日本マイクロソフトは以前から、障がい者の方でもゲームを楽しめるゲームコントローラー「Xbox Adaptive Controller」を提供してきた。グローバルでは2018年、国内では2020年1月から販売を開始し、障がい者のゲーム体験に大きく寄与している。

同社はアクセシビリティー(アクセスの容易さ)を「アクセスできることで、本人の希望を達成する」(日本マイクロソフト 技術統括室 アクセシビリティー担当 大島友子氏)ことだと定義付け、Windows 10における「簡単操作」など、多くの自社製品に包括性を盛り込んだインクルーシブデザインを重視してきた。

  • 障がい者の方でもゲームを楽しめる「Xbox Adaptive Controller」

日本マイクロソフトが2021年4月21日に開催した記者説明会では、Xbox Adaptive Controllerの開発やデザインに携わった米国本社のスタッフが登壇。「ゲームは万人のためにあるが、従来のコントローラーには(障がい者に対する)壁があり、Xbox Adaptive Controllerはこの障壁を取り除くため、2015年から開発に着手した」(Microsoft User Experience Researcher, Bryce Johnson氏)と開発の背景を説明する。Xbox Adaptive Controllerは、2021年4月21日時点で日本を含めた33カ国・地域の市場で展開している。

デザインを担当したスタッフも「新デバイス開発時はチーム全員がインクルーシブデザインと設計プロセスを活用している。カスタマイズで多様な需要に応えられるようデザインし、我々は梱包や開封体験にもアクセシビリティーを求めた。当然ながらデザインで重要なのは『Xboxらしさ』を出すということ。多くのデバイス(コントローラー)には不要な機能(ボタンなど)があり、医療製品のように一見『使う必要がある』ように見えても不要な場合が多い。誇らしいのはゲーム業界のハードウェアにおけるインシクルーシブデザインの実例になったこと」(Microsoft Principal Designer, Chris Kujawski氏)と語った。

  • 梱包や開封の容易性も配慮したとMicrosoftは説明する

今回の会見で注目すべきトピックは、Xbox Adaptive Controllerの活用事例である。骨格筋の壊死などを引き起こす遺伝性筋疾患、筋ジストロフィーの患者さんを預かる北海道医療センターでは、障がい者がXbox Adaptive Controllerを用いてXboxのゲームを楽しんでいるという。

同センターの作業療法士は「筋力が衰えていく方が集団スポーツを楽しむことは難しいが、ゲームであれば協力プレイも可能。『ゲームで救われた』という患者さんも少なくない。ただ、症状が進行して筋力が低下するとあきらめてしまう患者さんもいて、これまではコントローラーの配線を半田ゴテで改造したりしていた」(北海道医療センター 神経筋/成育センター 作業療法士 田中栄一氏))と話す。そんな折、Xbox Adaptive Controllerの登場で状況が大きく変化したと説明。北海道医療センターでは、障がい者でもゲームを楽しむ「ゲームやろうぜProject」を推進している。

  • 左から時計回りに、Microsoft Principal Designer, Chris Kujawski氏、Microsoft User Experience Researcher, Bryce Johnson氏、吉成健太朗氏、日本マイクロソフト 技術統括室 アクセシビリティ担当 大島友子氏、北海道医療センター 神経筋/成育センター 作業療法士 田中栄一氏

障がい者であり、Xbox Adaptive Controllerの活用動画の制作に携わった吉成健太朗氏は、「中・高校生までは通常のデバイスでゲームを楽しんできたが、歳を重ねることで病状が進行し、20歳を超えたころには遊べなくなった。コントローラーの改造も万人向けではなく、Xbox Adaptive Controllerの発表を目にして、難しい工夫をしなくても、病状を抱えている方でも(ゲームを)楽しめると。手ごろな価格で入手できるのは衝撃的でうれしいニュースだった」と語った。

Xbox Adaptive Controller【導入・概要編】

吉成氏はまた、「誰かと競い合い、協力し合えるゲームは楽しい。障がいを持つ方は病院から外出できないが、ゲームを通じて多くの人とつながり、会話やゲームを楽しめした。Xbox Adaptive Controllerを使うことで、誰しもがアクセスしやすい世界が実現し、『自分もできるんだ』と思ってもらいたい。ゲームの世界に入ってくれれば、僕らともつながれる。そのつながりを増やしていきたい」と可能性に期待を寄せる。吉田氏が好きなゲームは「Xboxなら『ぷよぷよ』系のパズルゲーム」とのことだ。ちなみに吉田氏は、Windows 10のアクセシビリティー機能を利用し、仮想キーボードとマウス操作で動画編集も行っている。

Xbox Adaptive Controller【設定・活用編】

日本マイクロソフトは日本支援技術協会の協力を得て、Xbox Adaptive Controllerの体験とフィッティングを行う「Xbox Adaptive Controller体験会」の開催を予定しているが、現在はコロナ禍で開催日程は未定。改めて案内が行われる予定だ。また、一時期にXbox Adaptive Controllerが在庫不足になった背景から、「転売やコレクション目的の購入は控えてほしい」(大島氏)と、Xbox Adaptive Controllerを必要とする障がい者の手に届く配慮を求めた。コロナ禍で多くの活動に我慢を求められている状況を踏まえると、障がい者の方々は健常者が気付かない多くの忍耐を強いられることに改めて気付かされる。Microsoftは視覚障がい者を支援する「Seeing AI」など支援ツールを数多く手がけてきたが、その活動が幅広く拡大することを期待したい。