ソフトバンクは5月11日、2021年3月期決算を発表しました。それによれば、今期も増収増益を達成しています。社長に就任して初めての決算説明会に臨んだ宮川潤一氏は「世界の人々から最も必要とされる会社にしていきます」と決意を語りました。

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    決算説明会に登壇したソフトバンク 代表取締役 社長執行役員 兼 CEOの宮川潤一氏

宮川社長のビジョン

2021年4月にソフトバンク代表取締役社長に就任したばかりの宮川氏。プレゼンの冒頭でこれまでの経緯、そして今後のビジョンについて説明しました。

いまから30年前、26歳のときに会社を起業し、その10年後にM&Aで吸収合併される形でソフトバンクの一員になった同氏。以来、ソフトバンクグループ代表の孫正義氏、ソフトバンク前社長の宮内謙氏らとともに「さまざまな局面、修羅場を乗り越えてきた」と振り返ります。

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    技術者として20年間、ソフトバンクを支えてきた宮川社長

デジタル化が急加速し、経営にこれまで以上のスピード感が求められる昨今です。こうした情勢を踏まえて「予測不可能な困難をしなやかに受け止め、それを反発力に変えて、以前より大きく成長させる『レジリエントな経営』を目指していきます」と宮川社長。柔軟性のある経営によって「世界の人々から最も必要とされる会社にしていく」「孫さん、宮内さんの時代とはまた違ったやり方で、宮川流の企業体をつくっていきたい」と意気込みました。

純利益5,000億円企業へ

2020年度の連結業績は、売上が5兆2,055億円(前年同期比7%増)、営業利益は9,708億円(同6%増)、純利益は4,913億円(同4%増)でした。

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    売上高について。全セグメントで増収している

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    2020年度の連結業績まとめ

これを受けて、2021年度の連結業績を、売上が5.5兆円(同6%増)、営業利益は9,750億円(同0.4%増)、純利益は5,000億円(同2%増)と予想。「プライドをかけて増収増益を続けていきます」と宮川社長は意気込みます。

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    2021年度の連結業績予想

気になるのが来年度予想の営業利益の減少要因について。「携帯電話の料金値下げの影響」と「LINE統合に伴う無形資産の償却など」により1,000億円もの減収を見込んでいます。宮川社長は次のように解説しました。

「料金の値下げで年間700億円くらいのインパクトがあるんです。またLINE統合に伴う償却で300億円くらい。この2つを合わせると1,000億円以上も営業利益が減少するかもしれません。あらかじめ悪いシナリオで見積もっていますが、さらに悪くなる可能性もある。ただ、それを取り返すくらいに増収の見込みもあり、打ち消しできるのでは、と考えています」

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    営業利益の減少要因

事業戦略を説明

中長期ビジョンBeyond Carrier戦略 第2フェーズとして、事業戦略を説明しました。モバイル事業ではエンタメ、ショッピング、金融・決済、SNSといったグループのアセットを活用して、2023年度にはスマートフォンの累計契約者数を3,000万に到達させる見込みです(2020年度現在は2,593万契約)。

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    グループのアセットによりソフトバンクユーザーのメリットを追求していく

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    2023年度にはスマートフォンの累計契約者数を3,000万へ

eコマースの分野では現在、国内3位にとどまっています。これをLINEとの協業、PayPayとの連携強化、ソフトバンクの顧客基盤活用などにより2020年代前半で国内No.1に押し上げると宣言。「コマースの物販領域ではグループ連合体で挑戦し続けます。そのための努力を惜しみません」と語ります。

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    ヤフー事業を国内No.1に

2021年3月よりソフトバンクのグループに入ったLINEの資本は、韓国のNAVERと50%ずつ。宮川社長は「NAVERは韓国最大級のテクノロジープラットフォーム。検索シェアは韓国No.1で、ヤフーでもGoogleでもない検索環境を実現しています。登録ユーザーは5,400万人で、アクティブユーザー数も3,000万人。圧倒的な顧客基盤を有しています」と紹介します。

