ソフトバンクグループは5月12日、2021年3月期 決算説明会を開催しました。それによれば、当期純利益は4.99兆円に到達しています。登壇した孫正義会長は、創業当時の思い出を振り返ったほか、メディアの質問に回答する形で「ビットコインについて」「日本のデジタル化について」「NTTの会食問題について」独自の見解を示しました。

  • 代表取締役 会長兼社長執行役員の孫正義氏

創業当時の思い

ソフトバンクグループの決算では、いつも印象的な写真やイラストが提示されます。今期は1枚のセピアカラーの写真でした。「私にとって、非常に大切な光景であります」と孫氏。なんと、創業の年(1981年)に創業の地 福岡県の雑餉隈(ざっしょのくま)で撮影した写真とのことです。

  • 創業の地で撮影された写真を公開

どんな事業を始めたらいいのか、自分はどんな事業家になるのか、これから人々が大切にしていくものは何だろうか――。トタン屋根のオフィスの2階のひと部屋で、悶々と1年半、自問自答を繰り返したと当時を振り返ります。

「この踏切を毎日、通っていました。踏切の向こうに雑餉隈駅があるんです。さらに向こうには博多駅があり、さらに向こうには東京駅があった。踏切の向こうに、夢があったわけです」

初めて雇った2人の社員に「いつか必ず、売上や利益を1兆、2兆と豆腐屋のように数えられる会社にしてみせる」と熱く語ると、2人とも辞めてしまった、というエピソードも披露。ここで今期の決算発表となりました。

当期純利益は4.99兆円になった、と孫氏。「やっと売上も利益も、1兆、2兆と数えられる規模になりました。しかし1年前には史上最大の赤字もあったし、これから先も、株式相場の上下に影響されるでしょう。ソフトバンクグループでは1兆、2兆の程度では驚かないほうがいい、という状況だろうと思います」と話します。

  • 当期純利益は4.99兆円に

同時に、一部の投資家による見立てにも理解を示しました。「スプリントの一時益が含まれている」こと、「世界的な株高」「大型の新規上場」が影響したことなど、「たまたまがいくつも重なり、一時的な利益が膨れ上がった」(孫氏)という見方です。

  • 投資家の評価

「投資に失敗したこと」「投資機会を見逃したこと」「まだ組織に仕組みが欠如していること」も、ソフトバンクグループの反省点だと指摘。そのうえで「相場の上下で一喜一憂せず、今後も継続して新しいビジネスモデル、AI革命で産業を再定義していくユニコーン企業に投資していきます」と改めて誓いました。

  • 金の卵(ユニコーン企業)を生み出す製造業として、グループ内に「発掘と分析」「組織の充実」「資金調達の仕組み」を確立し、継続的に利益を上げていく

  • NAV(時価純資産)は前年比4.4兆円増の26.1兆円に

  • NAV(時価純資産)の内訳。今後はSVF(ソフトバンク・ビジョン・ファンド事業)の割合が拡大していくと説明

  • ビジョンファンド事業の投資損益(四半期)

  • ビジョンファンド事業の投資損益(12カ月の累計)

1時間のプレゼンにおいて、前半で財務の数字を示し、後半で海外のユニコーン企業について紹介した孫氏。最後に「本日は色いろな数字を取り上げましたが、何よりもイチバン大切なのは、あの写真にあると思うんです」と冒頭に回帰しました。

  • ソフトバンク創業からの40年を1枚の写真で表現

「あの踏切の向こうにある大きな夢、それを必ず掴むんだという思いが(あのとき胸の高まりとシンクロした)踏切のカンカンという音とともに、今もボクのなかに残っている。この興奮が止まらない限り、まだこの物語は続きます。まだ満足していない。5兆円、6兆円で満足するような男じゃない。10兆円でも全然、満足しないということであります」

まだAI革命は始まったばかり。『情報革命で人々を幸せにする』という創業以来の志で、これから毎年のように上場企業を生み出していく、と力強い言葉で締めくくりました。

アリババ株はどうする?

