近畿大学(近大)は6月7日、静電気の特性を利用してウイルスなどの病原体を水に捕捉する装置を開発し、飛沫で空中に浮遊するウイルスを効率的に回収して殺菌することに成功したと発表した。

同成果は、同大薬学総合研究所の角谷晃司教授と、同農学部 農業生産科学科の松田克礼 教授らの研究グループによるもの。詳細は環境衛生学と公衆衛生学に関する国際的な学術雑誌「International Journal of Environmental Research and Public Health」に掲載された。

世界的に感染が拡大している新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対し、世界保健機構(WHO)は接触、飛沫、空気を介した感染に対する予防策の必要性を強調しており、特に飛沫を介した感染の予防が重要視されている。 そうした中、研究チームは、ウイルスなどの病原体を閉じ込める方法の1つとして、静電気の力を発生させる「静電場」に着目した研究を進めてきており、これまでに、カビの胞子や、花粉、煙、昆虫などを捕捉できる「静電場スクリーン」という装置を開発してきた経緯から、静電場を活用して飛沫(直径5μm以下)やウイルスなど、さらにサイズの小さい物質を捕捉する新たな装置の開発を目指してきたという。

今回開発された装置は、水の入った容器の上に複数の釘を固定したプレートを設置したもので、釘側にマイナスの電圧を与えて静電場を発生させることで、水をプラスに帯電させることができるという仕組み。この装置に、ウイルスを含むミスト(飛沫を模擬して吸入器で発生させたもの)を吹き付けると、装置内で発生したマイナスイオンとミストが接触することで、ミストがマイナスに帯電し、プラスに帯電した水側に捕捉されることを確認したほか、ウイルスを回収した水は、オゾンを用いることで99%以上殺菌できることも確認したという。

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    静電気の特性を利用し、水に病原体を捕捉する装置。画像は蛍光試薬を捕捉した様子 (出所:近大/NEWSCAST Webサイト)

今回の研究では新型コロナウイルスに構造が類似した安全なウイルス「バクテリオファージφ6」を使用したというが、バクテリオファージ以外にも、細菌性(ジフテリア、百日咳、髄膜炎、疫病、肺炎)や、ウイルス性(インフルエンザ、髄膜炎、おたふく風疹、肺炎)、および飛沫感染によって引き起こされるマイコプラズマ病の病原体や新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)といった病原体の捕捉に適用できる可能性があり、除菌機能を持つ空気清浄機の開発に向けた応用が期待できると研究チームでは説明している。

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    今回新たに開発された装置の構造(左)、釘を固定した部分の拡大画像(右) (出所:近大/NEWSCAST Webサイト)

また、ウイルスや細菌をそのままの状態で水に回収できることから、空間を浮遊する病原体のモニタリング装置としての応用も期待できるともしている。

  • ウイルス捕捉

    異なる電圧をかけた場合の捕捉したφ6ウイルス数 (出所:近大/NEWSCAST Webサイト)