さらに、ショッピングにおもしろい切り口があり、自動運転、ロボットの領域でも世界で戦える技術があると説明したうえで、今後はNAVERと組んで東南アジアなどにサービスを展開していくと明らかにしました。

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    韓国のNAVERと組んで東南アジアなどに展開していく

5Gネットワークについては、早期に人口カバー率90%を達成していくと説明。今後のロードマップを示しました。

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    ソフトバンクの5G展開

ソフトバンクの事業戦略について宮川社長は「今後10年で成長(収益拡大)と価値創造(新事業)にこだわっていく」と話しています。

PayPay収益化の見通しは

続いて、メディアからの質問に宮川社長が対応しました。新規事業として拡大していく分野について聞かれると「まずはPayPay周り。いまイチバン立ち上げやすい環境です。銀行系、証券系を含め、いま持っているアセットを加速させるべく展開していきます。あとは日本国内である程度の形ができたビジネスモデルを、LINEが展開しているアジアのエリアに輸出していけたら。現地のキャリアとのジョイントベンチャーだとか、販売力のある会社をチョイスして、LINEの知見を含めて一緒に展開していけたら良いなと思っています」と宮川社長。ちなみに中長期戦略では、これまで宮川社長が関わってきた自動運転などの分野にも注力したい考えを示しています。

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    国内におけるPayPayの決済取扱高(GMV)は3.2兆円に到達した

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    PayPayを中心に金融エコシステムの構築を目指していく

なお、PayPayの収益化の時期について聞かれると「狙っていますが、まだお話しできるタイミングではありません。加盟店からチャージする(手数料を徴収する)ことを考えています。将来的にはPayPayにも独立して欲しい。自立のためには収益が必要なので、そう遠くない世界で、収益化が起こりうるということです」と示しました。

自身が購入した株やLINEMOについて

2021年春、会社から200億円を借り入れてソフトバンクの株式を取得したという宮川社長。「だから正直なところ、株価が下落すると懐が痛みます」と苦笑いをしながら、その経緯について、次のように説明しました。

「平均株価は1,435円だったと思います。4月2日から購入し始めて、4月23日までに終えました。1,400万株近くを購入しました。でも購入してからずっとマイナスが続いていて、昨日、はじめてプラスになったんです。今日の株価でトントンくらい。短期的な視点から見れば『いらんことやっちゃったな』となりますね。でもボクはこれから10年間、社長を続ける覚悟で社長職をお受けしました。この企業を伸ばせると思ったので。10年というモノサシから言えば、多少の凸凹はあると思いますが、個人的に200億円のリスクは、あまり感じていません」

3月からスタートさせたオンライン専用のブランドLINEMOが収益に及ぼす影響について聞かれると「ソフトバンク、ワイモバイルからLINEMOに移動するお客さまが出ています。これは収益悪化の原因になりますが、いまのところ、その数はあらかじめ想定していた範囲内です」と回答します。

また、NTTによる総務省への接待問題の受け止めについて聞かれると「いま第三者委員会で検証していただいています。その見解を聞いたうえで、もう一度、議論をさせていただく」と述べたうえで、「ただ、現時点ではあまり踏み込んだ発言はできない」と苦笑いもしていました。

さらに、楽天モバイルに損害賠償1,000億円を求めた提訴の件で、請求額の内訳を聞かれると「我々なりの、最大値の金額を計算して裁判所に提出しました。内訳として、基地局建設の前倒しの効果、新規契約者の獲得がどうだったか、契約者の解約率が低下しているんじゃないか、KDDIさんローミングのコスト削減、そうしたものを計算した資料を、裁判所に提出しています。最大値で1,000億円くらいになる。これが正しいか、正しくないかは、また裁判所のなかで議論をしていくことだと思っています」と話しました。