中判デジタルカメラの特徴をひとことで言い表せば、やはり“写りのスゴさ”といってよいでしょう。圧倒的な解像感と立体感、そして広い階調再現性など、フルサイズ以下のデジタルカメラを凌駕し、その写りを一度でも知ってしまったらもう後には引けなくなるほどです。

中判デジタルの多くが採用するのが“ヨンヨンサンサン”と俗にいわれる44×33mmのイメージセンサー。36×24mmとするフルサイズよりも一回り大きく、単純計算となりますが、面積比はおよそ1.68倍となります。一般に、デジタルデバイスは進化する過程で小型化していく傾向がありますが、イメージセンサーに限っていえば大きいほうが画質面では絶対的に有利であり、これは今後も変わらないものでしょう。今回ピックアップする富士フイルムの「GFX100S」は、有効1億200万画素の“ヨンヨンサンサン”(イメージセンサーの実寸は43.8×32.9mm)を搭載する中判ミラーレスです。

  • 中判デジタルとしては比較的コンパクトなボディに1億画素のイメージセンサーを搭載する富士フイルムの「GFX100S」。手ブレ補正機構を内蔵していることも、このカメラの強みです。実売価格は769,000円。写真は「GF80mm F1.7 R WR」を装着したところ

中判&1億画素でもコンパクトなボディ

まず特徴的なのが、そのボディサイズ。1億画素というと、中判ミラーレスとしては大型のボディを採用した元祖「GFX100」のイメージを連想してしまいますが、GFX100Sは“下”(縦位置グリップ)がない分、GFX100よりもはるかに軽量コンパクトに仕上がっています。5000万画素機である「GFX50S」と比べても、わずかですが軽量です。これまで、1億画素の解像度は魅力的でも、GFX100の重さや大きさが気になっていた写真愛好家に特に強く訴求できると感じます。

寸法は150×104.2×87.2mm(幅×高さ×奥行き)、質量900g(バッテリー、メモリーカード含む)となります。持った感じもさほど重いとは感じられません。おそらく、グリップの形状が手になじみやすい造形であることや、凝縮感のあるボディの造りなども影響しているものと思われます。

  • 俗に“ヨンヨンサンサン”と呼ばれる44×33mm(実寸は43.8×32.9mm)のベイヤーCMOSセンサーを搭載。上位モデル「GFX100」と同じもので、有効画素数1億200万画素のローパスフィルターレスとなります。写真では、マウントの大きさもよく分かります

  • 背面には十字キー(十字ボタン)がなく、さらにチルト式の液晶モニターのため、背面左側にヒンジもなくすっきりとした印象。アイカップは大きく、アイピースを覗いたとき周りから入る光をしっかりとカットしてくれます。ボタン類は、薄い手袋なら問題なく押すことが可能でした

操作感としては、トップカバーのメカニカルダイヤルは撮影モードダイヤルのみとするなど、GFX100に近いものがあります。GFX100以前に発売されたGFX50Sや「GFX50R」はメカニカルダイヤルを多用していますが、今後GFXシリーズはクラスにかかわらずボタン操作とフロントおよびリアのコマンドダイヤルによる操作が撮影でも中心になるものと思われます。

トップカバーには1.8型のサブ液晶パネルを備えており、カメラの設定状態がひと目で把握できるのは便利に思えます。その表示はカメラの電源を切っても維持されるので、メカニカルダイヤルのようにいつでも設定状態を把握できます。

  • 撮影モードの選択はメカニカルダイヤルで行います。直感的かつ素早く設定が可能です。ダイヤルの前方に備わるのが、スチールとムービーの切替スイッチ。「X-T4」でも採用されていたものです。メニュー表示など、選択したモードのものに切り替わります

  • トップカバーのサブ液晶モニターは、1.8型のモノクロメモリータイプ。シャッター速度や絞り値、ISO感度のほか、記録フォーマットやフィルムシミュレーションなど、撮影で必要な情報を表示します。通常は地が黒く文字が白いですが、ライトボタンを押すと地が白く文字が黒く表示されます

カメラ背面の十字キー(十字ボタン)がないのは富士フイルムのカメラらしいところです。メニューの設定や再生画像の送りなどはフォーカスレバーで行うのですが、私の経験上、初見でもすぐに慣れることでしょう。しかも嬉しいのは、フォーカスレバーの指に当たる部分の面積が大きくなっていること。Xシリーズなどは小さく、長時間操作していると右手親指のフォーカスレバーの当たる部分が次第に痛くなることが多かったので、たいへん助かります。フロントおよびリアのコマンドダイヤルもXシリーズなどとくらべ節度ある操作性となっており、こちらも使いやすく感じました。

ほかのGFXシリーズと同様に、フォーカスモード切替レバーを装備しているのは安心できる部分です。本機と同時に発表されたXシリーズ「X-E4」や、ちょっと前に販売を開始した「X-S10」ではフォーカスモード切替レバーが廃止され、個人的にはちょっとガッカリしましたので、本モデルへの搭載はとても安堵しています。

