(著者・インテル株式会社 執行役員常務 技術本部 本部長 土岐英秋)

私たち、インテルはビジョンとして、データの可能性を解き放つパフォーマンス・リーダーを目指しています。新型コロナウイルス感染症の大流行により、インテルでは全世界で11万人の社員のほとんどが、数日のうちに在宅勤務に移行しましたが、在宅でもデータを最大限に活用しながら、製造施設オペレーションや監視・制御、製造装置の設置やトラブル・シューティングを行えるようにし、製造業での働き方改革の一つへと発展させました。この取り組みは自社の範囲にとどまらず、急増する顧客の需要に対応した複雑なグローバル・サプライチェーンの維持や、事業継続のためのコミュニケーションやコラボレーション連携など多岐にわたります。

  • インテルIT部門の主な成果

デジタル・イノベーションを加速させる自動化とデジタル化への投資

インテルの半導体製造工程では、以前から高度に自動化された実績のある製造ITによる世界規模のオペレーション・モデルが導入されていました。しかし、インテルの社員とサプライヤーの皆様が感染拡大による出張規制を受け、社員は可能な限り自宅での業務を続けることになり、結果、製造施設の安定稼働と、社員の安全を両立させる革新的なソリューションを開発する必要に迫られました。そこで、インテルのリモート・オペレーション・センター(ROC)の技術者が、自宅から製造施設のオペレーションの監視・制御を可能にするハードウェアとソフトウェアのプラットフォームを開発しました。インテルの製造施設をリモートで稼動させるために、以下の取り組みを実践しました。

  • 複数の遠隔通信および診断機能の実用化と拡張
  • 製造施設技術者やエンジニアが在宅勤務するための新しい方法の設計
  • リモートアクセス機能と IT コラボレーション機能の拡充
  • 会社支給のノートブック PC の増大
  • より最先端なコラボレーション・フレームワークへのアップグレードとビデオ会議の品質の向上
  • 画像や動画を利用した明快な装置の操作

  • 研修生は自身のパソコンで状況を確認しながらトレーナーに質問し、トレーナーはヘッドセットを装着しながら効率的に質問に対応

顧客第一主義に向けたAI活用と優れたウェブ体験の創出

インテルはまた、顧客第一主義による優れたサービスの提供や業務の改善のために、積極的にさまざまな変革を促進させています。その一例として、セールスAIプラットフォームの導入を通じて、インテルの営業担当者が顧客により適切な提案を行い、より良いサービスを提供できるよう努めています。このプラットフォームで稼働する自律型のセールス・アプリケーションは、自動的に電子メールやウェブ通知、ニュースレターなど配信・発行し、セール活動を支援します。この自律型セールス・アプリケーションは、人間の手を介さずに毎日、自動的に稼働し、インテルの営業担当者が対応できない場合でも、すべてのパートナーの方々に有益な情報が届けます。

AI活用の一方、インテルは年間3億6千万人が訪れる自社のウェブサイト、intel.comの利用体験の向上にも取り組んでいます。今回新たに優れた機能性や自動スケーリング、そしてページのロード時間の改善などの改修が図られました。サイトに導入されているインテル(R) オートメーテッド・リレーショナル・ナレッジ・ベース(インテル(R) ARK)は、インテルのすべての製品情報を社外向けに提供し、月間平均1,300万回以上の閲覧数を誇ります。そのインテル(R) ARKをIT部門がサポートするエンタープライズ標準ソリューションに移行させ、複数のチャネルやプラットフォームにわたり製品データを配信できる単一のリポジトリーとして構築しました。そして、新しいレコメンデーション・エンジンの実装により、一貫したインターフェイスとユーザー利用体験を提供し、顧客が意思決定を十分な情報に基づいて行えるようになりました。

変革の原動力になる自動化とデータの活用

デジタル・トランスフォーメーションの変革の原動力はデータです。製造業ではAIを活用し、製品のイノベーションを促し、ライフサイクル全体で製品の製造工程を向上させることが求められています。ウエハー加工時には1枚あたり約1ギガバイトのデータが生成されますが、インテルでは、自動化とAIにより、そのすべてをチェックし、最高の品質基準を確保しています。加えて、各製造施設では1日当たり50億を超えるデータポイントの処理が行われていますが、高度な分析の実行により、エンジニアが必要な情報を抽出するための時間を従来の4時間から30秒へと劇的に短縮しました。また製品検査においても、人間による検証作業からAIによる自動化検証へとその割合を増やし、時間を要するプリシリコンの検証段階を最適化、製品検証プロセスを改善し、コスト削減と市場投入までの時間短縮を実現しました。

2020年は、インテルの能力と対応力が試された前例のない特別な年になりました。デジタルファーストのビジネスの重要性や、危機的な状況下での迅速な対応など、働き方の変化を学びました。この一年はテクノロジーの必然性が前面に押し出され、デジタル・トランスフォーメーショを進めた企業・組織の方が、より良い結果を得られたことも証明されました。インテルは今回の危機を通じて社内の連携を緊密にし、優先事項への集中的な取り組みや、より迅速な行動を実践しました。これからも、インテルでは危機感とスピード感を維持する姿勢で、顧客に大きな価値を提供していきます。

先進的な取り組みをひろく読者の皆様に紹介するため、寄稿記事を掲載しました。

◆著者・インテル株式会社 執行役員常務 技術本部 本部長 土岐英秋

1988年 インテルジャパン株式会社(当時)に入社。Centrinoの発表では、モバイル・アプリケーション・スペシャリストとして、そのモバイル戦略を技術面より支える。クライアント全般の技術面を統括するインテル・アーキテクチャー技術本部 統括技術部長などを経て、2011年 技術本部 本部長に就任。2012年 執行役員に就任。2017年 執行役員常務に就任。