工学院大学、山口大学、国立天文台VERAプロジェクトの3者は10月12日、日韓合同VLBI観測網(KaVA:KVN and VERA Array)を用いた詳細な電波観測により、地球から約2億3000万光年彼方の活動銀河核において、中心の大質量ブラックホールから吹き出して間もない相対論的ジェットが高密度ガス雲に衝突してせき止められるという現象を捉えることに成功したと共同で発表した。
同成果は、工学院大 教育推進機構の紀基樹客員研究員、山口大大学院 創成科学研究科の新沼浩太郎教授らを中心とした、呉工業高等専門学校、国立天文台(NAOJ)、イタリア国立天体物理学研究所、韓国天文研究院、米・ハーバード大学の研究者が参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal Letters」に掲載された。
宇宙において大半の銀河の中心には、太陽質量の数百万倍から数百億倍もの質量を持つ大質量ブラックホールが潜んでいると考えられている。天の川銀河の中心に位置する大質量ブラックホール「いて座A*(エースター)」は今では活動的ではないが、遠方の銀河の大質量ブラックホールには、とても活動的なものも少なくない。
そのような銀河の中心部で大質量ブラックホールが激しい活動を示す銀河は「活動銀河」と呼ばれる。「3C84」もそうした活動銀河の1つで、地球から約2億3000万光年離れたペルセウス座銀河団の中心部にあることが分かっている。
3C84は2005年に中心の大質量ブラックホールからわずか4光年の距離で新たなジェット噴射が起こり、それに伴う「電波ローブ」が誕生する瞬間が観測されたことで注目されるようになった。電波ローブとは、活動銀河の両側に電波で観測される目玉のように2つ並んだ構造のことで、その正体は、活動銀河の大質量ブラックホールから吹き出したジェットの“吹き溜まり”であると考えられている。
3C84の電波ローブは生まれたてのためにサイズが小さく、北側の電波ローブからの放射光は、核周円盤に覆い隠されてほぼ見えなくなっている。そこで研究チームは今回、KaVAの43GHz周波数帯を用いて、3C84の電波ローブの詳細な観測を実施することにしたという(今回は、米国立電波天文台の「Very Long Baseline Array」(VLBA)による観測データアーカイブも補間的に用いられ、観測精度が高められた)。
その結果、南下運動を続けていた高速ジェット噴流の先端に発生し、電波ローブの中の明るく輝く部分である「ホットスポット」が、2016年後半から2017年末までのおよそ1年間、突然動きを止めて同じ場所に停滞するという現象を確認したという。この停滞現象は、ホットスポットが高密度ガス雲と激しく衝突してせき止められた証拠と考えられるという。
2018年以降、電波ローブは再び南へと動き始めたが、一連の電波画像からはホットスポットが消え、電波ローブの形状が歪んで暗くなる様子が捉えられたという。今回発見された現象は、高速ジェットと高密度ガス雲の激しい衝突が、電波ローブの成長過程に影響を与えたことが示されていると研究チームでは説明しており、工学院大の紀客員研究員は、「ホットスポットがおよそ1年間も動きを止めている観測データを目の当たりにし、まるで宇宙における交通事故の現場を目撃したようで、とても驚きました。活動銀河中心核では、これまで考えられていたよりも多くの高密度ガス雲が浮遊していて、若いジェットと激しい衝突を起こしているのかもしれません」とコメントしているほか、山口大の新沼教授は、「今後はさらに、東アジア全域とイタリアの電波望遠鏡群による地球サイズ規模のVLBI観測網で、この天体の数奇な成長過程を詳細に観察し、活動銀河核の謎の解明に迫りたいです」と今後の抱負を述べている。