SAPジャパンは2月17日、2021年度のビジネス戦略関する記者発表会をオンラインで開催した。代表取締役社長の鈴木洋史氏は、1月に発表した「RISE with SAP」などの製品戦略を打ち出すとともに、本社の移転、自治体向けに進めるワクチン接種管理サービスなどについて説明した。

  • SAPジャパン 代表取締役社長 鈴木洋史氏

2020年の売上は2014年の2倍規模 - DX追い風に成長

2020年4月に代表取締役社長に就任した鈴木氏、初年度となる2020年を振り返り順調な成長をアピールした。SAPジャパンの2020年の売上高は、前年比で11%増加し、約13億ユーロ(約1650億円)に到達。同社は2014年より毎年前年比で売上高をアップさせており、2020年の売上高は2014年の2倍の規模だという。「2桁成長を堅守できた。全ての売上項目でグローバルの伸び率を上回った」と鈴木氏は報告する。

  • SAPジャパンの売上高の推移

なお、グローバルでの業績も好調だ。その証として、クラウド事業の売り上げが前年比18%増の82億4100万ユーロ、総売上高は1%増の278億9700万ユーロなどの数字を鈴木氏は紹介した。出張自粛やイベントのバーチャル化により営業利益は4%増、これは修正後の見通し範囲の最高値だという。

  • SAPのグローバルの業績

2020年の振り返りとして、鈴木氏は顧客のDX(デジタルトランスフォーメーション)支援の重点エリアとして掲げていた以下の5分野について、それぞれの成果を報告した。

  1. ナショナルアジェンダ
  2. デジタルエコシステム
  3. 日本型インダストリー4.0
  4. クラウド
  5. エクスペリエンスマネジメント

例えば、ナショナルアジェンダでは、コロナ禍での特別定額給付金問い合わせWebサービスが、日本の総人口の10%をカバーする20の自治体で採用されたという。

デジタルエコシステムに関しては、SAP認定コンサルが予想を上回り増加したことを取り上げた。「DXが追い風でSAP認定コンサルの数は前年比24%増の約3500人が新たに取得した」と鈴木氏。これにより、総数は1万8000人を超えるレベルに達したが、この数は、2018年のレベルと比較すると倍増という。

また、クラウドに関しては、2020年5月に発表した「HXM(ヒューマンエクスペリエンス管理)」を紹介した。「SuccessFactorsとQualtricsを中核に、9社のパートナーソリューションを組み合わせたデジタル時代の人材マネジメント」と鈴木氏。調達や経費などインテリジェントスペンド、カスタマーエクスペリエンスなどについても順調に成長しているとのことだ。

なお、5つの重点分野に関連して、SAPジャパンはイノベーション、社会問題など5分野についてDX取り組みなどを表彰する「SAP Japan Customer Award」を新設、同日5部門(Japan Society、Innovation、Japan Industry 4.0、Cloud Adoption、Experience Management)の受賞企業を発表している。

  • 「SAP Japan Customer Award 2020」の受賞企業

「RISE with SAP」でコアERPのクラウド化をプッシュ

2021年の戦略としては、2020年の5分野を継承しつつ、全体に横断して次の3分野に注力するという。

  1. クラウドカンパニーとしてさらに深化する
  2. お客様の成功にとってなくてはならない存在となる
  3. お客様そして社員から選ばれる会社となる

「クラウドカンパニーとしてさらに深化する」の中心となるのが、SAPがグローバルで1月に発表した「RISE with SAP」だ。RISE with SAPについて鈴木氏は、「多くの企業がビジネス変革を通じて根本的課題を解決しようとしている。RISE with SAPはそれを支援するもので、あらゆる業種、あらゆる規模の企業を対象に、ビジネスの課題に対応するために提供するDXの実現に最適なコンシェルジュサービス」と紹介する。

狙う効果は、ビジネスの回復力、業務効率、俊敏性の改善だ。これによりイノベーションの速度と頻度を高めることができると鈴木氏。一方で、RISE with SAPは、これまでのSAPの取り組みでは不十分だったところを補う意味合いもあるようだ。

鈴木氏はまず、「これまでSAPは人材管理、経費精算、調達購買など特定の業務領域に特化したクラウドポートフォリオの拡大を進めてきた」と前置きしながら、RISE with SAPでは「クラウド化への流れの中で、コアERPソリューションのクラウド化を本格的に推進する」と説明した。

