米マイクロソフトが、「Work Trend Index」の最新調査結果を発表した。そのなかで、日本においては、コロナ禍でも業務の生産性が変わらないとの回答が63%に達している一方で、グローパルに比べて孤立していると感じる社員が多いこと、ストレスや疲れを感じている社員が多いことが示された。

Work Trend Indexは、コロナ禍における世界中の働き方を、Microsoft TeamsやLinkedInなどの利用動向や、ユーザーのアンケートをもとに明らかにする調査で、2020年4月以降、数カ月ごとに新たな情報を公開してきた。

新たな調査結果は、31カ国、3万人以上から得られた知見をまとめたもので、コロナ禍の1年を振り返る内容となっている。

米マイクロソフト Microsoft Teamsゼネラルマネージャーのニコール・ハスコウィッツ(Nicole Herskowitz)氏は、「この1年で働き方が根本的に変わった。フレキシブルな働き方が重要になっており、人のつながり方も変わった。今回の調査結果からは、ビジネスリーダーが知っておくべき7つのハイブリッドワークのトレンドが明確になった」とした。

  • 米マイクロソフト Microsoft Teamsゼネラルマネージャーのニコール・ハスコウィッツ(Nicole Herskowitz)氏

7つのトレンド

1点目は、「柔軟な働き方はこれからも続く」という点だ。

67%の社員が、チームと直接、接する時間を増やしたいと考えており、リーダーの66%がハイブリットワークのためにオフィスの再設計を計画しているという。また、社員の73%はリモートワークを維持したいと考えているが、10人に1人は自宅に十分なインターネット環境が整備されていないという。

  • 社員の73%はリモートワークを維持したいと考えている

    社員の73%はリモートワークを維持したいと考えている

ハスコウィッツ氏は、「社員の期待が変化し、徹底したフレキシビリティが求められている。社員は新たな働き方を取り入れたいと考えており、ツールを活用して、いつでもどこからでも、好きな時間にアクセスたできるようにしたいと考えている。経営者はツールを提供し、インターネットの接続環境が用意されていることを確認する必要がある」とした。

2つめは、「リーダーは従業員の実態を把握しきれておらず、注意が必要である」という点だ。

調査では、リーダーの61%が、コロナ禍でも繁栄していると回答しているが、意思決定権限のないリーダーの回答では、繁栄しているという人が、それよりも23ポイント低い。とくに、Z世代や女性、フロントワーカーは、過去1年間の仕事に最も苦労したと回答としており、ギャップがあることがわかったという。

  • リーダーと社員間での認識の差

米マイクロソフト Modern Work, Life, & Gaming担当シニアコミュニケーションズマネージャーのロニー・マーティン(Ronnie Martin)氏は、「社員に比べると、経営者は仕事がしっかりとできている。だが、社員は、自分たちの苦労を、リーダーたちが理解してくれていないと感じている。リーダー同士はうまく連絡が取れており、休暇も取れているが、社員はそれが実現できていない。とくに、Z世代や新入社員、単身者などが苦労を強く感じており、会社から多くのことを求められていると思っている。こうした層は体験が違っていることを、リーダーは理解しなくてはならない」とした。

  • 米マイクロソフト Modern Work, Life, & Gaming担当シニアコミュニケーションズマネージャーのロニー・マーティン(Ronnie Martin)氏

3つめの「生産性が高まっている一方で、従業員の疲労が見えにくくなっている」という点だ。

調査では、54%の社員が過労を感じているという。また、2月に配信されたメール数は、前年同月に比べて406億通も増加しており、Teamsユーザーは、毎週45%も多くチャットを送信し、時間外のやりとりでは42%も増えたという。そして、会議の時間は2.5倍に増加しており、3倍に増加しなかったのは、オーストラリアと中国だけだったという。

  • 会議やチャットの量が大幅に増加

「社員は、仕事量が増加し、一日が張りつめており、疲労を感じている。チャットの50%が5分以内の返事となっていることもそれを加速している。会議にかける時間と、チャット数は、まだ増加傾向にあり、あがりきっていない」(マーティン氏)と指摘した。

4点目が、「Z世代は危険な状態にあり、あらためて元気づける必要がある」という点だ。

Z世代の60%が現在苦労をしており、どの世代よりも比率が高いという。

「Z世代が苦労していることが見過ごされているのではないか。若くて独身であったり、キャリアが浅い人たちは、十分なトレーニングが行われておらず、人とのネットワークもできていない。モチベーションを高めることに苦しんでおり、キャリア形成がうまくいっているのかを不安に思っている」(ハスコウィッツ氏)という。

  • Z世代は苦労している

5つめが「人的ネットワークの縮小により、イノベーションが危機にさらされている」という点だ。

Teamsによる会議とメールの活用によって、それ以外のつながりが減少。チャットを利用する人が87%増加しているが、小グループや1対1でのチャットは5%減になっている。戦略的に考えたり、新たなアイデアを提案したりといったことが難しいとの声も多いという。

「部門外とのネットワークができず、サイロ化したネットワークに留まり、それがイノベーションを阻害することにつながっている。オフィスでは、偶然出会って、コミュニケーションや議論を行うということがあったが、そうしたことが難しくなっている。ただ、ハイブリッドワークが可能なオフィスが作られ始め、少しずつ解決がはじまっている」(ハスコウィッツ氏)とした。

