大阪大学(阪大)は6月22日、コップに注いだギネスビールの泡が作り出す模様の発生条件を数式で表現することに成功したと発表した。
同成果は、阪大大学院 基礎工学研究科の渡村友昭助教、同・杉山和靖教授、キリンホールディングスの四元祐子氏、同・鈴木深保子氏、同・若林英行氏らの共同研究チームによるもの。詳細は、米物理学会発行の学術誌「Physical Review E」に掲載された。
ギネスビール(黒ビール)に含まれる泡は窒素ガスによって作られているため、炭酸飲料と比べて寸法が1/10ほどで、直径50μm程度にしか成長せず、ゆっくりと浮上することが特徴だ。また、無数の泡が飲料中に長く留まるため、クリーミーな味わいを楽しめると同時に、泡の集団が織りなす模様を鑑賞するという楽しみ方もあるという。
この美しい模様はビール愛好家以外にも、科学者たちの心を惹きつけるようで、渡村助教らはこれまでの研究で、模様が発生する仕組みを明らかにしてきたという。
しかし、泡の模様はギネスビールを代表とした窒素封入飲料でしか見られず、また、泡の模様発生を説明することや予測することがこれまではできていなかったことから、科学者たちの間でも“不思議な現象”として扱われてきたという。
飲料に含まれる泡の量や大きさを制御することは、現在の技術では一般的には不可能とされているため、限られた条件の中でしか実験を行えず、模様の有無や気泡の運動について一般的な法則を見出すことが不可能なためだという。スーパーコンピュータを用いた計算科学を活用しても、小さな泡が無数に存在する流れを三次元空間で完全に再現するシミュレーションは超難問であることから、今回の研究では、二次元で比較的難易度が高くないシミュレーションと数理モデルを併用して、気泡が模様を作る条件の一般性を調べることに挑んだという。
具体的には、二次元シミュレーションを用いてギネスビールに現れる泡の模様を再現することに成功。泡の量や大きさ、容器の大きさ、壁面の角度などを自由に設定し、約400通りもの条件で実施されたという。
また、泡と液体の運動方程式が用いられた数理モデルが作られ、流れのスケーリング則が見出され、模様の出現は、「安定か不安定を表す指標(フルード数)」と「泡が密か疎かを表す指標(濃度界面の解像度)」という2つの要因によって決定することが示されたという。この数理モデルにより、コップの形に応じた模様の有無を説明することが可能となったという。
さらに、コーラや炭酸水が一般的なコップでは模様を形成しない理由も、隣接する泡同士の距離が離れており「密」状態が回避されているため、であることも明らかとなったほか、コーラや炭酸水であってもドラム缶のように巨大なコップに注げば、相対的に密な状況を作り出せるため模様が現れる可能性があることも示唆されたという。
研究チームでは今回の研究成果について、工業装置や食品醸造装置、細胞や微生物の培養装置などの設計方策に活用されることや、容器内部で生じる流動現象に対する物理的な理解を進展させることにつながることが期待されるとしている。