工場の現場における生産性向上や経費削減の具体的な工夫は、企業にとってはノウハウのかたまりといってよく、まとめて表に出てくる機会は多くありません。そんな中、独自に開発した「からくり」を生産現場に導入し、成果を上げているパナソニック エレクトリックワークス社の新潟工場が、その優れた「からくり」を公開。からくりの具体的な仕組みと、工場の現場でどのように使われているのかをじっくり見てきました。

ここでいう「からくり」とは、電気やエアーなどを使わずに、機械の仕組みだけで自動的・半自動的に目的を達成する装置。広くとらえると、テコの原理を応用したハサミや栓抜きなども「からくり」です。取材した新潟工場には、からくりの力に魅せられ、数々の優れたからくり改善装置を生み出したメンバーがいます。それがこの4人!

  • 左から、パナソニック エレクトリックワークス社の徳吉潤成(ひろしげ)氏、黒澤真一朗氏、梨本賢一氏、田邉英明氏

    左から、パナソニック エレクトリックワークス社の徳吉潤成(ひろしげ)氏、黒澤真一朗氏、梨本賢一氏、田邉英明氏

  • 新潟工場の現場で生産性向上に寄与する、からくり改善装置の1つ「どんだけ~1コウ(号)」

メーカーの人間は、ハイテク設備のお守(も)りじゃない

舞台は、新潟県燕市にある新潟工場。敷地面積は甲子園球場の約4個分に当たる144,000平方メートル。施設用や屋外用の照明器具、防災用の照明器具を中心に製造しています。ライティングのマザー工場として「新潟モデル」を国内・海外拠点に展開中です。2021年4月現在、ここで1,175名の従業員が働いています。

  • からくり改善装置開発のメイン舞台となった、パナソニック エレクトリックワークス社 新潟工場

さかのぼって2017年、中心人物となる製作担当の徳吉潤成氏が、製造の職長から困りごとの相談を受けたことがきっかけとなり、新潟工場の「現場からくり改善活動」がスタートしました。最初のメンバーは徳吉氏のほか、パネル製作担当の黒澤真一朗氏、導入プランナー担当の梨本賢一氏と田邉英明氏というたった4人。しかも4人で集まれるのは業務時間外という、同好会としての始まりでした。

最初のうちは、周囲から「何をやっているのか分からない」と怪訝(けげん)な扱いも受け、部品1つ、ネジ1本でさえ「何に使うんだ?」と確認されたそう。そんな逆風を受けながらも、徳吉氏はかねがねある疑問を抱いており、その答えをからくり活動の中に見出して取り組み続けました。

「社内の生産設備は年々ハイテク化していきます。しかし現場を見ていると、ハイテク設備に関わる人たちの労力がそこで空回り、浪費しているケースが少なくありません。これでは、私たちはモノを作っているのか、ハイテク設備のお守りをしているのか分かりません。製造業の人間として、製品にもっと気持ちを入れられないかと感じていました」(徳吉氏)

省力化や低コスト化を図るからくり改善装置は、あくまで現場の工夫が原点。ハイテク設備ほどの自動化は無理でも、からくり改善装置なら壊れても簡単に直せるし、修理の間は人が作業を代われば良いと割り切れば、現場でやれる工夫はいろいろあるはずだと考えました。

やがて、職長からの依頼で作ったからくり改善装置「どんだけ~1コウ(号)」を、2018年度に名古屋で開催された「第23回からくり改善くふう展」に出展。そこで協会特別賞を受賞しました。同年「社内からくりコンテスト」でも最優秀賞を受賞するに至ります。

  • 社内外との交流によって活動の評価が高まり、新しい知識の習得、技術レベルの向上、自己認識の場にもなってきました

以降、社内外で毎年何らかの賞を受けるからくり改善装置を開発し続け、社内でも注目される存在に。現在は、活動が業務として認められる分科会へとステップアップし、毎年メンバーが入れ替わる形で30名が在籍しています。社内組織の「からくり全社事務局」には、全国のいろいろな拠点から約700名が登録するほどに急成長しました。

