産業技術総合研究所(産総研)は5月25日、記者説明会を開催し、産総研がこれまで実施してきた大規模集客イベントにおける新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染リスクの評価や、感染対策のリスク低減効果の評価についての説明を行った。

現在、COVID-19の感染対策として、大規模集客を行うスタジアムなどでは、観客数に制限を設けたり、分散退場を行うといった対策を行いつつ集客を実施している。

産総研でも、これまで日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)の試合にてレーザーレーダーを用いて混雑具合や滞在時間の計測を行ったり、ハンディカメラとAIを用いたマスク着用率の調査、マイクロホンアレイを用いた非意図的な歓声頻度の計測、二酸化炭素計測器(CO2計)を用いた調査など、リスクの定量化を行うことを目的とした実証実験を行ってきた。

今回の説明では、そうした調査活動の中から2021年4月3日に豊田スタジアムで行われた名古屋グランパスエイト対FC東京の試合と、同4月11日に行われた味の素スタジアムのFC東京対川崎フロンターレの2試合の測定結果などが披露された。

  • Jリーグでの調査結果

    Jリーグの試合での調査結果。高いマスクの着用率や収容率を抑えた集客で密とされる状況が確認されなかったことが示されている (出所:産総研)

調査の結果、AI画像解析によるマスク着用率の確認では、試合中は94%、ハーフタイムは83.5%と高い値が確認できたという。また、レーザーレーダーによる人の流れの解析では、分散退席を行った結果、人の流れを10~15分ほど分散させる効果があったとしているほか、CO2計での計測でも換気の悪い密閉空間の基準となる1,000ppm(安全基準ではない)を下回る400~500ppmの値が計測できたという。

こうした調査の結果は、協力団体へフィードバックを行い、対策方法の検討につなげるなどの活用が進められているという。

また、東京五輪の開会式のリスク評価を行ったモデルMurakami et al.(2021)にマスク着用率、座席間隔、同行者数などを考慮できるように改良したモデルを独自に開発、今回の実証試験で得られたマスク着用率などのパラメータを使用する形で感染リスク対策の効果の評価を実施。

その結果、座席間隔の確保、マスク、手洗い、消毒などといった対策を、主催者と観客が協力して実践すれば、対策を講じない場合と比較して、感染リスクは94%削減されるとの評価に至ったという。加えて、対策の中でもマスク着用によるリスク削減効果が大きく、マスク着用の重要性が再確認されたとしている。

  • 各種対策を行った場合のリスク評価の結果

    各種対策を行った場合のリスク評価の結果。左が豊田スタジアムの評価結果、右が味の素スタジアムの評価結果 (出所:産総研)

なお、今回の成果については産総研より5月11日付のプレスリリースとして公開されている。

産総研では、これまでの実際の試合で得られたパラメータや最新の知見を加えていくことで、リスク評価の精緻化を進めていく予定だとしている。