ワコムは12月19日・20日の両日、公式YouTubeチャンネルにて無料のオンラインセミナー「冬のペンタブ特別講座」を開催しました。20日の講師は、まんが家のかるき春先生。デジタルにおける、少女まんがらしい色の塗り方を披露しました。

  • ワコム開催のオンラインセミナー「冬のペンタブ特別講座」、2日目はかるき春先生

    ワコム開催のオンラインセミナー「冬のペンタブ特別講座」、2日目はかるき春先生

かるき先生の色塗りは「髪」から

少女漫画雑誌「りぼん」で「あおたん! -青矢先輩と私の探偵部活動-」を連載中のかるき春先生。オンラインセミナーではイラストレーターや漫画家にも人気の小型モデル「Wacom One 液晶ペンタブレット 13」を使って、カラーページを塗っていきました。

  • かるき春先生のプロフィール

    かるき春先生のプロフィール

この日、講座の題材に用意したのは「あおたん! -青矢先輩と私の探偵部活動-」1話の扉絵のカラー。色を塗っていない線画の状態からスタートです。

普段から使用しているソフトウェアは「ペイントツールSAI」(SAI)と「CLIP STUDIO PAINT」(クリスタ)とのこと。配信映像には、中央に作業画面、左下のワイプにSAIを使うかるき先生の手元が映りました。

  • 線画の状態。Wacom One 液晶ペンタブレット 13とペイントツールSAIを使い、扉絵にカラーを塗っていく

    線画の状態。Wacom One 液晶ペンタブレット 13とペイントツールSAIを使い、扉絵にカラーを塗っていく

まずは細かくレイヤーを分けて、色をベタ塗りの状態に。そこから髪の毛や瞳の色をキラキラさせ、洋服には光と影をつけていく方針です。

細かくレイヤー分けする理由について、「心配性なんですよ。何かあったらどうしよう、って思うので...」(かるき先生)と話していました。

  • 色をベタ塗りにした状態

    色をベタ塗りにした状態

どこから色を塗っていくのかは、作家によって個性が出るところ。かるき先生は、いつも髪の毛から塗るそうで、「塗りでは髪にイチバン時間をかけます」とコメント。普段のモノクロ原稿では全ページの髪の毛を一気に塗り、そこから最初のページに戻って顔、輪郭などを塗り始めるというからユニークです。

  • はじめに髪を塗る理由は「画面が引き締まるので助かる」からだとか

    はじめに髪を塗る理由は「画面が引き締まるので助かる」からだとか

左から光が差し込んでくるイメージで、髪の光沢と影を入れていく作業。天使の輪をイメージして、カーブした線をササッ、ササッ、と描き足していきます。ときに絵を回転させ、さらには左右反転もさせながら作業を続行。手首のスナップを一定方向に固定したいため、絵を動かしていると明かします。

投げ縄ツールを使って透明感を演出

ワコムの担当者からペンタブレットを導入した時期について聞かれると、かるき先生は「2011年くらいに板タブ(ペンタブレット)を使いはじめました」とコメント。

使いこなすまでには時間がかかったそうで、「トライ&エラーの繰り返しですね。『あぁこの線じゃない』などと言いながらも、とにかく描くしかない。でもやり直しが簡単なのもデジタルの良さ。いまでは、たまにアナログで絵を描くときに、無意識にCtrl+Zを探している自分がいます」と笑いつつ語ります。

現在は液タブ(液晶ペンタブレット)を使っているようで「突然、思い立って液タブを使いはじめましたが、こっち(液タブ)のほうが使いやすく感じました」と話していました。

ここで突如、投げ縄ツールを使って毛先の色を大胆にカット。これは驚きの手法です。地の色を伸ばして(ぼかして)、毛先に透明感を持たせていきました。

この後も、投げ縄ツールを多用。例えば瞳にグラデーションをつけるときも、瞳孔を描いたのちに内側を投げ縄ツールで切り抜き、周りの色をなじませるなどし、独特の透明感を出していきました。この珍しい塗り方に関して、かるき先生は「我流でやっているのでお恥ずかしいんですが」と控えめなコメントをしています。

