カシオ計算機は8月19日、小型プロジェクターや関連技術による新規事業を発表。小型プロジェクター×プロジェクションARによって、「スマートホーム」「スマートルディング」「スマートファクトリー」などの分野に新たな市場を創出する考えです。

BtoB領域向けとして、9月上旬に組込専用プロジェクションモジュール「LH-200」(参考価格:190,000円前後)を発売し、人々の快適・便利、社会の安全・安心、企業の省人化・無人化を後押ししていくと説明します。オンライン発表会からお伝えします。

  • カシオが「小型プロジェクター×プロジェクションAR」で新規事業をスタート

プロジェクションARが描く未来

プロジェクションARとは、現実の空間や物体に対して、プロジェクターでグラフィックスを投映して重ね合わせること。立体物にグラフィックスを投影して多彩な表現やパフォーマンスを実現する「プロジェクションマッピング」は、すでに多くのイベントなどで使われています。

カシオのLH-200は、建物内に設置する組込専用プロジェクションモジュールとして開発されました。冷却設計や防塵設計で設置可能場所を広げ、A5サイズ・重さ1kgというコンパクトながら、明るさ2,000ルーメンを実現。フィルター不要の独自防塵設計のためメンテナンスにも配慮されているなど、さまざまな用途、運用環境に適用できるのが特徴です。

  • 組込専用プロジェクションモジュール「LH-200」

「小型プロジェクター×プロジェクションAR」によってカシオが目指す世界として、一部の将来像が紹介されました。例えばスマートホームなら、キッチンに組み込むことで衛生ニーズに対応します。調理中はスマホを触ることが憚(はばか)られるため、料理のレシピを確認しづらい現状がありますが、キッチンの大きな作業台に画像や映像を投影できると便利になるでしょう。

  • スマートホーム分野にて。建物や照明装置などに組み込むことで、快適な生活空間を実現

スマートビルディングとしては、施設の床にピクトグラムなどを表示することも考えています。来場者を誘導したり、ソーシャルディスタンスを呼びかけたりと、さまざまな使い方ができそうです。

  • スマートビルディング分野にて。ライティングなどに組み込むことで、人々の移動をナビゲーション。案内業務も省力化できます

スマートファクトリーの分野では、例えば物流の倉庫ならピックアップする棚を指示する、製造工場なら手順を案内する、といった使い方が考えられます。経験が浅い労働者でも、熟練者と同等の作業を行えるようになり、製品の取り間違えといった人為的なミスを減らす効果も期待できます。

なお、この分野ではすでにプロジェクション事業の展開が進んでおり、カシオの現行製品(プロジェクター)を導入している企業からは、設置の柔軟性、長寿命な光源、高輝度で高精細なこと、広い画角、自由な取り付け角度などが好評とのこと。現場からは「デジタル化、ペーパーレスに貢献できている」「withコロナの状況もあり衛生面でも安心できる」といった声も聞かれているそうです。

  • スマートファクトリー分野にて。ミスの低減、作業効率の向上をサポート

このほか夢のある近未来の話として、自動運転が普及した世界では、道路を渡る人を保護する横断歩道もプロジェクターで投映表示――といったイメージ映像も紹介されました。

LH-200は屋内の利用を想定していますが、もし今後、屋外でも利用できるプロジェクターが開発されれば、市場がさらに拡大するのは確実。すでにさまざまな場所に情報があふれている現代社会ではありますが、プロジェクションARが進化すれば、これまでディスプレイや看板を設置できなかった場所も案内情報や広告スペースとして活用されるでしょう。

  • LH-200のスペック

パートナーとコラボ、新たな価値の創出へ

新規事業を担当しているカシオの持永信之氏は、プロジェクター事業の強みについて「2020年に世界初(※)の『水銀ランプを使わない半導体光源』を開発しました。レーザーとLEDを組み合わせたカシオ独自の光源システムは、明るさが2,000~4,000ルーメンのクラスのプロジェクターとしては圧倒的に小さく軽く、低消費電力を実現できます」と説明。この高効率光源技術は、プロジェクションARの用途にも最適な明るさだとアピールしました。

※1:2,000ルーメン以上のプロジェクターにおいて。カシオ調べ。

  • カシオが保有するプロジェクション技術資源

そもそもプロジェクションARとは、何を意味しているのでしょうか。持永氏は「物理的な空間に関連情報を表示する、プロジェクションを活用した拡張現実の手法です」と説明します。建物にダイナミックな映像を投影するプロジェクションマッピングと、スマートフォンなどで利用できるAR技術を組み合わせたイメージですね。

  • プロジェクションARを高成長領域に展開

カシオは、プロジェクションARをパートナー企業に提供することで、新たな価値の創出していく考えです。プロジェクション事業を担当するカシオの古川亮一氏は「独自技術に基づくオンリーワンのプロジェクションエンジンによって、お客さまのソリューション開発に貢献していきます」と意気込みました。

  • カシオ製プロジェクションモジュールを顧客のシステムソリューションに組み込むことで事業を展開

質疑応答で事業目標を聞かれた古川氏は「カシオの中期経営計画において、プロジェクション事業は3年間で100億円を目標数値に掲げています」と回答。プロジェクションARの市場規模については「何兆円規模のマーケット」と見込みます。後続の新製品についても、2020年度以降、第2弾、第3弾を計画していることを明らかにしました。