ソフトバンクは10月4日、農業AIブレーン「e-kakashi」について、機能を大幅に拡充するとともに、端末を低価格化して提供を開始すると発表した。東京エレクトロンデバイス製の端末を採用しており、本体価格は10万9780円(税込)。同社は今回のリニューアルによって同ソリューションをより多くの農業法人や農業指導者、研究者、食品メーカーの契約農家などの農業従事者へ普及し、農業現場の課題解決の支援を目指す。

  • CO2センサ(画像左)とリニューアルした「e-kakashi」端末(画像右)

同社が2015年から提供している「e-kakashi」は、IoTセンサを活用して田畑やビニールハウスなど屋内外のほ場から収集した環境データに対して、植物科学の知見を取り入れたAI(人工知能)で分析することで最適な栽培方法を提案し農業従事者を支援するサービスである。

従来の端末は本体価格が約75万円と高額なことに加えて電源の確保が必要であり、親機と子機の2台での運用が必要なため遮蔽物などを考慮して設置する必要があった。しかし今回のリニューアルにおいては、東京エレクトロンデバイス製のゲートウェイを採用することで本体の低価格化を実現し、さらに市販のバッテリーで起動可能な本体1台での運用が可能となった。端末にソーラーパネルとニッケル水素電池を搭載しているため、充電と発電を繰り返しながら、外部電源への接続なしで完全に独立して駆動できるという。

また、これまでの「e-kakashi」と同様に同社のネットワークに対応した通信モジュールを搭載し、遠隔地からでもリアルタイムな環境のモニタリングが可能となる。通信環境が無い場合でも、約1カ月分のデータを本体内部メモリに蓄積できるため後日データを読み込んで分析に利用できるとのことだ。

  • 従来のデバイスとリニューアル後のデバイスの比較

同社のサービス企画技術本部 コアソリューション企画開発統括部 データソリューション部 担当部長 戸上崇氏は記者会見の中で「これまでのソリューションはJAや自治体などを対象に提供してきた。今回のリニューアルによって低価格化を実現したことで、今後は食品メーカーや農業生産法人への導入を促進したい」と述べた。

  • ソフトバンク サービス企画技術本部 コアソリューション企画開発統括部 データソリューション部 担当部長 戸上崇氏

新しい「e-kakashi」は、これまでの温湿度や日射量、CO2濃度、土壌温度、土壌体積含水率、土壌EC(電気伝導度)などのセンサーに加え、新たに温湿度センサー(ラジエーションシールド付き)と水深センサーを追加。センサーは、端末1台に最大4個まで接続可能。

なお、同ソリューションは農作物や栽培方法によって温湿度センサやCO2濃度センサなどの購入が必要となる。また、接続料として端末1台あたり月額1078円(税込)と、クラウド利用料として1契約あたり月額4378円(税込)が必要。農閑期としてデータを取得しない期間を最長4カ月設定可能で、農閑期の接続料は発生しないとのことだ。

  • リニューアル後の価格表

さらに、これまで同一のアプリケーションとして提供していたシステムを4つの機能に分けて提供を開始するという。ユーザごとによく使う機能のみを1つのアプリケーションにしたことで、より使いやすいシステムの提供を狙う。

「e-kakashi Navi」は農家向けのアプリで、スマートフォンから無料で使用できる。ほ場の環境データを確認できるほか、収集したデータから次のアクションを提示する。収穫時期を通知する機能によって人員などのリソースの効率的な配分ができる。

  • 「e-kakashi Navi」スマートフォン画面イメージ

「e-kakashi Analytics」は栽培指導を行う農業指導者や研究者を対象としたBI(Business Intelligence:ビジネスインテリジェンス)ツールである。複数の端末から収集した環境データや作業記録のデータ分析が可能なWebアプリで、月額1万1000円(税込)から使用可能。収集したデータを一覧で閲覧できるほか、作業者やほ場ごとの作業状況と異常値などを確認可能だ。

  • 「e-kakashi Analytics」Web画面イメージ

「e-kakashi Note」は施肥などの作業スケジュールを管理する無料のスマホアプリだ。作業工程をあらかじめ登録しておくことで、作業をリスト化しスケジュールを立てられる。また、複数人での作業内容の共有機能を備えているため、作業の漏れや重複の防止にもつながる。加えて、葉数などの生育調査の結果や発芽などの生育ステージの記録も可能である。

  • 「e-kakashi Note」スマートフォン画面イメージ

「e-kakashi Recipe Studio」は、収集した環境データや作業記録をもとに条件分岐やアラート通知の閾値を設定することで、独自の栽培レシピを作成できるWebアプリである。「e-kakashi Navi」との連携により、独自の栽培レシピに基づく高度なナビゲーションが可能になるとのことだ。熟練の農家が持つノウハウを電子化することで技術の継承ができ、農家の経験による収量や品質の差を埋めることにも役立つとしている。

  • 「e-kakashi Recipe Studio」Web画面イメージ