  • 投げ縄ツールで色をカットし、地の色を伸ばしていく塗り方。カラーに透明感を持たせる秘訣になっていた

    投げ縄ツールで色をカットし、地の色を伸ばしていく塗り方。カラーに透明感を持たせる秘訣になっていた

まんが家への道は「真似」と「完成」

小さい頃は友だちと漫画を描き合うだけでなく、ひとりでノートにも描いていたそう。「小学校の卒業文集には漫画家になりたい、と書いたんですよ。でも実家には道具もない、集中もできない。本格的に描きはじめたのは、大学生になってからでした」と振り返ります。

絵の練習方法を聞かれると、「やはり好きな作家さんの絵柄を参考にする、塗り方を真似してみることですね。キャラクターの身体つきなどは、どうなっているのか骨格を理解すると良いと思います」と回答。

登場人物の性格を決めるコツについては、「元気な子が描きやすいんですが、逆に大人しい子も描いてみる。その子には、どんな男の子が出会うだろう、と考えると面白い展開が浮かんできます」と話していました。

視聴者から人物のデッサン力の磨き方について聞かれると、以下のように答えました。いまなお、試行錯誤を繰り返していると謙虚に語ります。

「個人的には描いていると頭でっかちになるクセがあるので、なるべく人物の等身を上げるように意識して描いています。手は、うまい人の漫画を見て『この人の手が好き』というものを見つける。あとは骨格がどうなっているのか考えています。でも描いていくうち、突然、分かる瞬間があるんです。それを重ねていけば、絵がうまくなるのかなぁと思います」(かるき先生)

  • 質問に答えつつも、作業は着々と進行。瞳が入り、だいぶ完成に近づきました

    質問に答えつつも、作業は着々と進行。瞳が入り、だいぶ完成に近づきました

男女の描き分けについては、「男の子は面長で鼻筋を意識して、骨格は太めに。女の子は丸く。でもイケメンを描くのは難しいんです。小、中学生の頃に『男の子が描けない』と思い悩んだのを覚えています。自分なりの男の子の描き方が分かれば、あとは量産していけると思います」と回答。

洋服のシワの描き方を聞かれると、「上手い人の漫画を何回も真似ました」としながらも、「実際の写真を見ても、どのシワを漫画に落とすべきか、分からないんですよね。でも上手い人は、正解の線を出している。それがどれなのか。上手い人のシワを見ながらレザーっぽく、シャツっぽくなるように描いています。これも繰り返していくうちに、手癖で自然と描けるようになります」と、繰り返しの練習が要だといいます。

ちなみにスカートのプリーツを描くコツを聞かれると「本当に難しいですね。スカートの端がどうなるか、まずは線を描いてみると良いと思います。でも毎回、苦労します」と話していました。

  • スカートのプリーツには、いつも悩まされているそう

    スカートのプリーツには、いつも悩まされているそう

漫画家を目指している人へのアドバイスを聞かれると、「取り敢えず1作品を完成させてみる。それだけで、だいぶ力がつきます。描いている途中で違う気がしても、描き終えてみてください。完成させてダメだったとしても、人に意見を聞くことができます。私もデビュー前は持ち込みばかりでした。自分だけで完結せずに、人に見てもらうと良いと思います」と答えていました。

  • こちらが完成の1枚。時間内に終わる作業ではなかったので、完成品が用意されていた

    こちらが完成の1枚。時間内に終わる作業ではなかったので、完成品が用意されていた

多くの質問に答えるうち、あっという間に講座は終了。視聴者からは「時間いっぱい描いていただいて眼福です。今日の配信を何度も見返します」など、感謝の言葉が多く寄せられました。

最後にかるき先生は「緊張したけれど、思ったより進んでホッとしています。皆さんのコメントが温かくて本当に助かりました」と話していました。

かるき先生のセミナーは、現在アーカイブを公開中。気になった人はぜひ見てみてください。