ワコムとピクシブは19日、YouTube Liveにて大規模オンライン作画フェス「Drawfest(ドローフェス)2」を共同開催しました。本稿では、中国発アニメ「羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)」のアニメーターが登壇したセクションの様子をレポートします。
「風でなびく髪」を描くとき、最初に決めるポイントは?
登壇したのは、羅小黒戦記にアニメーターとして携わったXRiverN(シャオロン)氏。作品の主要キャラクターであるムゲンを題材に「髪の表現」を解説しました。
このセクションではプロ向けソフトの「TVPaint Animation」を使用しましたが、シャオロン氏は「自分にあったツールで描いてみてください」と視聴者に呼びかけます。前半ではキャラに風が当たるときの髪の表現法を、後半ではなびく髪の簡単なループアニメーションの作成術を解説しました。
まずは静止状態のキャラクターの髪を描いていきます。ここで気を付けるべきは、(おでこ・こめかみ近辺の)髪の生え際の形やもみあげの位置。「普段は髪で隠れていますが、風に吹かれたときにあらわになるので、あらかじめ決めておく必要があります」(シャオロン氏)と説明します。
そこで実際に、試し描きをしてみます。髪の毛の厚みによって、頭のラインはふっくら膨らむ感じになります。髪が肩にかかるところは、柔らかい布が乗るように。正面のアングルでは、前髪のボリュームで額との間に空間ができることを意識します。毛先は内に巻くように描きます。
次に、弱い風が吹いたときを描きます。前髪には少し影響がありますが、後ろ髪はあまり動かず、何本か後ろになびくくらいです。正面から見ると、髪が左右に開き、やや膨らむ様子が分かります。
中くらいの強さの風になると、長い前髪が左右にふくらんできます。後ろ髪は首でさえぎられているので、まだそこまで影響はありません。「髪を布だと考えてください」とシャオロン氏。
さらに強い風になると、前髪は後ろに流れていきます。後ろ髪もなびき、首すじが見えるほどに。横顔では顔の向こうの前髪もチラリと見えると、より絵的な表現になります。
正面のアングルでは、髪が押さえつけられて頭皮に近づきます。ここで髪の毛は左右対称の動きにしないように。後ろ髪は見える面積が大きくなり、宙に浮いているような表現になります。
今度は、後ろから風が吹くとき。前髪は顔に覆いかぶさり、耳の後ろの髪も何本かは前になびきます。正面アングルでは、それでも顔を塞がないように。後ろ髪を含め、髪全体が前面に流れて乱れる様を描きます。
ここでも、顔の左右の髪の動きがシンクロしないように注意。シャオロン氏は「強い風のシーンは、映える動きを作画できるチャンス。映えを意識して描くことが大事です」と話していました。
最後は、下から風が吹くとき。無重力状態、浮遊感をイメージして描きます。スカートをはいてジャンプし、下に落ちるときの動きを意識すると描きやすい、とシャオロン氏。頭頂部がふわっとし、髪の毛の先端が軽くなるように、とアドバイスを送ります。
なびく髪のアニメーションづくりを実演
後半では、なびく髪のループアニメーションを作成しました。
はじめにシャオロン氏が用意したのは、A、B、Cの3通りのアニメーションでした。風になびく髪を表現するときに参考になるそう。このうちAのsin曲線(サインカーブ)が動く様子は、長い髪が風になびくときの動きそのものと言えそうです。
Bは「短い髪」や「ふわふわヘア」のときに必要な動き。パーマ、ショートヘアのときは髪の間にたくさんの空気が入り、伸びたり縮んだりするため、髪の毛が弾力のある物体のように動きます。シャオロン氏は「髪の毛全体を、水風船と考えて動かすとうまくいきます」とアドバイスしました。
Cは髪の分け目の表現。縮んだ状態では分け目が現れていますが、伸びると分け目が消える、という動きになっています。
さて、ここからアニメーションを作成開始。前から風が吹くとき、前髪はAの動きをします。髪全体の動きはB、Cを参考に。
シャオロン氏は「キャラが静止している状態では、髪は長方形に近い形をしていますが、風に吹かれると毛先にかけてギュッと細くなるイメージになります」と解説。つまり前からの風を受けて前髪は後ろに来て後ろの髪を圧迫し、でも後ろの髪は動きが遅いために前髪よりも動きの幅が小さくなるという流れ。髪の分け目は、それに応じて広がったり、狭まったりを繰り返します。
アニメではリズム感よく表現すること。また髪の動きが一致しすぎないように、という文脈では「適切に不揃いであれば自然なアニメになります」とも説明していました。
このように1つひとつのコマを描き、微調整を繰り返しながら、なびく髪の簡単なループアニメーションが完成。このあと、さらに強い風が吹いたときのアニメも作成するなど、丁寧な解説が続きました。
「髪の動かし方、跳ね上がり方は色いろあります。講義の内容をもとに、ぜひ色んな表現に挑戦してみてください」とシャオロン氏。セクションの同時視聴者は800名を超え、海外からもたくさんの好意的なコメントが寄せられていました。
ムゲンとフーシーの「髪質の違い」と描きやすさ
セミナーの最後には、シャオロン氏は参加者が講演中に描いたイラストへの感想を述べたり、視聴者の質問に回答したりしました。
これまでアニメの動きについてどのくらい勉強してきたか、という質問に対しては「学生のときに卒業制作で、髪の毛、服の動きのアニメーションをテーマに取り上げました。映画制作においても、髪、服を担当することが多いです。これらの経験の積み重ねが生きて、アニメに動きをつけられるようになりました」と回答。
羅小黒戦記ではキャラクターの髪の硬さは決まっているのか、と聞かれると「キャラクター設定の段階で、髪質、硬さ、柔らかさが明確になっていますので、それに従って描き分けています」とコメント。今回モデルにもなったムゲンのように、柔らかくて長い髪の毛は美しく動かすのに慣れているけれど、フーシーのように硬くてフワフワした髪を美しく描くためには、たくさんの配慮が必要になるので難しい、とも話していました。
なお、シャオロン氏のセクションは現在アーカイブを公開中。アニメーションのお仕事に興味がある人や、羅小黒戦記のファンの方はぜひ見てみてください。