大昔にWebブラウザでチェックした製品の広告が、どこまで行っても表示されてうんざりしたことはないだろうか。広告業界はユーザーが興味を持っているものに強い関心を持っている。これを追求するには、ユーザーをトラッキングする必要があり、実際インターネット上では常にそれが行われている。こうした広告業界によるユーザー行動の過剰トラッキングに対し、プライバシーに重大な懸念が生じていると感じるユーザーや団体は多い。主要Webブラウザの多くはこうした状況を受けて、トラッキング防止技術の開発に精を出している。サードパーティのCookieの禁止などはその最たる例のひとつだ。
しかしこうした動きに対し、Google Chromeの反応は鈍かった。Googleのビジネスモデルから見ると、ユーザートラッキングを禁止することは分が悪いからだろう。こうした状況を受けてGoogleが取った戦略は、これまでのユーザートラッキングに代わる技術を開発するというもので、2019年の段階では「Privacy Sandbox」という名称で取り組みを開始している(「Google「Cookie制限は逆に危険」、「Privacy Sandbox」で描くプライバシーとは?」)。 、 そしてそのGoogleの最新の取り組みがFLoC (Federated Learning of Cohorts)となる。既に開発者やアドバンスドユーザー向けの試験が始まっており、日本も試験地域に入っている。Googleはこの技術をユーザーにも広告業界にもメリットのあるものにするため取り組んでいるが、今のところどちらの業界からも批判を浴びている。
Chromiumベースで開発されているWebブラウザ「Brave」のCEOおよび研究者は4月12日(米国時間)、「Why Brave Disables FLoC | Brave Browser」においてGoogleのFLoCを批判した。この技術はプライバシに配慮していることを装いつつ、実際にはユーザーのプライバシを著しく損なうものと指摘している。Braveは基盤技術としてChromiumを使っているが、FLoCの機能は使わないと説明している。
同様の批判は、同じくChromiumをベースに開発されているWebブラウザ「Vivaldi」を提供するVivaldiのCEOであるJon von Tetzchner氏も「No, Google! Vivaldi users will not get FloC’ed. | Vivaldi Browser」において展開している。こちらも批判の内容はさらに痛烈で、FLoCはユーザーのプライバシを侵害する危険なステップと指摘している。Braveと同様に、VivaldiもFLoCは使わないと明言している。
広告業界もGoogleのこうした動きに納得しない向きがある。各国当局もGoogleのこの取り組みが妥当なものか過剰なものかを評価する段階に入っているようだ。
GoogleのPrivacy SandboxやFLoCの問題のひとつは、一般ユーザーがこの技術の良し悪しを判断することが難しい点にある。技術的な複雑さに加え、こうした取り組みがもたらすメリットやデメリット、プライバシーに関する心配が本当なのか過剰なのか、多くの場合判断することができない。
GoogleのFLoCに関しては、今後各国当局が規制や禁止を課すべきか、それともしばらく動向を見る程度にとどめるのか、何らかの動きがあると見られる。こうした公的機関の判断はユーザーが判断する際の材料となる。PC、スマートフォン、タブレットデバイスのすべての領域において高いシェアを持つGoogle Chromeだが、Webブラウザの選択肢はある。FLoCを巡る議論がWebブラウザのシェアにどの程度影響を与えるか、今後の動向が注目される。