コスト削減の結果を紹介すると、まず現場のニーズに応じたからくり改善装置の開発にかかった制作費用は、総額で約67.1万円。高機能な生産設備の導入を回避したぶんの費用は概算で約2,600万円。作業性向上による生産性アップの費用に換算すると、実に2,014万円分もの効果を上げているそうです。近年は地域PR活動への協力や、子どもたちにからくりの魅力を伝える活動なども行い、令和二年度の文部科学大臣表彰を受けています。

  • 「現場からくり改善活動」による、からくり導入リスト

  • 新潟工場の建屋は、建設順に第1工場から第3工場まで並んでいます。からくり改善装置の多くは、製造の最終工程が多い第2工場に導入。今回はこの第2工場を見学しました

研究・開発・研修用の「からくりルーム」を確保

新潟工場の敷地内、奥まった場所にある一室が「からくりルーム」という徳吉氏たちの根城。2019年1月にからくり改善装置の研究・開発の拠点として、工場の中でも利用可能な一番広い空間を確保しました。各地の社員や新潟県内の企業が見学に来るため、からくり改善装置の常設スペースにもなっています。

  • からくり改善装置の開発だけでなく、展示スペースにもなっている「からくりルーム」の外観。冬は室内でも氷点下になるそうです

  • からくりルームの入り口。手作り感満載で愛嬌を感じます!

からくりルームに入ってすぐ、「からくりとは何か」をイメージするために、日常生活の中で目に触れる「からくりっぽい道具」が並んでいます。社内外の見学者が訪れたときには、ここで「からくりとは何か」を説明しているそうです。

  • 鉄のバネ性を利用したトング、サイズを変えられる落としぶたや蒸し器、アイスクリームをすくうディスペンサー、モデルガンの部品、テコの原理を使う栓抜きなど、からくりをイメージできる道具がずらり

続いて、からくりルームの展示スペースが広がります。工場で実際に稼働しているからくりと同じものがありました。生産が完了したラインからは、現物を持ってきているそうです。

  • からくりルームの展示スペース。ホワイトボードには説明用のフリップボードが用意されています

    からくりルームの展示スペース。ホワイトボードには説明用のフリップボードが用意されています

  • からくりルームの奥には作業スペース。新しいからくりを依頼されたときに、ここで研究しながら組み立てています

  • 作業スペースにはパイプや金具、工具など、からくりに利用する多彩な素材と道具がストックされています

研修用のからくり改善装置も。からくりを操作すると、箱に入れたおもりの重さを利用して、手前の箱が下に沈んで後ろに下がり、箱の位置が入れ替わる仕組みです。研修を受ける人は、用意された板とパイプを使って6時間で組み上げ、からくりの目的やできることを肌で学びます。

  • 研修用のからくり改善装置

初代「どんだけ~1コウ(号)」誕生! サーフボードの車輪から着想

では、実際に工場で運用されているからくり改善装置を見ていきましょう。ひとつめは「どんだけ~1コウ(号)」。非常灯の組立ラインで使用するテープ封函機の代替として制作されたもので、2018年に初めて社外のコンテストに出展して協会特別賞を受賞したからくりです。

小さい梱包箱がベルトコンベアから流れてきて、7箱ずつ2列に整列させながらストックする動き。コンベアから流れてくる箱が直角に曲がって列を作ります。このとき、箱が斜めになったり、列からはみ出したりしないようにする工夫が凝らされています。ちなみに、装置名の由来は開発当時に世間で流行っていたネタから。現場の要望をヒアリングしたとき「どんだけ溜めたいの?」と聞いたのがきっかけだとか。

  • 「どんだけ~1コウ(号)」

箱が流れてきたときに、装置に取り付けたキャスターが箱の重心より後ろに行くと、箱の重さでキャスターがくるっと首を振ります。キャスターの回転方向が横向きになることで、箱をきれいに直角で流します。

また、流れてきた箱に正面で当たるストッパーにはバネが付いていて、箱が流れる勢いに反発してかすかに押し戻すことで、箱が傾かないように調整しています。動画で見るとこの仕組みがよく分かります。

【動画】「どんだけ~1コウ(号)」の動き。一列目がいっぱいになると、ベルトコンベアの動力を使って二列目に押し出し、最大14個までストック(音声が流れます。ご注意ください)

