な条件が述べられていませんが、参加権を失ったチームが再起を狙うことは簡単ではないでしょう。

下部リーグのあるスポーツでも、一度下部に落ちてしまうと、中心選手の上位リーグへの移籍が頻繁に行われ、チームとして上位リーグへ復活することが難しくなってしまいます。フットワークの軽さが魅力の『モンスト』プロチームですが、プロ大会への参加権が失われるのであれば、メンバーにとってチームを存続させる必要性はあまりないのではないでしょうか。

そのうえ、条件に「公式大会での成績」とありますが、「XFLAG eSports」による公式大会となると、「モンストグランプリ」以外あまり考えられません。ここで好成績を残すことが、たとえば「ファイナル出場」だとしたら、至難の業です。

「モンストグランプリ2021」では「GV」と「Cats」の2チーム、「モンストグランプリ2019」では「アラブルズ」の1チームしか、プロチームがファイナルに残れていません。グランプリで勝ち抜くことがプロでも難しいことは、これまでの大会で示されています。もはや、もう一度プロライセンスを取り直せと言われるのと近いものがあるわけです。

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    「モンストグランプリ2019」では、ファイナルに残れたプロチームは「アラブルズ」のみでした

プロである以上、弱い選手、弱いチームは淘汰されてしかるべきという意見もあります。選手としてみれば、そういった覚悟もあるでしょうが、ファンにとってみたら、さすがにそれは厳しすぎる措置でしょう。

プロ選手やプロチームの魅力は強さだけではなく、地域性やチームカラー、活動内容などさまざま。選手の入れ替わりが激しいタイトルでは、選手のファンになる人は数多くいても、チームのファンとして定着するのは難しいと言えますが、『モンスト』は選手の入れ替えが少なく、地域性もあります。プロ大会の会場に行けば、観客がどのチームのファンであるかすぐにわかるほど、統一したユニフォームやパーカーなど着込んで応援しています。これは本当にeスポーツ界隈では大きな財産と言えると思います。しかし、それが今回のプロリーグで大きく崩れそうになっているのが残念でなりません。

大会運営としても解決しなければならない問題

今回のプロリーグで参加権を失った「アラブルズ」「どんどんススムンガ」「はなっぷ」「らぶましーん」の4チームは、大きな岐路に立たされています。場合によっては解散もあり得るでしょう。前回プロツアー王者である「アラブルズ」、「モンストグランプリ アジアチャンピオンシップ2019」覇者の「どんどんススムンガ」が、一度のプロリーグの結果で消滅してしまうかもしれないのです。

しかし、KEVIN選手とぴよまる選手の『モンスト』への熱意は消えていません。

「まだまだ(『モンスト』のプロシーンを)盛り上げたい気持ちが強いですね。新しい気持ちで奮闘してみたいと思います」(アラブルズ・KEVIN選手)

「プロとしてどうやって『モンスト』を盛り上げていくか考えています。なので、リーグ復活条件をちゃんと考えてくれているのか気になります」(どんどんススムンガ・ぴよまる選手)

現状では、「アラブルズ」も「どんどんススムンガ」もチームの継続を望んでいますが、2022年もプロ大会の参加権が得られないのであれば、どうなるかわからないが正直なところでしょう。

プロリーグの参加やプロチームの存続は、所属しているリーダーやメンバーに委ねられており、自己責任だと思う人もいるかもしれません。しかし、プロチームはプロリーグへの参加やプロチームとしての存在価値を示すために、多くのリソースを『モンスト』に割いており、それだけに死活問題でもあります。

もちろん、「XFLAG eSports」が無慈悲だとも思いません。あれだけの賞金を出し、大会運営にコストも人的リソースも捻出し、よくやっていると思います。ただ、構造的に無理が生じているので、ここらで抜本的な改革が必要になってきているのでしょう。運営側にもファンや選手の声が届いており、話合いやルールの改善などに取り組むことを前向きに考えているとのことです。

『モンスト』のプロチームを、複数タイトルに参加しているプロチームにマネジメント契約してもらい、そのうえでプロライセンスをチームライセンスに切り替える手もあり得るでしょう。プロリーグを2部制にして、結果に応じて入れ替え戦を行うなど、チームが存続しやすい形にするかもしれません。また、以前のプロツアーのように、大会一つひとつが大きなお祭りのようなものである必要もないと思います。年間を通じてリーグ戦を行い、プレイオフやファイナルを大きく盛り上げる方法もありでしょう。

何度も言いますが『モンスト』は、チームのカラーがしっかり定着しているeスポーツタイトル。チームがeスポーツの『モンスト』の人気に直結していく可能性はあり、このままでは運営にとっても大きな損失になりかねないのではないでしょうか。早期の問題解決を願います。