AMDは第3世代EPYCを華々しく発売した3月15日に、(EPYCに比べるとややこっそりと、という感はあるものの)Ryzen Pro 5000シリーズプロセッサを発売した。こちらについて事前説明がオンラインで行われたので、この内容をご紹介したい。ちなみにRyzen Pro 5000といってもMobile向けであり、まだDesktop向けの発表は行われていない。

  • AMD Ryzen Pro 5000シリーズ

まずマーケットであるが、毎年シェアは確実に伸びており、また搭載ノート製品の数も着実に増えているとする(Photo02)。さてそのRyzen Pro 5000 Mobileであるが、これは既に発表されているRyzen 5000 MobileのPro版という事で、Ryzen 5000 Mobileの性能に、Pro版のSecurity Featureを組み合わせたものという事になる。

  • Photo02: 今年は63製品が予定されているとの事。右のシェアは具体的な数字が欲しかったところではある。

  • Photo03: EPYCの説明でも色々セキュリティ周りが拡張された話をご紹介したが、これがそのままRyzen Pro 5000 Mobileでも有効になっているという話である。

さてその製品ラインナップであるが、Ryzen Pro 5000 MobileはZen 3、つまりCezanneコアのみとなる。将来的にはWorkstation向けにRyzen 5000H/HS MobileのPro版が出る可能性は否定できないが、現時点ではTDP 15WのU-Seriesのみの提供である。スペック的にはRyzen 7 5800U/Ryzen 5 5600U/Ryzen 3 5400Uの3つの製品のスペックそのままにPro向けの拡張を行った(というか、Consumer向けに無効にしていたSecurity/Management Featureを有効にした)ものが、50番増しでRyzen 7 Pro 5850U/Ryzen 5 Pro 5650U/Ryzen 4 Pro 5450Uとして提供される形になる。

  • Photo04: 下段はコンシューマ向けで、こちらはCezanneとLucienneの混在になるという話は既に伝えた通り。

このRyzen Pro 5000 Mobile、当然競合はIntelのTiger Lakeベースの製品となる。具体的にCore i7-1185G7とRyzen 7 Pro 5850Uとの比較がPhoto05と06、Core i7-1185G7とRyzen 5 Pro 5650Uの比較がPhoto07である。またIntelはしばしば「メインストリームマーケットで8コアは要らない」としているが、これに対するAMDの反論がこちら(Photo08)。ワークロード次第では8コアを使う機会はそれなりにあり、その際により高い性能が確保できるとしている。また、これはIntelではなくAMDの従来製品との比較であるが、MobileMark 2018でのバッテリー駆動時間が更に伸びた、としている(Photo09)。

  • Photo05: こちらはSynthetic Benchmarkがメイン。まぁ一応示してみた、という感じ。

  • Photo06: むしろ力を入れているのはこちら。PCMark 10のApplication testの結果であり、Core i7-1185G7と同等以上であるとしている。

  • Photo07: PCMark 10 Application Benchmarkのスコアでも4%のアップ、としている。

  • Photo08: シナリオとしては判るのだが、さすがに「画面が足りない」という気がする(セカンダリディスプレイを繋いで使うとか、Officeの画面をZoomで公開なんてのはありそうだが)。

  • Photo09: ちなみにこれは53WHrのバッテリーを利用した場合の数字だそうだ。

この性能ベンチマークについてはもう少しオマケがある。Sysmarkを含む、複数のProductivity BenchmarkでRyzen Pro 5000シリーズはCore i5-1185G7より6~10%高速(Photo10)であり、CPU単体性能で言っても7~20%高速(Photo11)、SYSMarkを挟まない従来の結果で言えば5~25%高速(Photo12)としている。

  • Photo10: 個々のスコアを出してほしいところではある。

  • Photo11: Single CoreとMulti Coreの性能の幾何平均というあたりでコア数が多いRyzen Pro 5000シリーズに有利な感は否めないが。

  • Photo12: SYSMarkを挟まない理由は、Ryzen 7 Pro 4750Uのスコアが無い(取ってない)ためと思われる。

ただこうしたベンチマークは「実際の利用シーンに合わない」とIntelが主張した事への反論として、AMDも独自にRWT(Real World Test)を策定した。アプリケーションはこんな感じ(Photo13)で、シナリオはこんな感じだ。概ね1ターン6~12分ほどを要する作業であるが、これの所要時間を測定することで性能を測定する、というものだ。これを実際に行ったところ、Ryzen 7 Pro 5850Uが430sec、Intel Core i7-1185G7が467secほどの所要時間となり、結果AMDの方が9%程高速という結果になったという。

  • Photo13: 個人的にはEdgeと7-Zipを使わない(その代わりVivaldiとExp.lzhを使う)という差はあるが、ブラウザに関してはEdgeもVivaldiもChromiumベースなので、まぁこれでいいだろうという気はする。

  • Photo14: これのスクリプトファイルとかを公開してくれればなおベターであるのだが。

このシナリオとか利用するアプリケーションの是非は当然あるだろうが、一時期シナリオの正当性をめぐって完全に喧嘩別れになった(SYSMarkの測定法がフェアではないとしてAMDがSYSMark開発元であるBAPCo Consortiumから2011年6月に脱退し、以後AMDはSYSMarkを評価に使っていない)のが、今回久々にSYSMarkのスコアが出てきた事になる。ただ個別にSYSMarkを使う、という感じにはなっていないあたり、別にBAPCo Consortiumに戻るという訳でもなさそうだ。IntelもやはりRWTを独自に設定しているだけに、このあたりで歩み寄りが見られれば、エンドユーザーにとっては有益であろうとは思うのだが。

さてベンチマークの話はこの程度にして、Ryzen Pro 5000シリーズの話へ。Ryzen 5000シリーズとの違いはそんな訳でAMD Pro(Photo16)ということになるが、基本的にここは従来のAMD Proとの大きな違いはない。違いとしては、第3世代EPYCのレポートでも書いた、Zen 3コアでのセキュリティ周りの強化と、あとはFIPS 140-3への対応だろうか。"AMD Shadow Stack"というのはここに出てくる"CET Shadow Stack"の事である。FIPS 140-3は、搭載されるSecurity Processor(Arm TrustZone対応のCortex-A5)がFIPS 140-3に準拠「予定」(現時点ではまだテスト中らしい)という話である。既にHP(Photo18)とLenovo(Photo19)はラインナップを予告しており、他にPhoto02にもある様に今年は63製品が投入とあるから、それ以外のメーカーからも順次製品が投入されることになると思われる。

  • Photo16: AMD Proの3本柱。この部分は特に変化はない。

  • Photo17: 多層防御の概念図。Zen 3アーキテクチャで色々追加された部分がある。

  • Photo18: HP Probook Aeroとx360 435 G8はAMDモデルのみの発売になるらしい。

  • Photo19: ThinkPadがT14Sしかなく、他がThinkBookなのがちょっと残念(筆者はTrackpoint至上主義者)。