「どんだけ~1コウ(号)」にキャスターを使うアイデアは、徳吉氏の子どもが乗るキャスターボードから着想したそうです。

「当時、3歳の子どもが真っ直ぐ乗れるのに、車輪に触れてみるとグラグラしており、なんで真っ直ぐ乗っていけるのか不思議で、ずっと観察していたんです。そのうち、板を水平にしていると車輪が真っ直ぐ進行方向へ回転するけれど、車輪の軸が真っ直ぐではなく斜めになっていることで、体重移動で板をちょっと倒すと車輪が簡単に傾斜することが分かりました。横の力には非常に強いのに、シリンダーを付けたように元に戻ることから、『これは使えるな』と思ってそのまま採用しました」(徳吉氏)

謎解きのあと「これは使えるな」と思うところが、なかなか常人離れしています。

  • キャスターボードの車輪が斜めに取り付けられている理由が分かったところで、からくり改善装置に採用。発想の飛躍がすごい

かくして「どんだけ~1コウ(号)」は、依頼から5日で完成。現場に設置されることになりました。かかった費用は約46,000円とのこと。

同じ目的(箱の整列ストック)を実現するために、電気の動力を使う設備を用意すると部品費だけで150万円、設計費を含めると300万円以上、さらに納品まで半年くらいかかるそうです。また、動力を使う設備には、安全装置や緊急時の対応確保、メンテナンス、故障によるダウンタイム(生産のロス)――といったさまざまなコストが発生します。

「10秒に1個しか出てこない商品の仕事を改善するのに、半年も待たされたら現場が苦痛だと思います。早く現場を楽にしてあげたいと思って作りました」(徳吉氏)

【動画】工場で「どんだけ~1コウ(号)」が実際に利用されている様子。製品を梱包した箱が奥から流れてきて、手前にストックされていくのがよく分かります(音声が流れます。ご注意ください)

鹿威し(ししおどし)のからくりを取り込んだ「どんだけ~2コウ(号)」

「どんだけ~1コウ(号)」の使い勝手が良かったことから、現場から再び要望が。1コウは、大量品番と呼ばれる同じ大きさのものが流れてくる場所での運用でした。

現場には複数サイズの箱を扱う場所もあり、大きい箱でも小さい箱でも切り替えてストックできる装置が欲しいと言われたのです。しかも、進行方向に対して満タンになったら横に落として欲しいという要望もありました。

設備において「切り替え」は面倒な仕組みを必要とすることが多く、「機械化するならシーケンス制御で箱をカウントして落とそう」と考えたくなるところでしたが、鹿威しのからくりを用いて解決。そして誕生したのが「どんだけ~2コウ(号)」です。

  • こちらもテープ封函機の代替装置「どんだけ~2コウ(号)」

【動画】どんだけ~2コウ(号)の動作。レーンに箱が溜まると、1列を丸ごと自動で横に押し出します(音声が流れます。ご注意ください)

「どんだけ~2コウ(号)」では、箱が流れるレーンの途中に、レバーが3つ用意されています。このレバーはレーンを支えるパイプをつかんでいて、レバーが倒れるとパイプを放します。ベルトコンベアで流れてきた箱が、流れの勢いでレバーを倒します。

レバーが3つとも倒れると、パイプの支えがなくなってレーンが傾いて箱が滑り落ちます。箱の重みがなくなったレーンは元の位置に戻ります。鹿威しと同じ仕組みです(水の重みで竹筒が倒れ、水がこぼれると竹筒が元に戻る)。

  • 箱が流れるレーンの途中にレバーが3つ

  • レバーの動きを説明する徳吉氏。徳吉氏が左手でつかんでいるレバーは、通常は根元でパイプを挟んでいて、レバーが倒れるとパイプを挟む力がなくなります

どんだけ~2コウ(号)の開発期間は、1コウと同じ5日間。費用は約64,000円でした。設置場所が決まっているので、1日目には枠をすべて組んでしまい、2日目と3日目は実験ばかり。設計図を用意することはなく、試行錯誤して完成させるとのこと。「設計図を用意しても、その通りに絶対動きませんから」と徳吉氏は笑います。

  • 工場で活躍中の「どんだけ~2コウ(号)」

  • 「どんだけ~1コウ(号)」と「どんだけ~2コウ(号)」を徳吉氏に依頼した杉林さん

からくり改善装置を完成した徳吉氏は、依頼者である杉林さんに「最優秀賞だ」と褒められて、からくりに本腰を入れるようになったとか。やはり、最後は「人の理解や共感」だと感じさせてくれるエピソードですね。

