東京農工大学(農工大)は8月3日、名古屋大学 生物機能開発利用研究センターとの共同研究により、長年、茎が長く台風で倒れやすいと考えられていた日本固有のイネの中から、茎を太く強くする新たなゲノム領域の特定に成功したと発表した。

同成果は、農工大大学院 連合農学研究科 生物生産科学専攻の野村知宏大学院生(学振特別研究員)、同・千装公樹大学院生、農工大 農学研究院 生物生産科学部門の大川泰一郎教授らの研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

イネの穂が実る8~9月にやってくる台風がもたらす大雨や強風の影響により、イネが倒れてしまう(倒伏)ことで、米の品質や生産量が低下してしまうことが長年の問題となっている。また、近年、気候変動の影響から台風が巨大化する傾向があり、イネが倒伏してしまう危険性が高まるという事態に陥っている。

今後も台風の勢力は増大していく可能性があるため、東南アジアに上陸しているスーパー台風のような極めて強い勢力の台風が日本に到来することが危惧されており、そうした状況下でも安定した米の生産を行うための、倒伏しづらいイネの開発が課題とされている。

これまでの倒伏を防ぐための品種改良は、茎を短くする遺伝子を、人工交配で組み込み、イネの重心を下げることで進められてきたが、茎を短くしても、倒伏が依然として発生している状況であり、新たな方向性の模索が必要とされていた。

そこで今回の研究では、日本固有のイネ品種を含む計331品種のイネを用いて、日本固有のイネ品種が持つ茎の太さや強度といった倒伏に関連する性質の特徴を明らかにし、茎の強度を高める有益なゲノム領域とその中に存在することが考えられる茎の強度を高める原因となる遺伝子の探索が実施された。

その結果、一般的に日本固有の品種の方が茎が太くて強度が高いことに加え、日本固有の品種の中には、細く弱いイネから極めて太く強いイネまで多種多様なイネが含まれていることが明らかになったという。

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    倒伏抵抗性関連形質の頻度分布(画像は茎の断面図) (出所:農工大Webサイト)

また品種改良が行われていく中で、茎の長さは年月が進むにつれて短くなっていき倒伏しにくくなるように改良されてきた一方で、茎の太さと強度は徐々に減少していったことも明らかとなった。これらのことから、日本の倒伏を防ぐためのイネの品種改良は、茎を短くすることのみによって行われてきたことが示されたという。

また、ゲノムワイド関連解析の結果、特に第2染色体上の28.7~29.3Mb(Megabase:100万塩基対)に茎を太くするゲノム領域が、第3染色体上の0.5~0.9Mbに茎の強度を高めるゲノム領域が新たに特定されたとするほか、これら2つのゲノム領域を持つ品種は、相加的に茎の太さが向上することが示されたという。

さらに、日本固有の品種は近代品種に比べ、どちらのゲノム領域も優良な代替型の遺伝子型を持つ品種の割合が多いことも示されたとする。

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    第2染色体長腕と第3染色体短腕のゲノムのピークにおける遺伝子型の割合 (出所:農工大Webサイト)

先行研究により、一般的に茎の太い品種は穂が大きい代わりに茎の本数が少なく、茎の細い品種は穂が小さい代わりに茎の本数が多いという特徴を持っていることがわかっている。そのため、日本の品種改良は、茎の本数を増やしていく中で、茎の太さや強度を高めるゲノム領域が受け継がれなかったことが推定されたというが、今回の成果を踏まえることで、効率的に茎の強度を高め倒伏しにくい新品種の開発が期待されるようになると研究チームでは説明する。

さらに、将来的にはスーパー台風が到来しても倒れない新しいイネの開発に貢献することが期待できるとしており、日本だけではなく東南アジアを含めた世界の食料安全保障に寄与することが見込まれるとしているほか、今回の成果は、コムギやトウモロコシなど、ほかの作物へ応用することも期待されるため、世界の主要作物の安定的な生産にも役に立つことが考えられるとしている。