ニュージーランドと韓国では、ロックダウンによって、コラボレーションが途切れたかが、それが解除されて、改善されたという結果が出ているという。

6つ目が、「信頼によって生産性やウェルビーイングが高まる」という点だ。

5人に1人が、バーチャル環境で、社員の家族やペットにあったと回答。6人に1人が、会話を通じて泣いたと回答。

「仕事において、人間的な関係を構築できるようになったという声があがっている。同僚の弱さを感じたり、お互いに学ぶことができた。ウェルビーイングを向上させ、関係構築の強化につながっている。」(ハスコウィッツ氏)とした。

そして最後が、「ハイブリッドな働き方の世界では、才能があらゆる場にあふれている」ということだ。

リモートワークが可能になったことで、46%の人が1年以内に、家族の近くや、コミュニティの近くなどの新たな場所に移動する予定だと回答。一方で、LinkedInにおけるリモートワークに対する求人は、コロナ禍で5倍以上に増加。女性やZ世代、あるいは学位を持たない女性などが、リモートワークの仕事に応募することが増えるという。

「リモートワークへの移行は、経営層にとって、多くのタレントプールを手にすることを意味する。多くのタレントがリモートワークに興味を持っている。Z世代や女性も、大都市に行かなくても済むリモートワークで働きたいと考えている。新たな人材を手に入れるチャンスが増えた」(ハスコウィッツ氏)とした。

今回の調査結果から、ハスコウィッツ氏は、「ビジネスリーダーは、新たな働く世界を意識しなければ、社員を失う可能性があると考えなくてはいけない。2019年には、70%の人が、2年間はいまの会社にいるとしていたが、今回の調査では41%の人が来年にはいまの会社を辞めることを検討している。人材が離れないような対策が必要である」としたほか、「すべてのビジネスリーダーは、社員の能力を強化するために、柔軟な働き方ができる環境を実現すること、フィジカルとデジタル社会を橋渡しするための投資をすること、デジタルによって生まれる疲労をトップダウンで解決し、ウェルピーイングの向上につとめること、社会資本と文化を再構築すること、人材を保持するために社員のエクスペリエンスを高めることが重要である」と提言した。

日本の特徴

一方、日本では、次の4点でグローバルとは異なる結果が出たという。

ひとつめは、生産性のレベルが前年と変わらないとした回答が、日本では63%に達しているという点だ。グローバルでは40%に留まっている。

これは、グローバル平均に比べて、日本の社員が、コロナ禍においても生産性を維持できたということを示したものだ。その点では評価することができる状況ともいえよう。

ただ、これも見方によっては視点が変わる。 たとえば、日本の生産性は、もともとグローバルで見ても低い傾向があり、今回の調査で、グローバルの生産性の高さを超えたというわけではないという点だ。その水準については、今回の調査からは明らかにはなっていないが、この結果を手放しで喜べないことは気をつけておいた方がいい。

また、日本ではリモートワーク環境の整備が、先進国のなかでは遅れていたため、それが整備されたことも考慮する必要がある。リモートワークが広がっていた欧米諸国では、コロナ禍では、リモートワークにおける制約が課された状況でもあり、その結果、生産性が下がったと判断しているケースも想定されるからだ。これに対して、日本では、出社しなくすむリモートワークを新たに導入した結果、生産性が維持されたとの回答が多かったともいえる。また、日本では、引き続き、出社をする社員が多かったことも、考慮しておいた方がいいだろう。

2つめは、勤務する平日において、日本では35%の社員が「孤立」を感じている点だ。グローバルでは27%となっており、日本の社員の方が孤立を感じるというネガティブな結果になっている。

また、3つめは、日本の社員の48%が疲れを感じており、グローバルの39%、アジアの36%よりも高い結果が出ているほか、ストレスを感じている社員は45%となり、グローバルの42%、アジアでは39%を上回っている。日本の社員が、コロナ下での勤務において、疲れやストレスを感じているというネガティブな結果だ。慣れないリモートワークが、社員にとってはマイナスに働いているようだ。

そして、4つめは、1年以内に転職を検討する可能性があるという社員は、日本は38%であり、グローバルの41%よりも低い。日本の企業の雇用形態や文化なども影響しているといえるが、この結果からは、リモートワークなどの新たな働き方に対する日本の企業の対応には、一応の成果があがっているとみてもよさそうだ。

  • 日本では、この4点でグローバルとは異なる結果になった

今回の日本の社員の意識調査の結果について、米マイクロソフト Microsoft Teamsゼネラルマネージャーのニコール・ハスコウィッツ(Nicole Herskowitz)氏は、「それぞれの国の文化や地政学的な要素も影響している」としながらも、「日本の社員にストレスが多く、疲れているという結果が出たことは、日本の経営者が考えるべきテーマのひとつが示されといえる」と指摘。「会議と会議の間に、5分や10分間の休憩を挟み、ストレッチをしたり、お茶を飲んだりといったことができれば、生産性を高めることにもつながる。また、休暇を奨励することも大切である。これがストレスの緩和や疲れの緩和にもつながるだろう」とした。

さらに、「マイクロソフトでは、ツールやソリューションのなかでも、働き方の課題に対する解決策を提示している。たとえば、バーチャルコミュートの機能がそのひとつだ。通勤するために、満員電車に乗ったり、渋滞に巻き込まれることは苦痛だが、ルーティーンとしての通勤時間が重要だったという声もある。一日に終わりには、仕事を振り返り、次にどうするかといったことを考える時間が必要であり、そのための時間を、Microsoft Teamsのなかで用意するといったことも行っている。瞑想を行う時間を持つことで、ウェルビーイングにも配慮できる。こうしたツールによって提供される機能は、ポジティブな効果がある。経営者が改善する部分と、社員がツールを活用して改善できる部分がある」語った。