いわゆるインターネットは大きく4つの階層で構成され、そのうちプログラム間のデータ伝送やエラーの検出/回復を担う「トランスポート層」が双方向の通信路を確立します。トランスポート層の通信規約(プロトコル)としては、データの信頼性よりも応答性/リアルタイム性を重視する「UDP」もありますが、データの信頼性を重視する「TCP」が広く用いられています。一般的に「TCP/IP」という場合、そのTCPとIP(トランスポート層より下位のネットワーク層に位置する機器間の通信を担うプロトコル)の組み合わせを指します。

しかし、インターネットが急速に拡大・発展する過程で、多くの問題が浮上してきました。「スピード」と「信頼性」はその一例です。そこで、WEBに利用される「HTTP」(トランスポート層上位の「アプリケーション層」に含まれるプロトコル)の改良が進められ、Googleなどの企業の積極的な関与もあり、2015年には「HTTP/2」が正式な仕様として公開されました。

QUICは、その最新版「HTTP/3」(2022年1月現在ドラフト版)に含まれる、トランスポート層に位置するプロトコルです。HTTPを高速化しようとすると、HTTPの改良では足らずTCPの遅さを解決する必要が生じたため、TCPより高速なUDPをベースにTCP並の信頼性を備えた「速くて安心」なプロトコルとしてQUICが整備されたのです。

QUICは、暗号化プロトコル「TLS 1.3」を内部で使用します。その結果、先に送信されたパケットがなんらかの原因で失われたとき、後続のパケットが届いても利用できない「ヘッドラインブロッキング」という問題を防止でき、データ本体と暗号それぞれの手続き(ハンドシェイク)を同時に行えるので接続確立までの時間が短縮されます。

ハンドシェイクの減少は、クラウドサービスでのメリットが期待されます。特にサーバが海外にある場合は接続確立までの遅延が大きく、ハンドシェイクの回数が減るメリットは大きいと考えられます。

実際、AppleがiCloud+の一部として提供を開始した「iCloud Private Relay」では、QUICを利用することで、海外のサーバでありつつも遅延が少ないサービスを実現しています。スマートフォンにおいてもクラウド利用が増加する現在、QUICを採用するサービスの増加が見込まれます。

  • HTTP/3に含まれる「QUIC」は、iCloud Private Relayなどのクラウドサービスにも採用が始まっています