  • フォーカスレバーの指の当たる面が大きくなり、確実な操作が可能になるとともに、長時間指を当てていても痛くなることがなくなりました。Xシリーズも含め、今後はこのような形状にしてほしいと思えます

  • Fn(ファンクション)ボタンがこの位置にも置かれています。グリップを握る指を大きく動かさなくて済みますので、日常的によく使う機能を割り当てておくのがよいでしょう

  • 一部のXシリーズでは廃止されたフォーカスモード切替レバーもしっかりと搭載。直感的に切り替えられるので、手間も時間もかかりません。被写体の動きが急に変化したときなど、このレバーの存在は頼もしい味方となってくれるはずです

  • インターフェースは、上よりマイク用ステレオミニジャック、ヘッドフォン用ステレオミニジャック、USB(Type-C)、HDMIマイクロ端子(Type D)、シンクロターミナルとなります。写真にはないですが、グリップ側にはリモートレリーズ端子も備えています

  • メモリーカードスロットはSD/SDHC/SDXCのダブル。フルサイズのカメラなどではCFexpressとSD/SDHC/SDXCのダブルスロットのように、片方に新規格のメモリーカードを採用するものもありますが、従来から所有するメモリーカードのみで済むのはありがたく感じます

  • バッテリーはX-T4と同じ「NP-W235」を使用。カタログによる撮影可能枚数は460枚(オートパワーセーブON時)としています。1億画素の中判ミラーレスでこの撮影可能枚数は、風景やスナップなどの撮影では不足を感じるようなことは少ないでしょう

  • リアコマンドダイヤルは大型で、節度ある操作ができるように感じます。APS-CモデルのXシリーズではダイヤルが小さいうえ、操作ではプッシュ機能も作動してしまう節度のないものですが、本機ではそのようなことはありませんでした。もっとも、プッシュ機能は不要のように思えます

EVFは369万ドットの0.5型有機ELを搭載しています。表示は高精細で、実際の画像に対し階調など忠実に再現します。ただ、同じ0.5型ながら、より高解像度となる576万ドットのEVFを搭載するミラーレスもいくつか登場してきているので、次期モデルではぜひこのスペックを持つEVFを採用してほしいところ。液晶モニターは3.2型の236万ドットで、こちらはスペック的には不足のないものといえます。さらに、富士フイルム独自のチルト式としており、上方向90度、下方向45度のほか、右方向に60度動かせます。縦位置にカメラを構えたときのローアングルおよびハイアングル撮影では重宝するでしょう。何より、バリアングルタイプの液晶モニターと異なり、光軸から大きく画面が外れてしまうことがないので、アングルの決定はとてもしやすく感じられます。

  • 液晶モニターはチルトタイプ。バリアングルタイプの液晶モニターと異なり、画面が光軸から大きく外れないので、特に静止画撮影では使いやすく感じます

  • 上方向90度、下方向45度に加え、右方向60度の範囲で可動できます

手ブレ補正機構も内蔵し、スキのない仕上がり

核心となるキーデバイスは、前述のとおり43.8×32.9mmでベイヤータイプの1億200万画素CMOSセンサーとなります。ローパスフィルターレスとしており、よりキレのよい画像を生成します。1億画素というと、以前はハッセルブラッドの十八番(おはこ)で、イメージセンサーを微細に動かしてその都度シャッターを切り、最後に合成を行うマルチショットタイプというちょっと面倒な方法で実現している時代もありました。輸入高級車が買えてしまうほど高価なカメラでしたので、本機を見るたびに時代の流れ、デジタルデバイスの進化を強く意識させられます。画像処理エンジンはXシリーズでも採用されている「X-Processor 4」で、画像処理の速さなど不足を感じさせません。連写は秒5コマを実現しており、1億画素でもこれまでと変わらない感覚で撮影が可能と述べてよいでしょう。

  • ベース感度はISO100、実効での最高感度はISO12800となります。拡張での最低感度はISO50相当のL50、最高感度はISO102400相当のH(102400)となります

キーデバイスのもうひとつの注目が、センサーシフト方式の手ブレ補正機構を備えていること。富士フイルムの中判ミラーレスとしてはGFX100に続くもので、補正段数は最高6段となります。GFX100Sの搭載にあたり、手ブレ補正機構のユニットはGFX100のものにくらべひとまわりコンパクトで、ボディの小型化に貢献しているといわれています。GFX用のGFレンズは手ブレ補正機構を内蔵するものが少なく、カメラやレンズの重さを考えると搭載はある意味マストと考えてよいものでしょう。特に、その高い解像度からわずかなブレも写りに影響してしまうので、保険としての役割もあるように思えます。作例撮影では、ほとんど手持ちで撮影しましたが、どのカットも手ブレの発生は見受けられず、1億画素の解像度をしっかり活かせました。

