コロナ禍になってから、アバター(分身)ロボットや人工知能(AI)アバターが活躍する場面が増えてきた。企業が抱える人手不足問題の解決の一翼を担うだけでなく、非接触・非対面によるサービスを実現できる点から、こうしたアバターやロボットはさまざまな企業で導入されている。
矢野経済研究所の調査によると、2020年の協働ロボット(人と協働した作業ができる)の世界市場規模は898億1300万円の見込みで、2030年には、約2.5倍の2230億8200万円になると同社は予測している。また同社は、2017年の国内の対話型AIシステムの市場規模は11億円と推計したが、2022年には132億円と5年間で10倍以上の成長を見せると予測している。
自治体や教育機関にも対応する「AIさくらさん」
ティファナ・ドットコムが提供する「AIさくらさん」は、業務自動化やデジタル化、非対面での遠隔接客化を実現するAI接客システム。企業のヘルプデスクをはじめとして、駅や商業施設などのサイネージ形態でも多く導入されている。
2021年3月31日よりJR海浜幕張駅に導入された「AIさくらさん」は、駅員に代わって非接触による案内を実現している。画面に指を近づけることでカーソルが出現、そのまま指を動かすだけで画面に触れずに操作することが可能。
「質問する」と書かれたボタンに指を近づけ話しかけると、知りたい情報をAIさくらさんが教えてくれる。駅構内の地図や乗り換え情報のほか、観光スポットやおすすめのお土産などについても答えてくれる。
また、体表面温度を測定する機能も備わっており、「温度を測る」ボタンに指を近づけることで、その人の体温を測定し表示する。発熱者の早期発見にもつなげることができる。
自治体や教育機関においても「AIさくらさん」の導入は進んでいる。三重県県四日市市役所は4月1日より「AIさくらさん」を導入し、受付案内業務を非接触化・省人化している。関西大学東京センターは6月1日、教育機関で初めて「AIさくらさん」を導入し、学割証や成績証明書などの各種証明書の発行手続きなどの支援を行っている。
「興味を示して、いろんな人がAIさくらさんに話をかけてくれる」(ティファナ・ドットコム広報)。iPhoneのソフトウェア「Siri」に対して、ユーザーが他愛もない質問を投げかけることと同じようなことが「AIさくらさん」にも行われているという。どんな反応をするかどうかが気になって、質問を持ち掛ける心理は確かに理解できる。
アバターロボットで柔軟な雇用を
ugoが開発した「ugo(ユーゴー)」は、遠隔操作に加えAIによる学習機能で自動でビルメンテナンス業務を行う次世代型アバターロボット。2本のロボットアームと高さ調整機能をうまく活用して、人手不足が深刻なオフィスビルなどの警備や清掃、点検、除菌といったさまざまな業務をこなす。
オペレーターは、ugoのカメラ映像を視聴しながらキーボードや専用コントローラーで遠隔操作する。エレベーターとの連携も可能で、定期的な巡回はロボットに任せ、来客の道案内や、コロナ禍において必須となっている検温などは遠隔から操作する。5Gにも対応しており、ほぼリアルタイムでカメラ映像を確認でき遠隔操作することが可能。
また「ugo」は、ドアノブなど人が触れる部分を紫外線除菌できるほか、温度や湿度、気圧といった環境測定センサーを搭載しているので、法律によって年6回行わなければならない空気環境測定を代わりに実施できるとしている(現在は実証実験段階)。
「ugo」を活用することで、人手不足の解決や感染症の予防といった課題を解決するだけでなく、「新たな雇用を生み出せる」と、ugo代表取締役CEOの松井健氏は話す。遠隔からの操作が可能なためリモートワークにも対応でき、病気や身体障害を抱える人もアバター操縦士として活躍できる可能性がある。
「日本の労働人口は今後20年間で1428万人減少すると言われている。ugoでビル管理業務のデジタルトランスフォーメション(DX)を支援し、柔軟な雇用に対応させ、感染症予防にもつなげていく」(松井氏)
3度目の緊急事態宣言が6月20日に沖縄県を除いて解除されるが、COVID-19の感染拡大は収まりを見せない。今後、ワクチン接種により収束に向かい始めても、非接触・非対面によるサービスの需要はなくならないだろう。人に代わってロボットやAIが仕事をする――子供の頃に夢見ていた想像が現実となり、今後ますます加速していくだろう。