狭い作業エリアを有効活用する「フットぺだうん」「ロックだい!」「ダブルヘッダー」

続いては、大きめの箱をフットペダルで入れ替えるからくり「フットぺだうん」です。新潟工場のからくり改善装置には、残念ながらネーミングのネタ元がよく分からないものもあり、これはその1つ。

製品を組み立てて部品の箱が空になると、作業者はペダルを踏みます。すると空箱がエレベーターのように下へと沈んで、その勢いを利用して奥へ運ばれ、部品の入った箱が手前に出てきます。下に流れた空箱は別の人が回収して再び材料を入れて上に載せられます。

【動画】「フットぺだうん」の動作。このからくり改善装置は兵庫県の工場に送られ、新潟工場では使われていません(音声が流れます。ご注意ください)

からくり改善装置に共通するのは、工場内の作業エリアが狭くスペースを取れない中で、作業の効率化を実現していること。フットぺだうんも、箱を下ろして奥へ送る機構を単純に作ろうとすると作業エリアが足りず、作業者は通路にはみ出してしまうため、工夫を重ねて開発したそうです。

開発期間は3日間。そのうち1日は頭の中だけの作業で、試行錯誤できたのは実質2日間でした。制作費は約85,000円とのことです。

  • 「フットぺだうん」のスペース活用について説明する黒澤氏(左)と田邉氏(右)

「フットぺだうん」のエレベーター機構には、からくり改善業界で「膝カックン」と通称される関節機構が採用されています。関節は長辺方向(この場合は上から)の力には強いのですが、横から力を加えると簡単に折れてたたまれます。「フットぺだうん」では、ペダルを踏むと関節が横から引っ張られる形になり、関節がたたまれて箱を載せる面が下に沈み込む機構になっています。

  • (1)このペダルを踏むと、(2)連動する2カ所の関節が引っ張られて折れ曲がり(膝カックンの要領)、箱を載せる面が下へ沈むという動作

新潟工場では、「フットぺだうん」のからくりを応用した「ロックだい!」が使われています。下の写真で、「B級」表示のすぐ左にある先端の黒い突起を押しながら引っ張ると、各種部品が入った箱が載る台車が抜ける構造です。違う品番が必要になったら、箱を何種類も入れ替えずに台車ごと交換できるようになっています。

  • 生産中に台車をロックするから「ロックだい!」

同じく「フットぺだうん」のからくりを応用した「ダブルヘッダー」も、現役で活躍中のからくり改善装置です。

作業者がペダルを踏むと、空箱が下をくぐって反対側から排出されます。部品を供給する人は作業者の反対側にいて、空箱に部品を入れたら上に載せます。これにより、生産作業者と部品供給者の位置を完全に切り分け、スペースの効率化も図れています。

  • 「ダブルヘッダー」。作業者はからくり改善装置の左側

「ロックだい!」や「ダブルヘッダー」の作業現場を担当する松本さんは、「人の手作業で物を上から下へ入れる回数が非常に多かったので、ペダルで踏むという半自動で切り替え作業を少なくできたのは助かっています」と話します。

寺瀬さんは「からくり導入前は1時間で120台くらいの生産数が、からくり導入後は1時間で150台くらいの生産数になりました」とコメント。体感の数字ですが、25%アップは大きいですね。

からくりの導入時は、必ず先にテストして使い勝手を調整しています。「ペダルをもっと軽くして欲しい」といった要望が出たこともあり、徳吉氏はそれ以来、子どもの体重で調整したり、身長の低い人でもスムーズに操作できるかといったことも検証するようになったそうです。

  • 「ロックだい!」や「ダブルヘッダー」の作業現場を担当する松本さん(右)と寺瀬さん(左)

作業員の身体的な負担を減らす「シャカの手リリース」

続いては、非常灯組立ラインで使われている「シャカの手リリース(+オプション)」。制作費は約46,000円です。

箱が空になると、ペダルを踏んで下から後ろへ空箱を排出します。ゆるやかに傾斜したローラーの上に材料の入った箱が乗り、手前にゆっくりと押し出してきます。

  • 「シャカの手リリース(+オプション)」

「シャカの手リリース(+オプション)」は、空箱を下へ押し出す機構が「フットぺだうん」と似ていますが、下に排出するとき次の箱を持ち上げて、前進を停止しつつスペースを作っています。そして空箱を排出したあとは、持ち上げた手を下ろす動きを遠心力として、次の箱を前に押し出します。