仕上がり設定であるフィルムシミュレーションは、新たに「ノスタルジックネガ」が搭載されました。メーカーの説明によると、1970年代を中心に流行した「アメリカンニューカラー」を意識したシミュレーションとのことです。ややアンバーがかった色調に、軟らかなハイライト部とディテールの残るシャドー部が特徴で、代表する写真家としてはスティーブン(ステファン)・ショア、ウィリアム・エグルストンなどが挙げられます。ご興味ある方は、一度彼らの写真集に目を通すと、このシミュレーションの理解が深まるかと思います。

  • 新たにフィルムシミュレーションに搭載した「ノスタルジックネガ」。アンバー気味の色調に、ソフトなハイライト部の表現とディテールの残るシャドー部の表現が特徴のシミュレーションで、70年代に流行したアメリカン二ューカラーを意識した絵づくりを模しています

  • 人の肌を滑らかに再現する「スムーススキン・エフェクト」を搭載。「強」と「弱」から効果が得られます。ポートレート撮影では効果を発揮する機能といえます。筆者の想像となりますが、写真館での使用を考慮した機能であるように思えます

他のシミュレーション、特に使用頻度の高いデフォルトの「PROVIA/スタンダード」をはじめ「Velvia/ビビッド」や「ASTIA/ソフト」などは、Xシリーズと同様につややかで豊かな階調再現性を誇り、JPEGでも満足できる仕上がりが得られるのはこれまで通りです。RAWの場合、カメラの生成するJPEG画像と同じ仕上がりが必要なときは、カメラとパソコンをUSBケーブルでつなぎ、カメラ側の画像処理エンジンで現像を行うソフト「FUJIFILM RAW STUDIO」を使用するとよいでしょう。カメラのフィルムシミュレーションの絵づくりがそのまま反映でき、さらに現像時間もパソコンだけでの現像にくらべて非常に短く、作業の効率化が図れます。本機だけでなく、他のGFXシリーズおよびXシリーズのユーザーはぜひ活用してほしい現像ソフトといえます。

中判ながらAF性能はフルサイズやAPS-C機と遜色なし

AFスピードは他のGFXシリーズと同様に、フルサイズモデルやAPS-Cモデルと遜色ないものです。中判デジタル用のレンズは光学系が大きいため、AFスピードは一見長閑なイメージがありますが、そのようなことは微塵も感じさせず、フォーカスエリアと重なった被写体に速やかにピントを合わせられます。AF-C(コンテニュアスAF)での被写体追従性も、APS-CフォーマットのXシリーズに準じるものです。さすがにこのカメラでスポーツを撮ろうと思うユーザーは少ないかもしれませんが、ジョギング程度の動きの人物や走っている鉄道のような被写体の撮影では、ストレスを感じることはないでしょう。瞳AFも備わっており、ポートレート撮影でも活躍すること請け合いです。

ちなみに、GFX100SをはじめとするGFXシリーズが一眼レフでなくミラーレスを採用した理由のひとつがAFの精度です。フルサイズやAPS-Cなどでもいえることですが、一眼レフのようにミラーを介してAFセンサーに入った光でAFを行うよりも、イメージセンサー自体にAFセンサーの機能を割り当てたほうが精度の高さでは敵いませんし、画面の広い範囲でAFが可能となるからです。富士フイルムの担当者と以前話をしたことがあるのですが、中判デジタルに参入した理由のひとつが、ミラーレスの技術が確立していたことが大きかったそうです。

中判デジタルの凄さや魅力を、コンパクトなボディに余すことなく詰め込んだGFX100S。とても完成度の高いカメラに仕上がっていると感じます。操作感は、メカニカルダイヤル好きの私も納得できるインターフェースで、形状の変わったフォーカスレバーも含め、撮影がとても快適に感じられました。フィルムシミュレーションによる絵づくりのよさは、他のメーカーのカメラに対するアドバンテージであり、それが1億画素の写真として楽しめるのは凄いことと言えます。

めでたくユーザーとなったあとに直面する問題といえば、画像を保存するためのストレージ。いくら買っても、あっという間にGFX100Sで撮影した画像でいっぱいになってしまうハズです。

  • 先幕を電子シャッターとすることで、露光時のカメラの挙動を抑え、ブレのない(少ない)画像の得られる電子先幕シャッターがデフォルトの設定となります。電子先幕シャッターおよびメカニカルシャッターでの最高速は1/4000秒、電子シャッターでは1/16000秒となります

  • 手ブレ補正機構は常に機能させておくことも、シャッターボタンの半押し時と露光中のみ機能させることもできます。一見、「撮影時」が省エネ効果はありそうに思えますが、手ブレ補正機構の消費電力はわずかであるため、大きくは影響しないとのことです