東京工業大学(東工大)、神奈川県立産業技術総合研究所(KISTEC)、九州大学(九大)、名古屋工業大学(名工大)の4者は3月26日、ペロブスカイト型酸化物鉄酸鉛「PbFeO3」が「Pb2+0.5Pb4+0.5Fe3+O3」という特異な電荷分布を持つことを明らかにしたと共同で発表した。

同成果は、東工大 科学技術創成研究院のヘナ・ダス特任准教授、同・酒井雄樹特定助教(KISTEC常勤研究員兼任)同・東正樹教授、同・西久保匠研究員、同・若崎翔吾大学院生、九大大学院 総合理工学研究院の北條元准教授、名工大大学院 工学研究科の壬生攻教授を中心に、中国科学院 物理研究所、スイス・ポールシェラー研究所、独・マックスプランク研究所、台湾国立放射光科学研究センター、仏・放射光施設ESRF、米・オークリッジ国立研究所、中国・松山材料実験室の研究者も参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。

ペロブスカイト型酸化物(ペロブスカイト型の結晶構造を有した金属酸化物)は、強誘電性、圧電性、超伝導性、巨大磁気抵抗効果、イオン伝導など、多様な機能を有することから、近年、研究が活発化している。

こうしたさまざまな機能は「3d遷移金属」(原子番号21番のスカンジウムから29番の銅までの9種類の金属)が担っていることがわかっている。3d遷移金属は複数の価数のイオンになることができ、磁性や電気伝導などの機能をもたらす特徴を持ち、その価数やスピン状態によって機能が変化するという特徴を持つ。

それに対し、鉛(Pb)やビスマス(Bi)は典型元素でありながら、Pb2+とPb4+、Bi3+とBi5+という電荷の自由度を持っており、3d遷移金属と組み合わせると、周期表の順番に従って系統的な価数の変化を示す。

東工大の東教授らはこれまで、ペロブスカイト型酸化物の一種である「PbCrO3」がPb2+0.5Pb4+0.5Cr3+O3の特徴的な電荷分布を持つことなど、Bi3+0.5Bi5+0.5Ni2+O3の電荷分布を持つペロブスカイト型酸化物「BiNiO3」を改質すると巨大な負熱膨張が起こることなどを解明してきた。しかし、別のペロブスカイト型酸化物「PbFeO3」の電荷分布は解明されておらず、今回その解明に挑んだという。

PbFeO3の結晶構造を調べるため、走査透過電子顕微鏡、大型放射光施設SPring-8の放射光X線粉末回折実験、ポールシェラー研究所およびオークリッジ国立研究所での高分解能中性子回折実験という3種類の方法による解析を実施したところ、ペロブスカイト型構造(一般式:ABO3)のAサイトに、Pb2+とPb4+が1:1で秩序配列した結晶構造を持っていることが判明した。

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    PbFeO3の結晶構造と、走査透過電子顕微鏡象の比較。Pb2+のみの層と、Pb2+とPb4+が1:3の層2枚が交互に積み重なるため、後者に挟まれたFe1と、前者と後者の間のFe2が存在する。また静電反発のため、Pb4+を含むPb-0層感の間隔が広くなっている (出所:共同プレスリリースPDF)

Pb2+とPb4+が1:1で含まれることについては、SPring-8の硬X線光電子分光実験においても確認された。

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    硬X線電子分光実験の結果と、決定されたPbイオンの平均価数。PbFeO3では、Pb2+とPb4+が1:1で存在し、平均価数が3価であることが見て取れる (出所:共同プレスリリースPDF)

また、鉄イオンがFe3+であることは、メスバウアー分光実験によっても確認され、これらの実験の結果、Pb2+とPb4+の配列は、層状と岩塩型の中間で、これまでに見つかっていなかった特殊な形であることが明らかとなったのである。

また、この特殊なPb2+とPb4+の秩序配列のために、周囲の環境の異なる2種類の鉄イオンが存在し、そのことが418K(144.85℃)で磁化の方向が変化するスピン再配列につながることが、第一原理計算によって解明された。

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    第一原理計算によるスピン再配列の機構解明。熱膨張で結晶格子が歪むことで、2種類の鉄イオンの磁気異方性の強さが変化して、スピンの方向が変化することがわかる。光子歪みは収縮が正に定義されている (出所:共同プレスリリースPDF)

国際共同研究チームによれば、今後、BiNiO3同様、PbFeO3に化学置換を施すことで、温度の上昇でPb2+Fe4+O3への変化が起きるようにすることができれば、半導体製造装置のような高精度な位置決めが求められる場面において、熱膨張によるズレを抑制できる「負熱膨張」の発現も期待されるという。

また、これまで2つの磁性イオンの存在が必要だと考えられていたスピン再配列が、鉛イオンの電荷秩序によって起こることが明らかになったこと、そして室温を遥かに超える高い転移温度を持つことから、外場で磁化の方向を制御する新しいスピントロニクスデバイスへの応用につながることも期待されるとしている。