「SAP S/4 HANA Cloudは提供開始から2年で世界の3000社が導入した。多くは新規。顧客との対話を通じて、カスタマイズされている既存のコアERPのクラウド化への支援が最重要と認識した。そこでRISE with SAPを提供することにした」と明かす。

RISE with SAPは、「既存の業務プロセスのレビューと再設計」「テクニカルマイグレーション」「インテリジェント・エンタープライズの構築」と3カテゴリの要素を備える。

すでに2020年よりパイロットがスタートしており、グローバルでは130社、日本でも4社がパイロットに参加しているとのこと。2021年は拡大を本格化する計画だ。

このほか、2020年の年次イベント「SAPPHIRE Now」で発表された業界別クラウド(インダストリークラウド)、CO2排出量の追跡と可視化「Climate 21」も、日本での提供を本格化していく計画だ。

「クラウドカンパニーとしてさらに深化する」のナショナルアジェンダの取り組みの1つが、今月発表した「ワクチン・コラボレーション・ハブ(VCH)」だ。グローバルでは2020年11月にスタートしており、日本でも提供を開始する。

  • 「ワクチン・コラボレーション・ハブ(VCH)」の概要

VCHはワクチンの供給と流通管理を強化し、政府と業界パートナーによる集団ワクチン接種プログラムの調整と展開を支援するもので、「バリューチェーン可視化」「サプライチェーン計画」「ミッションコントロール」の3階層のサービスとなる。

日本でもワクチンの接種が始まることもあり、「市民の考えを理解し、正しい情報通知を通じて意識を向上させ、ワクチン接種への躊躇を減らしたい。これにより予防接種プログラムへの成果向上に寄与できれば」と鈴木氏は述べた。

LINEとの協業により、職員の作業を効率化するなどの特徴も備えるという。正式な導入が決まった自治体はまだないが、現在、複数の自治体と取り組みを進めているという。

新たな働き方に向けて本社を移転、就業の場からコラボの場へ

「お客様の成功にとってなくてはならない存在となる」では、顧客がSAPソリューションを検討する段階から採用、導入、フル活用、拡張とすべての過程の中でも、導入と活用段階を強化する。これにあたり、SAPジャパンの組織体制も拡充するが、ポイントはカスタマーサクセス部門だ。

カスタマーサクセスに所属するのは採用、導入、活用、拡張のプロセスに関わる社員で、SAPジャパンの1600人の従業員のうち1100人。このうち530人が導入担当のコンサルやSAPソリューションの活用向上を支援するなど、ポストセールスの業務に携わっているが、今年度はさらに40人規模で増員する計画だという。

「お客様そして社員から選ばれる会社となる」については、「社員が成長する機会を提供し、社員がチームで働く喜びを実感し、自分の業務にやりがいと誇りを持って働くことが不可欠」と、鈴木氏は説明した。

SAPは今月初め、コロナ禍で従業員の仕事に対する意識が変化していることを受け、オフィス移転計画を発表している。その背景について、鈴木氏は、調査から約5割の社員が週1~3日の出社、約4割がフルリモートを希望していることがわかった、と述べる。「社員がオフィスに求める役割は、同僚との共同作業、顧客やパートナーとのミーティングなど、コラボレーション、コミュニケーションの創造の場になった」

新オフィスはオフィスの総床面積を55%削減するため、コストの削減も見込むが、鈴木氏は「アフターコロナ時代に求められる、より柔軟な働き方への変革」が最大のモチベーションとする。

新オフィスとなる東京・大手町の三井物産ビルは、SAPが既にデジタルイノベーション施設として展開する「SAP Experience Center」、三菱地所と共同運営するビジネスイノベーションスペース「Inspired.Lab」がある大手町ビルに近く、本社と合わせて「SAPキャンパス」と見立ててフル活用する、と鈴木氏。なお、新オフィスには、現在銀座にオフィスを構えるコンカーも同時に移転することになる。

最後に鈴木氏は、中期変革プログラム「SAP Japan 2023 Beyond」の策定も報告した。社員100人以上が策定に参加したもので、デザインシンキング、アンカンファレンス、バックキャスティングといった新しいアイディア醸成の手法を駆使して、「日本発、世界に更なる躍動を。」をスローガンに掲げるという。