  • 「シャカの手リリース(+オプション)」の動きは、西遊記で孫悟空を手のひらに乗せるお釈迦様からイメージして作ったとのこと

「+オプション」と付いているのは、作業員の要望によってあとから取り付けた、手前にせり出す箱のストッパーを指しています。このストッパーがあることで、箱の前進を受け止めるだけでなく、箱との間に少し隙間をあけて、箱の中の部材を作業員が取り出しやすくなっています。

【動画】「シャカの手リリース(+オプション)」の動作(音声が流れます。ご注意ください)

このからくりが導入される前は、作業台が作業者の後ろにあったそうです。作業者は部材を取ったあと背中を向けて作業して次へ渡し、また背中を向いて次の部材を取って作業台に向き直りと、1回の作業ごとにその場でくるくる回らねばならず、負荷が大きくなっていました。

この現場にはパナソニックの協力会社の作業員が入って作業していますが、徳吉さんが「あっちの作業場みたいになりませんか」と相談されて開発。現場の生の声から生まれたという意味では一番の事例となりました。

  • 「シャカの手リリース」が使われている現場。手前の青い箱と黒い箱の並ぶ場所です。+オプションはこの現場では使われておらず、別の場所にあるそう

作業ロスを低減する「からくりインバータ」と「2層式選択機」

第3工場で導入されているからくり改善装置は、蛍光灯カバーの供給装置「からくりインバータ」です。「2020年 第25回からくり改善くふう展」でアイデア賞を受賞しています。

作業員が手動でベルトコンベアに供給していたパーツを(約3秒間隔)、からくり改善装置で供給。ストック中の8本が雪崩を起こさないよう、前の4本と後ろ4本で隙間をあけてストッパーが働くようになっています。

  • 蛍光灯カバーの供給装置「からくりインバータ」

「からくりインバータ」では最大で8本をストックできるようになり、作業員が部品を乗せた台車を交換するときに、パーツ供給の手が止まる問題を解決しました。

台車交換時のロスは1回当たり数秒ですが、1カ月の累積では8時間分にもなっていたそうです。現場を知らない管理者が数字だけ見ると、現場作業員が怠けているように見えかねず、作業員にとっては手作業だけではどうしても解決できない問題でした。約2,000万円を投資してロボットを導入する計画もありましたが、「からくりインバータ」の制作費(120,000円)だけで済んでいるとのことです。

【動画】「からくりインバータ」の動作風景(音声が流れます。ご注意ください)

第1工場で導入されている足踏み箱交換装置「2層式選択機」は、からくりルームのみで見学。それにしても、「二槽式洗濯機」がここで出てくるとは思いませんでした。

作業員が2種類の部材を上下それぞれの箱から取り出して、作業できるからくり改善装置です。作業員が箱から部品を取って作業し、空箱になるとペダル操作で箱を後ろに回します。このとき箱は2つとも後ろに送られます。後ろに回った箱に別の作業員が新しい部材を入れておくと、ペダル操作のときに前に戻ってきます。制作費は約73,000円。

  • 足踏み箱交換装置「2層式選択機」

【動画】「2層式選択機」の動作。上段の箱を、下段の箱の部材入れに再利用する仕組みがよく分かります(音声が流れます。ご注意ください)

からくりを学んで日本のモノづくりの底上げに

ということで、見学してきたからくり改善装置をひとつずつ見てきました。筆者が特に印象深かったのは、作業効率を高めるからくりよりも、身体的負担の軽減を目指したからくりです。

もし、読者の皆さんが働く現場で、人間の身体に負担をかけて「早く」「安く」作業しているという場合、からくりによる工夫で人的資源への負担を取り除けないか、ぜひ検討してはどうでしょうか。

パナソニックの「現場からくり改善活動」が社内外で高く評価されているのは、それだけ装置に汎用性があり、他でも転用できると考えられているからでもあるはずです。せっかく公開しているからくり技術。自社の現場で役立ちそうだと感じたものはどんどん吸収して、日本のモノづくりの底上げにつなげて欲しいと感じました。