大阪市立大学(大阪市大)は7月27日、意欲を引き出すような情報が与えられることによって、認知課題の成績が向上する神経メカニズムを解明したと発表した。
同成果は、大阪市大 大学院医学研究科 運動生体医学の松尾貴司大学院生、同・石井聡講師、同・吉川貴仁教授らの研究チームによるもの。詳細は、米オンライン科学誌「PLoS ONE」に掲載された。
人はやる気・意欲を持てるか持てないかで、学業にしろスポーツにしろ業務にしろ、そのパフォーマンスや結果に差が大なり小なり出てくることが知られている。そのため、これまで学業成績を向上させるには、達成感などによって引き出される学習意欲が重要であるといわれてきたが、実はそのメカニズムは明らかにされておらず、脳科学的な裏付けは十分ではなかったという。
認知機能と学業成績は密接に関連していると考えられることから、研究チームは今回、意欲を引き出すような情報が与えられることによって、認知機能が向上する神経メカニズムについての研究を行うことにしたという。
実験には、健常成人男性20人が参加。すべての参加者が、2つの条件下において、同一の注意機能と作業記憶に関わる難しい認知課題(1-back Stroop課題)を実施した。
一方の条件では、認知課題の合間に実際の成績とは無関係に認知課題の成績が平均を上回り、ほぼ最高レベルであることを示す画像が提示され、もう一方の条件では比較のため、課題成績とは関係のない画像が提示された。
両条件下で、脳磁図法を用いて課題実施中の脳活動を測定したところ、課題成績とは関係しない画像を提示された場合には、次第に認知課題の成績(正答率)が低下していったのに対し、成績が良好であったことを提示した場合には課題成績が保たれることが確認されたという。
認知課題中の脳活動について調べると、成績が良好であったことを提示することで、課題成績が保たれた程度(=そうでない条件に比して成績が向上した程度)と、情報処理の活発さとの間に関連がある脳部位の存在が明らかとなったという。
研究チームでは、それらの領域は、今回行われた研究で用いられた注意機能や作業記憶に関連する、認知課題の実行に関わることが知られている脳部位であったことから、達成感・有能感を引き出すような情報が与えられることで、課題に取り組む際に使用する脳部位の働きが促進され、その結果、認知課題の成績が向上した可能性が考えられたとしている。
なお、成績が良好でないことを提示することによっても、成績が向上する可能性があるという。そのため、今回の研究に引き続いて、さまざまなシチュエーションにおいて意欲と課題成績に関わる神経メカニズムを明らかにしていくことで、よりよい教育法(成績のフィードバック方法など)の実践に資することができると考えられるとしている。