いまや、1万人を突破したと言われているバーチャルYouTuber(VTuber)。eスポーツ大会に出場したり、会社の広報を担当したりと、それぞれが個性に合わせた活動を行っている。雑談をメインに配信するVTuberもいるだろう。
歌が得意であれば、アーティストとしてオリジナルの楽曲をリリースするVTuberもいる。富士葵さんもその1人だ。
2018年11月7日に、1stシングル『はじまりの音』をリリース。2019年の7月31日には2ndシングル『エールアンドエール』を、11月20日には1stアルバム『有機的パレットシンドローム』、2021年3月24日には2ndアルバム『シンビジウム』を発売。そして、2021年6月18日に、生誕記念 2nd ソロライブ「シンビジウム」を開催した。
ソロライブは、2019年10月5日の「OVER TURE -序曲-」に続いて2回目。今回は「Zepp Tokyo」でのオフライン開催に加え、7月4日までアーカイブ視聴可能なチケット制のオンライン配信も実施した。
「Zepp Tokyo」では、新型コロナウイルス感染症対策を徹底。マスク着用や声出しの禁止、検温、アルコール消毒、観客同士のソーシャルディスタンスの確保など、多くの制約があるなかでの開催となった。筆者はオンラインエンターテインメントスペース「SPWN」で配信中のライブを視聴したので、今回はその様子をお伝えする。
新衣装に身を包んだ富士葵さんから感じた大人らしさ
生誕記念 2nd ソロライブ「シンビジウム」は、ライブのタイトルにもなっている新曲『シンビジウム』から幕を開けた。2ndアルバムのカバーで描かれている新衣装を身にまとっての登場だ。
富士葵さんといえば、3年ほど前にクラウドファンディングで「かわいくなりたいプロジェクト」を実施したことでも話題になった。2017年12月にYouTubeチャンネルで動画を公開し始めた富士葵さんは、当初「モデルさえよければ」「かわいくない」などと言われていたそう。
「もし、かわいくなったら、もっともっとたくさんの人に動画を観てもらえるのかもしれない」。そう考え、2018年1月に、富士葵さんは3Dモデリングならびにシステムのバージョンアップを実施すべく、クラウドファンディングサイト「Makuake」でプロジェクトを開始。目標金額1000万円を大きく上回る2200万円の資金調達に成功した。
そのとき、新モデリングと新衣装を手にした富士葵さんは、“あか抜けた”という印象だったが、今回のライブで藤色のドレスを身にまとった彼女は、大人の女性の麗しさや強さを感じさせる。なお、「かわいくなりたいプロジェクト」のストレッチゴール達成でも、煌びやかでかわいらしいドレス衣装が制作されたが、そのドレスとは違い、今回の衣装はクールさを醸し出す。
また、ライブでは黒バックに白抜き文字で歌詞を表示する背景パネルのスタイリッシュな演出によって、彼女の大人らしさがより際立つ。パネルが暗いこともあって、「Zepp Tokyo」にいる歌劇団(富士葵さんのファンの呼称)のサイリウムの光が、波のようにステージに向かっていくように見えた。
そして、2曲目に『arrows×アドビ』Web CMのタイアップ曲にも採用された『Eidos』、3曲目にデビュー曲『はじまりの音』と続き、会場は一気に湧き立つ。それに合わせて背景パネルの演出や照明も大人っぽさから疾走感あるものへシフト。「Zepp Tokyo」では声を出せないため、歓声は聞こえないものの、熱気は配信で見ていても伝わってくる。
また、2ndアルバムに収録されている『コヨーテ』が始まると、ライトアップがカラフルに彩られ、富士葵さんはクルクルと回り、軽やかなステップを踏んだ。
MCパートでは、「『コヨーテ』のダンスどうだった―? かわいいよね。民族風の音楽にぴったりのダンスと身振り手振りで伝えるようなフリを付けてくださって、とても気に入っています」と初披露したダンスを紹介。「次のライブがあったときはみんなで踊れたらいいな」と笑ってみせた。
また、「『Q.E.D』は葵が作曲を担当させていただきました。発売間近になってアルバム全体のコンセプトが決まって、曲もそろってきて、曲の順番を決めることになったときに、葵のだけできてないんですよ。これが俗に言う締め切りってやつですね!と気づきました。そこで慌てて歌いたい曲のイメージとか、曲順的にこういうノリの曲がイイかなとか考えながら生まれたのが『Q.E.D』です」と作曲の裏話を披露するシーンもあった。
富士葵さんは、抜群の歌唱力で聴く人の心を魅了する反面、トーク中はどこかあどけなさを感じさせる。そんなギャップを同時に楽しめるのもライブの魅力の1つかもしれない。MC中の話を聞いていると、元気というか無邪気というか、飾り気のない人柄が伝わってくるようだった。ちなみに、シンビジウムの花言葉は「飾らない心」。まさに、彼女にぴったりだろう。
後半のカバー曲パートでは、クラウドファンディングで羽化したときの衣装にお召し変え。過去にライブで披露したことのある曲はそのときの映像が流れることもあった。
そのまま『シュガーソングとビターステップ』『ゴーストルール』『空に歌えば』『エールアンドエール』といった4曲を歌うと、再び衣装チェンジ。2019年の生誕祭からの衣装で、シンビジウムに収録されている『秘密を聞いてよ』や『8分19秒』、『紫陽花が泣いた』などを歌う。
声出し禁止のなかでは、止まない「拍手」がアンコール替わり。シンビジウムのライブTシャツに着替えた富士葵さんは、ピアノを弾きながら2ndアルバムに収録されている曲『チョコレート』をやさしく歌いあげる。
そして最後のMCでは、告知の前にサプライズでバースデーケーキが登場。「幸せ者だね葵は。みんなありがとう!」と何度も喜びを表していた。告知ではオフィシャルファンブックの発売と新レーベル「Acro」への所属を発表。新曲も制作中だという。
宙に浮かんだり、雨を降らせたりと、配信向けのAR演出も
ライブでは、オンライン配信ならではのAR演出もあった。「Zepp Tokyo」でどのように見えたのかわからないが、『Anitya』を歌っているときに流れてきたのは、富士葵さんが客席で宙に浮かんでいるような演出。周りには蝶が舞っており、幻想的な光景を楽しめた。
1stアルバムに収録されている『まだ希望に名前はない』を歌うときには、画面に雨が降るエフェクトが施され、『MY ONLY GRADATION』では客席が火を噴いた。
また、オンライン配信では、コメントが常にものすごい勢いで流れていたのも印象的だった。視聴しているファンは「すげぇ」「泣いた」など感想を述べたり、「はい! はい! はい!」と合いの手を入れたりと、盛り上がりを見せる。
2ndシングル『エールアンドエール』を歌うとき、会場では客席を2つに分けて手拍子を行ったが、オンライン配信の視聴者は拍手の絵文字をコメントに連打。また、手拍子のあるタイミングで〇や△、×といったポップなARアイコンが画面いっぱいに飛びあがり、会場も配信も一体感を味わえたのではないだろうか。
なお、ライブの翌日にはYouTubeで振り返り配信を実施した。オンラインチケットは7月4日21時まで販売(視聴は7月4日23時59分まで)する。