決算内容を発表したあとは、メディアの質問に孫氏が回答していきました。SVF 2について外部投資家から資金を集める予定は、と聞かれると「当面、自分たちの手元の資金だけで回転できる状況です」と回答します。

中国のIT企業に対して規制が強くなってきたことに関しては「個人情報の漏洩、独禁法違反、プライバシーの侵害などの問題が起きないよう、どの国においても規制は必要だと思います。ルールのなかで、AIの技術革新も進んでいく。規制により投資先の方針が変わることはありません」と孫氏。アリババ株の保有方針については「いろんな報道がありましたけれど、たくさんの人に必要とされるサービスを、真面目に一生懸命に取り組んでいる。だから業績も伸び続けている。アリババ株の保有方針も、基本的に変わりません」と答えました。

ビットコインに投資する考えを聞かれると「ビットコインが良いのか、悪いのか、という議論はずっと行われてきました。どれだけの価値があるのか、バブルなのか。私もよくわからない。それを欲しいと思う方、投資している方もたくさんおられる。そうした方々に対して提供されるプラットフォームも、無視できないくらいの数になりました。ダイヤモンドや金を買うのと同じように、株や債権を買うのと同じように、暗号資産を買う人が増えています。それを否定する必要もありませんし、社内でも常に議論している状況です」と見解を示します。

日本社会のデジタル化が遅れていることについてコメントを求められると「AI分野において、いま世界には1,000社くらいのユニコーン企業がありますが、そのなかに日本の企業は3社くらいしかありません。日本はAI革命から決定的な遅れをとっている、というのが現実です。デジタルトランスフォーメーションの後には、AIトランスフォーメーションが来る。世界の最先端はAI革命で競争し合っている。デジタル化は当たり前の話なのに、日本はそもそものスタートラインにも立てていない状況。いまだにFAXで何かの結果を伝えるとか、……何を考えているのか。恥ずかしくて、もう話にならない」と現状を嘆きます。

そのうえで、「AIのユニコーン軍団のせめて10%くらい、日本には100社くらいないとおかしい。そういう意味では、現状を憂いています。一方で私は政治家でもなく、意思決定できる立場にもない。だから我々はとにかく、イチ民間企業として事例を示したい。徹底的な成功事例を示して、日本にも機運が高まることを祈っています。AIのユニコーン軍団が育つようにするためには、どうしたら良いか。日々、思いをめぐらしているところです。若干、アイデアはあるんですが、まだ時期尚早なので、このあたりにしておきますが」と意欲を示しました。

国内企業の最高益でも改善を

国内企業で最高益を稼ぎ出したことの受け止めについて聞かれると「たまたま、が重なった程度なので、あまり胸を張って言える状況ではありません。ただ、1回達成したものを、1回きりで終わることにはしたくない。それを上回っていけるような実力をつけられるよう、がんばっていきます。多くの反省点がある。反省点が見えている以上は、改善できると思っています。いずれ多くの方々に『そろそろ、たまたまって言うのやめようか』と思ってもらえるレベルになりたい。なってみせる、という気概はあります」と意気込みを語ります。

NTTと総務省の会食問題についてコメントを求められると「会食なんてことは、当然いけないことだと思います。監督官庁の方々と癒着のようなことは。ただ、もっと大きな問題は、年間数千万円もの報酬を払って、天下りを監督官庁から受け入れること。これはもっと、人々から責められるべき人的癒着であり、人的賄賂だと思うんです。わたしは少なくとも自分たちの業界の監督官庁から天下りを得ることは、絶対にしない、ということを内部にも外部にも公言しています」と意思を示します。

そのうえで「5万円、10万円の会食を何度かやった、ということより、もっと大きく問題にすべきなのは、秘書付き、お迎え自動車付き、なんとかクラブの会員権付きで、数千万円もの報酬で副社長なんて形で、2~3年のワンクッションを経て、監督官庁から継続的に天下りを受け入れていく会社。それを卒業のコースみたいな形で送り出す監督官庁。一体、どういう癒着なんでしょうか。なんで皆さん、これを問題視しないのか。特定の1社、2社だけじゃない。金融界にもありますし、通信界にも、教育界にも。日本の構造的な癒着問題です」と遺憾の意を表明しました。

「言いたいこと、怒り狂うことは、いっぱいあります。でも今日は決算説明会ですからね。あまり、そういう発言は、ほどほどにしておかないと……。ボクがひとこと何か言うと、うちのソフトバンク株式会社の社員とか、幹部がみんな迷惑する。『孫さん、あまり刺激することは言わないでください』と、いつも口止めされている。だから、いつも我慢しているんです。でも日本の国のためには、ときには爆発しないといけないのでは、という思いがあります」