ロシアのスコルコヴォ科学技術大学(スコルテック)と、米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)からなる研究チームは2021年3月15日、有人月周回拠点「ゲートウェイ」と月面を往復する有人月着陸船にとって、性能とコスト面から最も最適なのは、液体酸素と液体水素を推進剤とする再使用可能な単段式の機体であるとする研究成果を発表した。

数十種類の選択肢を分析した結果導き出されたもので、現在国際協力で進められている「アルテミス」計画など、将来の有人月探査ミッションの実現に役立つ成果だとしている。

この論文は、同日付けで論文誌『Acta Astronautica』に掲載された。

  • 月周回有人拠点「ゲートウェイ」

    宇宙飛行士や補給物資、観測機器などを乗せ、月周回有人拠点「ゲートウェイ」と月面を往復する月着陸船の想像図 (C) NASA

継続的な有人月探査実現のための「究極」の回答

1972年に、アポロ計画最後のミッションである「アポロ17」の乗組員が月を離れて以来、人類は月へ戻ることを切望してきた。

そして2017年、米国は2024年までにふたたび有人月着陸を実施することを目指した「アルテミス」計画を発表した。このアルテミス計画では、アポロのようにただ月に行って帰ってくるのではなく、継続的に月を探査し続けることが定められており、月を回る軌道に有人月周回拠点「ゲートウェイ」を建造し、そこを拠点にして宇宙飛行士が月に降りたり、帰ってきたりすることになっている。

このとき、宇宙飛行士や補給物資、観測機器などを乗せて、ゲートウェイと月面を往復する月着陸船の構成には、いくつもの選択肢が考えられる。たとえば、どんな推進剤を使うのがいいのか、単段式か多段式か、機体を再使用するのがいいのかといった要素があり、さらに月面にどれだけのペイロードを持ち込むのか、そして月からどれだけの石などを持ち帰ってくるのかなどによっても、その最適な構成は大きく変わってくる。

そこで、ロシアのスコルコヴォ科学技術大学(スコルテック)と、米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者からなる研究チームは、こうしたミッションにとって最適な選択肢を導き出すための数理モデルを開発した。

研究チームはまず、ゲートウェイの軌道は実際の検討と同じくNRHO(Near rectilinear halo orbit)にあるとし、4人の宇宙飛行士が月の南極に約7日間滞在。また、月面に送り込むペイロードの質量を500kg、月面から持ち帰るペイロードの質量を250kgと仮定した。

そのうえで、機体を構成する段数については単段式から2、3段式の多段式を選択肢とし、また推進剤の組み合わせも液体酸素と液体水素、液体酸素とメタン、そしてモノメチルヒドラジンと四酸化二窒素を選択肢とするなど、39種類にもなる月着陸船の構成を比較検討した。

そして、そこから性能とコスト面から最も最適なものを絞り込んでいった結果、液体酸素と液体水素を推進剤とする再使用可能な単段式、ないしは3段式の機体が最適であるという結論に至った。また、数十回のミッションを実施することを想定するなら、製造コストと打ち上げコストの点から、単段式がより優れるとしている。

ちなみに、アポロ計画で使われた月着陸船は、降下モジュールと上昇モジュールから構成される2段式で、2人の宇宙飛行士を乗せて月面に降り、そして降下モジュールを残して月面から離陸するという仕組みが採用されていた。アポロ計画は宇宙船も含めたすべてのシステムを地球から打ち上げる必要があったため、使い捨て型の2段式という仕組みが最適だった。

しかし、月軌道上に拠点となるゲートウェイがあり、そして着陸船を再使用することを前提とするなら、今回のように最適な仕組みは変わってくる。また、ゲートウェイがなければ、選択肢のひとつである3段式のシステムは実現不可能だとしている。

  • 月周回有人拠点「ゲートウェイ」

    ゲートウェイと月面を結ぶ月着陸船の概念図 (C) Skoltech

研究チームのひとり、スコルテックのキール・ラティシェフ(Kir Latyshev)氏は「興味深いことに、ゲートウェイがあっても、アポロのような2段式のシステムは質量を少なくでき、したがってコストも安くできる可能性があることがわかりました。しかし、機体を再使用することで、真に最適な方法が変わるのです」と語る。

「機体を再使用した場合、機体の質量そのものは2段式より重くなってしまいます。しかし、毎回新しい機体を製造して地球からゲートウェイへ輸送する必要がなくなるので、コストが安くなり、その結果ミッション全体のコストも安くできる可能性があるのです」。

こうした研究は、月着陸機を開発しているNASAや民間企業などもそれぞれ独自に行なっているが、その詳細は明らかにされておらず、数理モデルや検討のプロセス、検討結果などが詳しく公開されたのは、この研究が初めてだという。

なお、これは暫定的な分析であり、宇宙飛行士の安全性、ミッションの成功確率、プロジェクト管理のリスクなどは考慮していないとしている。

ラティシェフ氏は「こうしたこと(安全性など)を考えるのは非常に難しいです。たとえば、月面に降下する際に緊急事態が発生した場合、多段式の機体のほうが、単段式よりも安全に帰還できる可能性があります。しかし、多段式はシステムが複雑になるため、単段式よりも故障のリスクが高くなるという側面もあります。これらはトレードオフの関係にあるため難しいのです」と、その理由を語る。

研究チームは今後、研究をさらに拡大し、将来の有人月探査プログラムで必要となるインフラ全体のシステム構成を探る研究をしたいとしている。

  • 月周回有人拠点「ゲートウェイ」

    アルテミス計画で有人月探査活動を行う想像図 (C) NASA

参考文献

Lunar human landing system architecture tradespace modeling - ScienceDirect
Skoltech | Skoltech and MIT researchers identify optimal human landing system architectures to land on the Moon
Gateway | NASA
More About the Human Landing System Program | NASA